私をいじめたあの子は、二十歳で死んだ
中学1年のときに仲良くなったクラスメイトがいた。仮に、彼女の名前をアキとする。
アキとは部活が違ったし、元々仲の良い友だちグループ(そう、あの女子独特のグループだ)も違ったけど、何をきっかけにか仲良くなった。私は内向的で自己表現が苦手、おとなしい13歳で、アキはそんな私をリードしてくれて、一緒にたくさん変なことをして、笑わせてくれる存在だった。アキと一緒だと、自分1人でできなかったことがたくさんできて、私にとって新鮮な友だちだった。
中学2年のクラス替えでも、また同じクラスになることができ、私はクラスの中で彼女との友だちグループの一員になった。グループの中でも、仲がいいほうだったと思う。
けれども、中学2年の夏休みの前に、アキは私を友だちグループから追い出すために、グループ全員で私を無視したのだった。
いきなり無視されて、その後話し合いなんてできなかったから、本当は何がきっかけだったのか、今でも真相はわからない。おそらく、友だちグループにアキが新しいクラスで仲良くなった子(仮にAとする)を招き入れ、一緒に行動を共にしていたのだが、Aが私のことを気に入らず、アキと相談して私をグループから追い出すことにしたんだろう。アキ、Aの他にもう2人の友人が仲良しグループだったが、その全員から無視されるようになった。私がグループから外されて3-4ヶ月後、また1人グループから追い出されたので、きっとこういうことだったんだろうと推測する。
今では、自分が無視されたことについて、自分に落ち度はないと思えるが、中学2年生の自尊心をボロボロにするには容易い出来事だった。
中学2年生女子にとっては、友だちグループに所属せずに学校生活を過ごすことはできなかった。ちょうど、夏休みの校外宿泊行事(2泊3日!)があり、部屋割りや活動グループでどこかに所属しなければいけなかった私は、まだ自分が無視されていることが受け入れ難くて、アキとAと同じグループになるしかなかった。他のグループに入ってしまったら、その子たちにも、私が無視されていることがわかってしまうから。その2泊3日の宿泊行事では、当然のように無視されて全く居場所が無く、ストレスで死にそうになりながら、トイレで1人泣きながら、心を殺して過ごした残酷な思い出になった。
自分は友だちに見捨てられやすい人なんだと思った。ほぼトラウマのような経験だ。そのトラウマは大学に入って友人に恵まれるようになってからだいぶ改善したが、社会人になってもなかなかキレイに消えて無くならないものだった。
夏休みを終えて、私は現実を受け入れ、アキやAときちんと距離を置くようになった。そんな最中、私にも新たに友だちができて、その子のグループに入れてもらうことになり、居場所問題は解決した。中高一貫の学校だったので、アキやAとも同じ学校ではあったが、クラスも以後被ることはなく、彼女らと無関係に過ごしていた。
高校2年のときだった。気づいたらアキが病的に痩せ細っていたのだ。ぴったりだった制服のシャツはぶかぶかになり、スカートから見える脚がほぼ骨と皮だけで、そんな脚でよろよろと廊下を歩く彼女とすれ違ったとき、私たちは目が合ったが、お互いに何も話さなかった。
心の病なのか、体の病なのか、彼女に何が起きたのか、彼女のコミュニティに全く関わりが無くなった私は知る由がなかったし、聞く義理もなかった。私を無視して傷つけたアキをいたわる義理なんてないし、アキが私のことをどう思っているかなんてわからなかったから。
高校を卒業するまで、アキはずっと痩せ細ったままで、時折担任の教師に支えられて歩く姿を見かけた。たまに廊下ですれ違うときは、必ずと言っていいほど目が合ったけれど、何も話さなかった。
そしてアキの訃報を、20歳のときに卒業生のメーリングリストで知ることになる。
死因は、明らかにされなかった。メールにはお通夜と葬儀の場所が書かれていたけれど、私は行かなかった。
行ってどうするんだ?行けばアキと同じ部活の仲間や仲の良かった友だちが泣いて悲しんでいるだろう。そんな中、私はどんな顔をして会いに行けばいいんだろう?
涙も出ず、何をどう考えていいのかもわからなかった。
なぜ10年以上前にこの世を去ったアキのことを思い出したかというと、Twitterでこんな内容を見かけたからだ。
私をいじめたヤツが、結婚して子どもを産んで幸せそうにしているのが許せない。
これを見て、アキのことが頭に浮かんだ。
私を無視して傷つけたあの子は、二十歳で死んでしまった、と。
どうしてこんなにアキのことを考えてしまうのかわからなくて、文章を打っている。
あんなに病弱になってしまったアキに、声をかけてあげられなかったから。
若くして死んでしまうほどの病気だったなら、最後に優しくしてあげたかったから。
アキのことをもっと恨んで、蔑んで、罵倒してやりたいのに、若くして死んでしまって可哀想で、素直に恨めなくなったから。
どうしてあの時無視したのって聞けなくなってしまったから。
もし廊下ですれ違った時に話しかけていたら、仲直りできていたのかもしれなかったから。
ぐちゃぐちゃと、想いが巡る。
私をいじめてトラウマを植えつけた奴は、二十歳で死んだ。
生きていても、死んでいても恨むんだったら、生きていてほしかった。
死んでから10年以上経って初めて、アキを想って涙を流した。