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わかった気になってしまう

 辻村深月さんの『かがみの孤城』(上下)を読みましたので、感想を書き残します。ネタバレを含みますので、気になる方は避けてください。

描写で感じたこと

 視点は主人公「こころ」のものだった。主人公の年齢に合わせた、心情描写が上手だと感じた。それは、想像しきれないものを恐れたり、考えが破綻していたり、少しこどもっぽいところがある。それを、第三者の視点ではなく、主人公の視点から描写していた。考えてみれば、主人公の年齢や境遇をしっかりと意識した描写だったと言える。それゆえに、人物が想像しやすくなる。
 話が進むと、主人公以外の人物の視点から物語を見ることができる場面がある。主人公が、他の人物の記憶に触れる場面だ。そこでも、年齢や性格に応じた描写がある。それこそが、作家の腕なのではないかと思わされた。
 主人公の視点だからこそ、読者は主人公と同じものを見る。同じことに気づく。それでも、さりげない描写が伏線になっているあたりが、面白かった。この点については、わざとらしさを感じてしまって、予想できる部分が多かったように思う。わかりやすいというべきか。とっつきやすい表現とも言えるかもしれない。
 アニメ化もされる。人物の顔の描写がどうなるか気になる。特に喜多嶋先生。中学校の校舎も気になることろだ。あまり期待しすぎないようにしないといけない。

仕掛けで感じたこと

 時間というか年が違うということには、主人公よりも先に読者が気づく。これもまた、読者にもどかしさを感じさせる作者の技術なのだろうか。これだけのヒントがあればいけるだろというのは酷な話。だからこその主人公。7年の差がある。過去や未来を扱う作品によくあることだけれども、時間ってやつをどう考えているのかという話。
 時間は連続しているもので、繰り返すものではない。同じ時間を繰り返すことはない。同じ日付というのには、それほどの意味はない。数え上げていくと、まじでわからなくなるので、リセットする。もちろん、気候が似たような感じで繰り返しているので、同じ日付として考える方法もありかもしれない。
 明日のこの時間、来週のこの時間、来月のこの日、来年のこの日、数年後の……。このようなことが言えるのは、最大値を超えると、また1に戻ることが、共通の認識だからだ。暦が作られたからだ。同じ日ではないが、同じ日として扱うというのはまた面白い仕掛けではある。この暦法の中で生きていなければならない。もちろん、中学生になる前に亡くなってしまった女の子が作った世界なのだから、あまり気にすることはない。
 気になるのは閏年ということになる。これは作品の中でもヒントとして出てきた。閏年ではない人たちにとっては、存在しない日になっていた。それが可能だったのは、城に行ける時間帯を定めていたからだ。それに、他人の鏡からは移動できないこともよい設定だった。

作品を通して感じたこと

 子どもたちは、他人に対して踏み込むことを躊躇していた。少しずつ、お互いを理解し、ぶつかりながらも友情を育んだ。隣の家の女の子もそうだ。一歩踏み出すことが大切だという学びを得ることができる物語だった。自分から話しかけて、変なこと言って嫌われたらどうしよう、などというどうにもならない恐怖心。期待していた相手に、その期待を裏切られるくらいなら、何もしないほうがいい。そんな思考になったら、もちろん人間関係は深まらない。
 少しくらいぶつかっても、喧嘩になっても、自分の気持ちを伝えることと、相手の気持ちを受け止めることを諦めてはいけない。後半の子どもたちは、自分のことをはっきりと語れるようになった。自分を主張できるようになっていた。そして相手のことを受け入れることができていた。
 自分が自分らしく生きていくためには、勇気をもって相手と関わろうとしないといけない。気持ちを伝え合うことを諦めてはいけない。という感じだろうか。その点では、『竜とそばかすの姫』にも似たようなものを感じる。
 それに、わからないものは怖い。相手の気持ちは、完全にはわからない。完全に理解できることはない。理解しようとすることが大切だ。その心の持ちようが。そして、わからないものをわからないままにしておけることが、心の成長とも言えるのだと思う。考えても仕方ないことに思い悩むことはないのである。

さいごに

 今回は、知り合いがこの作品を読んだということを聞いていて、書店の目立つところに置いてあったことがきっかけで手に取った。好きな小説家といのは小野主上以外あまりいないのだが、他の作品も読んでみたいと思っている。それで言えば、『「十二国記」30周年記念ガイドブック』にも辻村深月さんの文章があり、勝手に親近感を覚えている。
 アニメ化の影響で書店で見ることになっているわけだが、アニメも見てみたいと思う。映画館に足を運ぶ質ではないので、いずれどこかで見れたらいいなぐらいのものだが、とりあえず、映画を見る前に、自分が書いたこの感想くらいは見返そうと思う。

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