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もしもあなたと逢えずにいたら ──奥会津を只見川と駆け抜ける ZEROtoSUMMIT 福島篇(39/47)中篇
[中篇]福島県柳津町〜只見町長浜/74.4km
※[前篇]阿賀野川河口~福島県柳津町/140.0km
ひと筋の川をたどって海から山頂まで走るZEROtoSUMMIT(ゼロサミ)という遊びをやっている。
その国内篇、全国各都道府県の最高峰まで海から走るゼロサミ47を2016年にはじめた。これまでに38座を走り終えている。
一時中断を経て、国内最難関と目するゼロサミ福島篇を再開した。
4日目(2022/9/23)
会津柳津駅~三島町川井 10.3km
スタートからゴールまで中断なしで一気に走り抜けるのが理想だが、毎回そうもできない。
海外展開後は複数回で走り継ぐこともあるだろうから、ここで引き出しを増やしておくことも重要だ。
ゲスト参加を予定していた某イベントが雨天で中止になったので、高速バス席を急きょ入手して朝から福島に向かう。
がしかし、東北自動車道で大渋滞。只見線への電車乗換にわずかに間に合わず、会津若松で四時間の待ち時間ができてしまった。
せっかくなので会津まつり開催中の鶴ヶ城界隈を歩く。
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仕切り直しでゼロサミ再開。
会津柳津駅まで移動し、小雨のなか只見川ぞいに南下を開始する。
すぐに真っ暗になり景色はゼロ。ひと気もなく、いつ熊が出てきてもおかしくない様相だが、四時間のロスを取り戻すためになるべく先に進んでおきたい。
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このあたりからぼくは奥会津という異界に迷い込んでいたのかもしれない。
道の駅 尾瀬街道みしま宿まで10㎞だけ前進した。寝支度をしていると、駐車中の車から大柄な男性がつかつかと寄ってくる。
なんだなんだ。
ぼくのなかで非常事態警報が鳴る。
しかしその正体は、ただの旅好きなおっちゃんだった。
奥会津に魅せられ、トラック運転手引退後、新潟から十数年この地に通い続けているそうだ。
暗闇の中に突如出現したぼくに興味津々のようで、車中に奥さんを残したまま半刻ほど話し込む。
夜中に土砂降りの雨。
寝てる間ならいくら降ってもいい。明日の分まで降り尽くしてくれ。
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5日目(2022/9/24)
三島町川井~只見町長浜/ 64.1km
暗く重い朝のなか、出発。
いつ雨が降り出してもおかしくない。
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三島町はテレサ・テンゆかりの地だそうだ。
彼女の人生について知らなかったことばかりで、その場でスマホでググりながら唸ってしまった。
福島の山奥でまさかテレサ・テンの数奇な生涯に思いを寄せることになろうとは。
だからお願い そばに置いてね
いまはあなたしか愛せない
子どものときによく流れていたこの曲の意味がすこしだけわかってきた気がした。
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奥会津の最深部に入っていく。
コンビニなどとうになくなり、集落や商店を見かけると無条件に嬉しい。
深い森、流れを失った川、ただよう朝もや。
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時が止まっているかのような静寂のなかで、メロディロード(タイヤとの摩擦で音が鳴るように舗装細工された道路)から聴こえてくる「カントリー・ロード」がしばらく響く。
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ダム湖ぞいの道はいたって単調で退屈である。前夜の福留孝介の引退試合をラジコで聴きながら進む。
生涯ドラゴンズファンのぼくは、彼にまつわる思い出が多い。やがて引退セレモニーが始まり、涙をこらえきれなくなった。
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福留の応援歌がぼくのなかで鳴り響いた
道の駅 奥会津かねやまで顔を洗い、気を取り直して走っていると、長岡ナンバーの白いバンが脇に停まった。
乗ってく?
同世代の男性に声をかけられる。
尾瀬まで走っていくので、と丁重にお断りすると、じゃあ任せるわと笑いながら去って行った。
奥会津ではいろんな人生が交錯し、通過し、そしてそれぞれの歌が流れている。
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このあたりは名水や温泉が点在しているため、それを目当てに訪れる旅人も多い。
今日も朝から何度か路傍の湧き水で喉を潤してきたが、大塩温泉の天然微炭酸水はとくにおいしかった。
かつてモロッコの山村で飲んだ天然炭酸水のことを思い出したが、20年以上前に飲んだその味はいつの間にか記憶の彼方に消えていた。
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「おかえり只見線」「まってたよ只見線」の横断幕やのぼりがあちこちで見られる。
ちょうど一週間後、新潟・福島豪雨被災から11年ぶりに運転が再開するのだ。
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会津のマッターホルン蒲生岳を右手に仰ぎながら只見町の町に入ると、「マトンあります」の看板がかかった焼肉店があった。
津川の馬刺といい、会津では牛や豚を禁忌する文化があるのかな。興味深い。
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ここで只見川と別れ、この先は伊南川をたどることになる。
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深沢温泉に到着。
只見町にここまで立派な施設があるとは予想外だった。
そしてようやくここでぼくは異界から抜けたのかもしれない。
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温泉で体をほぐし、ラーメンとカレーライスをたっぷり補給する。
奥会津から奥只見へ。
明日はいよいよ最深部に突入する。
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理想郷はあそこなのかもしれない
夢を見ているかのような景色だった
(後篇につづく)