文体の舵をとれ 練習問題その1

 僕は詩を書いている。たまにだけど。良いものを書けばちやほやされるし、小説みたいな長編よりインスタントにその欲を満たせるからだ。それ以外の理由はなんもない。褒められたくなったら、他にやることがなくなったら、詩を書いている。
 ちやほやされることが3度の飯より大好きな僕は、他人の書いた文章を読むことに関してはそこまで好きではない。単純に面倒臭いのだ。とくに詩ってやつは短い文章の中にドン引きするほどの情報量が詰め込まれている。文章密度がゲロい。だから他人の作品を読み漁っているとすぐに疲れてしまう。
 かといって小説もフツーに無理だ。まず長い。とにかく長い。タイトルを見つめ、ページを開き、そして冒頭の一文を読んでからその先を想像しただけで……ゲロくそ長すぎる道のりがありありと想像されて、なんかもうぶっ倒れそうだ。
 そんな僕なので、ましてやハウツー本なんてものはきっと退屈すぎてしんでしまうだろうとはじめから決めつけていた。だからこれまで僕は、「文章の書き方」をきちんと勉強したことがないし、この先もすることなどないと思っていた。

 そんな果てしなく面倒くさがりな僕だが、友人が読んでいるというこの本『文体の舵をとれ』には例文作成の問題が設けられている。と聞かされたわけだ。
 たかをくくりにくくりまくっていた僕は、友人に対して、「へいへい、問題文だけよこしてみな。おっと例文なんて参考例は見せんなよ。そんなもん見なくともイケてる文章書いちゃるわい(意訳)」的なことを口走ってしまったのだ。

 そんなわけなのでうんちくやらはぶっ飛ばして突然に練習問題からはじめさせていただく。こんな自分とその友人のためだけのわけわからんテキストをわざわざ読んでいるようなやつがいたらすまない。とりあえず付き合ってくれ。

練習問題 1 『文はうきうきと』


 ただしラップでもマザーグースでもなく。だそうだ。リズムのある文体というものはそれこそ詩人の得意分野なわけで、小説こそ書いたことがないとはいえ、そこそこ長いこと書いてきた僕はヨユーのヨシヨシで人並み以上のもん作れるじゃろ感で溢れていた。
 そうして意気揚々と書き上げたのが以下の文章である。正確にはここに載せるにあたってちょっぴし推敲したものだ。まあさすがに詩を書くわけにもいかないので架空の小説の書き出しっぽくしあげた。

 その惑星の出来はといえば、もうてんでダメだった。
 我々、一部の恵まれた科学者達が、超大型の望遠鏡を使って遠巻きから眺めるぶんには、まあ、さほどこの地球と変わりがないのだが、実際に降り立ってみれば惑星内の動植物の総種数は驚くほど少ない。その数はといえば我々が科学者などと呼ばれるよりずっとむかし、物心が付き、読み書きを覚えはじめたばかりの頃合い、いつの間にやら本棚の中に収まっている「やさしめのサバイバルブック」と「なんちゃらかんちゃら原色図鑑」から、わずか10分の1ページづつ抜き出せば足りてしまうほどだった。
 それでもたったひとつだけマシなところを挙げるとしたら、その惑星の稼働環境はすこぶる安定していた。なんでもこの先10億年は保証されているといった具合らしい。それが科学者間でつねづね交わされるジョークの類ではないとすれば、だが。
 10億年。途方も無いはなしだ。
 その惑星は我々の住まうオリジナルアースにおける何らかの重要なシミュレートを行うために模造された4番目で、しかし、およそ誰の目にも明らかな失敗作だった。
 そこはビビりで神経衰弱な科学者たちによって長いこと長いこと、実に永いこと議論がなされ、その結果選び抜かれた名誉ある生態系と、なにがあろうと決して争うことのない遺伝子タイプ。最悪の場合内からも外からも「どうにか」してしまえる徹底された管理システムによって、およそ半永久的に守られていた。
 決して発展しないその惑星は、10億年より数えられることも忘れられた果てしなく先、約束どおり運命的に終焉を迎える。はじめから彼らにはそれを逃れようとする創造性が与えられていない。
 途方もなく、しかし逃れようのないその結末について、「はじめから我々はそこを懸念していたのだ」と言わんばかりに否定的な見解を発信し始めた科学者達はいま、件の4号星だけを指してこう呼ぶのだ。ミミックアース4と。
 いつかまったくの他人となるであろうその惑星に対し、愚かにも、自嘲的な意味を込めて。


 僕はSFが好きだ。書いたことはない。書くんならこんな感じがいいかな。ゆるゆると崩壊していくようなやつ。当然オチもなにも考えてないけれど、まあ10億年あるので大丈夫。こいつを送り付けたあと寝た。

 すると友人からルグヴィンのチョイスした実例文の切り抜きが4つほど送られてきた。

 野崎孝。僕はこの人の翻訳するサリンジャー作品『ナイン・ストーリーズ』を心の一冊としている。
 もちろんただ例文が良いというだけではない。そもそやたらと文体が良いのだ。ルグウィンの簡潔で正確な文章論。そこに無駄な言葉などはなく、リズミカルで、ウィットに富み、つまるところこの本はハウツー本のくせに惜しげもなく文学をしていた。
 てなわけでコスモショックを受けてしまった僕は、その日のうち、閉店ギリギリのオリオン書房へと本を買いに走ったというわけだ。

 ちなみに僕はnoteの書き方やらコツやら機能や
について、まだなんもわかってないため、やたら見辛かったりしたら申し訳ない。そんなこんなで勢いのままに始めたこの練習だけど、ともに切磋琢磨する人たちに、間接的ながらなんらかの気付きを与えられた良いと思っている。つーわけだ。さあ、楽しくお勉強しようぜ。

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