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数学とパズルとゲームをガッチャンコしたMartin Gardner(マーティン・ガードナー)さんのコラム「数学ゲーム」を足掛かりにして、1960年代以前のボードゲームの道具立てについていろいろ書いてみる。
前回書いたnote。
あの記事で通算150本目でした。
しかし、1本公開を取り下げたので、実質はこれが150本目でいいのかなと思います。
さらに言えば、noteを始めたのが2019年7月13日なので、2年の節目となります。
いつのまにかめでたいことになってました。
素知らぬ顔で、平常運転でまいります。
Martin Gardner(マーティン・ガードナー)と数学ゲーム
重要人物とは、Martin Gardner(マーティン・ガードナー)さん。
アメリカの数学者・著述家です。
ガードナーさんの著述の中でも、特記すべきものは、コラム「数学ゲーム( Mathematical Games)」
【Wikipediaより引用】
『サイエンティフィック・アメリカン』 (日本版は『日経サイエンス』) 誌上で1956年~1981年まで25年に渡って連載したコラム「数学ゲーム」…(中略)…オーソドックスな数理パズルからブロックパズル・チェスやオセロなどのボードゲーム・パラドクス・数学の最新のテーマのわかりやすい解説などで、幅広い層の読者に人気を博した。
です。
「数学ゲーム」で書かれた多数のコラムは、日本語に翻訳されて多数の書籍になっています。
2015年から「完全版 マーティン・ガードナー数学ゲーム全集」(全13巻予定)が開始して、現在4巻まで刊行されています。
第1巻 ガードナーの数学パズル・ゲーム
第2巻 ガードナーの数学娯楽
第3巻 ガードナーの新・数学娯楽
第4巻 ガードナーの予期せぬ絞首刑
しかし、2017年に第4巻のあと、3年以上も停滞しているので、ちょっと不安ですが。
ボードゲームデザインの裏の立役者
さて、ここで1冊の本を紹介します。
2021年7月末に電子書籍版、9月に冊子版が刊行される、『ユーロゲーム ― 現代欧州ボードゲームのデザイン・文化・プレイ』です。
へ、ユーロゲームって何?
2021年7月9日から11日に開催された48時間動画配信した「ゲムマライブ」の1コーナーである「ユーロゲームとはなにか?」で、上記の書籍の翻訳者の1人である沢田大樹さんを講師として、書籍の冒頭(第1章から第4章)の内容を語っています。
先日ゲムマライブ内で配信された #ボードゲーム大学 出張講義「ユーロゲームとは何か?」。『ユーロゲーム―現代欧州ボードゲームのデザイン・文化・プレイ』の訳者・沢田先生が歴史を紐解くボードゲーム好きにはたまらない講義のアーカイブはここから観れます!https://t.co/uzsaJAzc94#ゲムマライブ pic.twitter.com/addNmdYdVz
— 暮しとボードゲーム (@krstbg) July 11, 2021
ユーロゲームは、ほぼボードゲームと同じ意味で使っていると思っても構いません。
書籍『ユーロゲーム 』では、「一般市場ゲーム(商品という側面も持ったゲーム)」と「ホビーゲーム(数寄者やマニアなどが入れ込むゲーム)」からのアプローチで、ボードゲーム(つまりユーロゲーム)を語っています。
一方で、配信で(おそらく書籍でも)あまり語らなかった範囲があります。
それが、「伝統ゲーム(古典ゲーム)」や「アブストラクトゲーム」からのアプローチです。
『ユーロゲーム 』の目次を見ると、その点に関わる見出しは
・「第一章 ホビーゲームの概要」より
アブストラクトを超えて ― ボードゲームと卓上ゲームの分類
・「第二章 アングロ=アメリカン・ホビー・ボードゲーム 1960-1995」より
現代ユーロゲームの起源 ― 3M Games
の2つです。
コラム「数学ゲーム」は、これら2点にも関わり補填する重要な出来事と考えたほうがいいと思います。
なぜなら、コラム「数学ゲーム」の開始は1956年。
シド・サクソンさんやアレックス・ランドルフさんが、3Mでボードゲームを開発・販売したのが1960年以降。
まったく影響を受けていない、とは言いきれません。
数学とパズルとゲームをガッチャンコ
ユーロゲームの萌芽を1960年あたりとすると、その前で用意されている様々な要素がその10年20年前(1940〜50年代)にバタバタと出揃っているのです。
コラム「数学ゲーム」の凄いところは、それらの要素を含みつつ、数学とパズルとゲーム、3分野の話題を束ねつつ駆け巡っていることです。
まず、一見関係なさそうで1番関係深いともいえる要素はコンピューターです。
フォン・ノイマンやチューリングが考え、設計されたのが1940年代。
そのコンピューターを実践的に使用するための理論が、次々とお膳立てされています(不思議といえば不思議)。
1879年のフレーゲの提唱した『概念記法』をもとに、20世紀最初の四半期で発展した数理論理学。
そして、組み合わせ論やグラフ理論などの離散数学。
連続でないとびとびの数を扱うので、対象が大きくなればなるほど計算量の多くなるのは、まさにコンピューターの得意分野です。
数理論理学や離散数学はともに、数理パズルの分野でも活躍する基礎地盤の要素たちです。
では、ボードゲームと数学がどうつながるのか。
運と技術
ボードゲームの運と技術()については、『ゲーム探検隊』でもふれられています。
1950年代のボードゲーム、特に商品として売られたゲームをみると、ほぼ運要素の高いゲームです。
最近発売された『西洋アンティーク・ボードゲーム 19世紀に愛された遊びの世界』でも、ルールのベースはルード(すごろく)であったりするものがほとんどです。
また、有名どころのボードゲームを挙げても、
・Checker Board of Life(人生ゲームの大元。結局、すごろく)
・Monopoly(これも、すごろく)
・Yatzee(ダイスゲーム。つまり運要素バリバリ)
と、運のゲームばかり。
カードゲームは、多少技術を伴いますが、カードを配る要素はやはり運です。
なぜ運要素が高いゲームばかりになるかというと、(16世紀から17世紀に登場した)確率論というベースがあるからです。
ゲームの調整だったり、ルールやプレイングの評価や批評などの目当てをつけるのに、確率論が活用発揮できたからです。
運と対称的である(アブストラクトゲームなどの運要素の少ない)技術面については、確率論のようなベースがなかったのです。
古くて新しいアブストラクトゲーム『ヘックス(Hex)』
将棋、チェス、チェッカー、リバーシなどのアブストラクトゲームは伝統ゲームでもあります。
では、伝統ゲームではないアブストラクトゲームはなんでしょうか。
諸説あって然るべしですが、個人的に元祖扱いしたいのは『ヘックス(Hex)』です。
『ヘックス』のルールが構築された年ですが、2つあります。
早い方は、1942年にピート・ハインさんが考案したといわれています。
遅い方は、1949年にジョン・ナッシュさんが考案しています。
で、後者のナッシュさんの方が有名になっています。
それは、
『ヘックス』が
先手必勝であることを証明した
(ただし、具体的な手順までは示さない)
からです。
証明するためのぴったりな理論「離散数学」が登場・発展していたからです。
つまり、リアルタイムに離散数学を適用したアブストラクトゲーム、ということです。
この点を踏まえて新しいと見ています。
モダンアブストラクトゲームの始まり、といっても言いすぎてないと思います。
『ヘックス』については、この書籍を参考にしました。
ゲーム理論もこの時期だったりする
ところで、ジョン・ナッシュは1994年にノーベル経済賞を受賞した、天才数学者です。
業績のなかでも、自分の名前を冠した「ナッシュ均衡」があります。
「ナッシュ均衡」をざっくりいうとゲーム理論の基本的な概念になります。
ゲーム理論も1940年から50年代にかけて発展した数学の分野です。
で、このゲーム理論を用いて、調整や評価できるボードゲームが1950年代に登場しているのです。
それは、
『ディプロマシー(Diplomacy)』
いやはや
1950年代って、あらためてすごい。
これらの情報を、専門外の人々に科学雑誌のコラム「数学ゲーム」を通して伝播しているのです。
獲るべくして獲った?第1回年間ドイツゲーム賞大賞作
最後に1979年のお話。
第1回年間ドイツゲーム賞の大賞作は『ウサギとハリネズミ』です。
以前書いたnote
でも少し書きました。
『ウサギとハリネズミ』はゲームボードを見ると、ただの運要素バリバリのすごろくです。
しかし、コマの動かし方が手持ちのカード(貨幣)を出した数(金額)によって移動が決まるなど、技術要素もしっかり含まれています。
運と技術。
両方のバランスを兼ね備えたゲームを大賞に薦めたのでは?と審査員のみなさんの考えを勘ぐってしまいます。
終わりと続き
ざっくりと、ボードゲームの転換となる1960年以前のあれこれを書き出してみました。
探せばまだまだいろいろ出てきそうですが、今回はとりあえず、あまりまとめずにこんなところで。
『ユーロゲーム』は原書も未読なので、発売されたら購入して答え合わせしつつ読んでみます。
いつのまにか3年目に突入。
これからもnoteを続けていきますので、よろしくお願いします。
では。