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半分くらい夢

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夢でみた景色をもとに短いお話を書いていきます
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#小説

環状線

電車から降りることができない。
多分ここは山手線だと思う。さっきおんなじ景色を見たような気もする。
わたしは、ドア付近の椅子に腰掛けていて、どこへ向かおうとも思っていない。ただ、どういうわけか降りるのが億劫で、それでもう何周もしている。
乗った時のことは、よく覚えていない。

私は思い出そうとする。だけどその記憶の糸を手繰り寄せようとすると、全く関係のないものばかり、次から次へと私の眼裏に浮かび上

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蒸発

「蒸発してますね、あなた」
「は?」
医者はこともなげにそう言った。
「蒸発、してます」
「蒸発ですか…?」
「はい。蒸発です」
彼がなにを言っているのか、理解できない。
「蒸発って、水とかを部屋に置いとくと、しばらくしたら水嵩が減ってる、あの蒸発ですか?」
「そうです、その蒸発です。こうしている間にも、あなた、少しずつ空気になっていってますよ、気付いてます?」
「え、そんな、困ります」
換気の行

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