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伊南川を越えて尾瀬へ! 日本海から燧ヶ岳へ300kmの走り旅 ZEROtoSUMMIT 福島篇(39/47)後篇

[後篇]只見町長浜〜燧ヶ岳〜御池/74.5km
※[前篇]阿賀野川河口~福島県柳津町/140.0km
[中篇]福島県柳津町〜只見町長浜/74.4km

ひと筋の川をたどって海から山頂まで走るZEROtoSUMMIT(ゼロサミ)という遊びをやっている。
その国内篇、全国各都道府県の最高峰まで海から走るゼロサミ47を2016年にはじめた。これまでに38座を走り終えている。

とうとう奥只見まで到達した。「はるかな尾瀬」もあとすこし。国内最難関の福島篇、完走なるか。


6日目(2022/9/25)
只見町長浜~檜枝岐村/51.4km

今日はいよいよ尾瀬の入口、檜枝岐(ひのえまた)村をめざす。

朝6時出発

気温は13℃。Tシャツ短パンではさすがに寒い。
だが走っているうちにすぐ慣れた。

たかが野球 されど野球
行くぞ! 甲子園

伊南川(いながわ)がいい。
阿賀野川と只見川は連続するダムのせいで川本来の姿を失っていた。
流れない川を眺めつづけることほどツラいものはない。
だからぼくはずっと川から目をそむけて走っていた。

檜枝岐をめざす

それがどうだ。
台風が過ぎた青空の下でキラキラ光り、轟々と音を立てながら流れる伊南川は、ぼくを大いに満足させてくれる。

伊南川

「とまと あゆ」の看板がかかった無人販売所が道ばたに現れた。
これまでの人生でトマトと鮎をセットで考えたことが無かったので、ひどく新鮮だ。

とまと
あ ゆ

伊南川の向こうに堂々たる秀峰がそびえている。
丸山(1488m)だ。
山岳界ではおそらくマイナーな存在だろう。

丸山

あの山に登りたい。
下から仰ぎ見ながら、そう思った。
そそられる山や町に出会ったらその場で走ることをやめ、山に向かい、町にとどまる。
そういう旅人にぼくはなりたい。

その丸山も、伊南川が麓を流れることでより引き立っている。
越後を流れる阿賀野川にそうされたように、伊南川に再び心をつかまれてしまった。
ぼくはこの川に会うために日本海からずっと走ってきたのかもしれない。

伊南川

はるか前方にひときわ高い山が見えてきた。会津駒ヶ岳だろうか。
日本海から240km、とうとう尾瀬が近づいてきたのだ。
黄金色の稲穂の向こうにみえる尾瀬の景色に全身が震えてきた。

はるかな尾瀬はもうそこまで
伊南川

舘岩(たていわ)川と分かれると水量はがくんと減り、かわいらしい小川になった。

伊南川

そして、トンネルをいくつかくぐり、とうとう檜枝岐村に着いた。
やっとここまで来た。明るいうちについてよかった。ぜひ寄りたい場所があったのだ。

とうとう檜枝岐村に

歌舞伎舞台。
檜枝岐には何度か来たことがあるが、ここを訪れるのは初めてだ。
想像していたよりもはるかにいい。役者にとってここは最高の檜舞台ではなかろうか。

檜枝岐神社
歌舞伎舞台

薄暗くなりはじめた舞台を眺めていると、かがり火に照らされた役者と観衆たちの姿とその熱が見える気がしてきた。
昼と夜、過去と現在、虚と実の境界線がだんだん曖昧になってゆく。
昨日迷い込んでしまった異界は、まだ続いていたのかもしれない。

舞台よりも屋外の観客席に圧倒された

さぁそろそろ寝る準備をするか。
公衆浴場燧の湯で汗を流したら檜枝岐の一夜の思い出がほしくなり、奮発して焼きとり・よりみちで酒肴をいただくことにした。

絶品のチャーシュー麺

この村でここまでおいしいごちそうにありつけるとは、正直想定外だった。
すばらしい料理に酒が進む進む。
いい夜だった。

さぁ、明日はいよいよ山頂アタックだ。

7日目(2022/9/26)
檜枝岐村~燧ヶ岳~御池/23.1km

朝5時、中土合公園から出発

夜明けとともにスタート。檜枝岐川ぞいに進む。
朝焼けのなかに輝く山が現れた。
燧ヶ岳ロックオン。

待ってなさい、燧ヶ岳

沼山峠を越えて森を抜けると、一気に視界が開けた。

黄金色に染まった尾瀬沼

木道をゆく足取りもしぜんと軽くなる。
長蔵小屋で多めの捕食をして、頂上をめざす。

木道をゆく

麓から4時間半、燧ヶ岳に着いた。
日本海から福島県最高峰燧ヶ岳まで、阿賀野川、阿賀川、只見川、伊南川そして檜枝岐川をたどり、285kmを走って、ついに福島県最高峰まできた。

燧ヶ岳山頂にてお決まりのサミットポーズ

御池まで下り、ゼロサミ福島篇が完成した。

さよなら、燧ヶ岳
ゴーーーール

この福島篇は、国内最難関と位置づけていた。
距離の長さもあるが、スタートしてまもなく山間部に入り、大きな町もほとんどないため、寝場所確保や食料補給の面で不透明な点が多かったからだ。
今回は今後の海外展開に向けた修行であると覚悟していた。

衰退しつつある山村、若者も祭りも楽しみも減ったと嘆く老人、少子化を象徴する廃校など、寂しい光景もたしかにあった。

しかし、手入れが行き届いた寺社や生活文化施設らが、民俗信仰や芸能、そして日々の生活がいまもしっかりと脈打っていることを雄弁に語っていた。
24時間営業のコンビニはないが個人商店や飲食店が地域を支えており、ぼくが食べ物に困ることは一度もなかった。

阿賀町津川で繁盛していたパン屋
阿賀町岩屋の平等寺
阿賀町谷沢の神社
三島町の湧水
只見町梁取の成法寺
西会津町上野尻の山車格納庫
南会津町の歌舞伎舞台
檜枝岐村の橋場のばんば

走っているうちに出発までの不安は徐々に薄らぎ、後半はこの川と町が心から好きになっていた。

ぼくは大切なことを忘れていたようだ。
川が流れているかぎり、そこにはかならず人が住み、暮らしがある。
だから川にそって走るだけでいい。
川さえあればぼくはどこだって旅ができる。
それを改めて教えてもらった。

日本海~阿賀野川~阿賀川~只見川~伊南川~燧ヶ岳2,356m/288.9km

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