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岡野大嗣めも
メモです。
岡野大嗣さんの『うれしい近況』を読んでいます。どれもこれも素晴らしいのだけど一首本当にすきなものがあるのでメモ。
言いかけてやめてやっぱり最後まで話してくれた うなずきながら/岡野大嗣
何を話していたんでしょうか。
言いかけて止めるくらいなので、きっと主体にとってはあまり喜ばしい話ではないのでしょう。愚痴かもしれないし、弱音かもしれないし、不満かもしれない。これを話すことで主体を困らせてしまうのではないか、と『きみ』はおそらく思っている。
でも話してしまう。
主体のやさしさやおおらかさに支えられて、あるいは自分の中の気持ちを支えきれなくて。それはきっと『きみ』にとっては後ろめたかったり、不甲斐なかったりする。だから一つ一つ確かめるように、頷きながらゆっくりと話す。
それに対する主体の受け止め方は「話して『くれた』」。どこまでもやさしくて、心がギュッとします。同じ景を詠んだって、たとえばこんなふうでもいいわけじゃないですか。
言いかけてやめてやっぱり結局は頷きながらあなたは話す/星谷麦(改悪)
こうなってしまわないのは、一重に岡野さんの柔らかな眼差しの賜物なんだろうなあ。
おわり。