読書メモ『仕事の中での学習 状況論的アプローチ』(上野直樹)

概要
認知科学・社会学・文化人類学で注目されている「状況論」の本格的概説・研究書。従来、個人が何かを習得することと捉えられていた学習が、実は社会相互的に、テクノロジーや道具の使用を通して作り上げられるものであることを、旋盤工場や流通倉庫などの仕事場での人と人、人と道具のやりとりのエスノグラフィー的分析によって例証する。

目次
序章 状況論的アプローチ
1章 状況的行為
2章 道具とコンテキストのデザイン
3章 コミュニティの相互的構成
4章 社会を可視化するテクノロジー
5章 実践に埋め込まれた発達・学習

実験マニュアルのようなものは、あくまでリソースであり、マニュアルを深く理解することで、実験方法が理解できるのではなく、身体的に、また空間的に実験を組織化していく中で、マニュアルの示していることも理解可能になる(p.39)

「学習」
トカゲのテリトリーを観察可能にし、理解可能にした動物生態学者のように、なんらかの格子あるいはインスクリプションを用いることで、"個人"とか"個人の発達"といったものが可視的になっている(p.222)
学習とは、学習や発達を可視化し、焦点化する道具やその使用を含む、ある種の実践の組織化のあり方(p.236)

「知識表象とは何か」という問題と、「知識表象をどのようにして明らかにするか」という方法論の問題は切り離すことができない(p.230)
→明らかにしたいシステムと方法論は切り離せない
(例:会話のシステム→会話分析、個人の認知システム→表象主義アプローチ(頭の中の表象を前提とするタイプの実験法、観察法、インタビュー、質問紙など))

実際、こうしたモデル(ガニエの階層構造モデルやミラーのプランモデル)は、生徒の頭の中の知識や技能の構造を表現したものというよりは、学校的な環境における学習の管理のためのスケジュール表やプランのようなものである(中略)こうしたモデルは、学校的な教授のコンテキストにおいて、学習を管理する側が、子どもの振る舞いを秩序だてて、説明するためのリソースと言った方がふさわしい(中略)こうしたモデルは知識、知能、技能の品質管理の道具に他ならない(中略)問題は、管理のための道具が、しばしば管理の道具であることを越えて、実際に学習者はこのような道筋ですすべきだという混同が生じることである(中略)こうした知識表象モデルを用いることで、教授や教育においても、「ルールに支配される」(頭の中のルールに従って行為する)ことと「ルールを志向する」(ルールを行為のリソースとして用いる)ことの混同が生じている(pp.234-235)
→経験学習モデル、リフレクションサイクルのようなものがここでいう「スケジュール表」「教授者にとっての品質管理の道具」である。このモデルで、サイクルで進めること=リフレクションの達成ではない。このモデルで行わないとリフレクションとは言えない、とか正しいリフレクションはこの手順で行う、といった考えで行う実践は、ルールに支配されていると言える。実際のリフレクションは複雑な相互行為で達成されているはずである。

上野直樹 (1999) 仕事の中での学習 状況論的アプローチ. 東京大学出版会, 東京


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