『フラッシュ』2023
大変良かった。上半期は個人的には「フェイブルマンズ」が一番だったが、人に薦めるとしたら、この「フラッシュ」を挙げたい。スパイダーバース2と同じテーマや要素を扱いながら、全然違うところを通って着地に至る。ここ数年作られ続けているマルチバースものの中でも突出した作品になっていると思う。トマト缶があんなにドラマチックになるなんて。
若者、全年齢層向けのマーベル作品に対して、このDC作品は主に30代から40代向けに作ってあると感じた。その理由はなによりも、バットマンである。マイケルキートンのバットマン。コメディ俳優だろうがなんだろうが、私にとってのバットマンはマイケルキートンなんだ。あの、流線型のバットモービルこそ最高なんだと思い出させてくれた。ダニーエルフマン調の音楽と共に。バットケイブのシーンはぞくぞくした。
そう。そうやって私たちはいつだって幾つもの思い出にアクセスできる。過去の無数の映画にアクセスできる。一瞬で。それはフラッシュの能力と同じことなんだ、と。エリックストルツのマーティも、ニコラスケイジのスーパーマンも、すべてあり得たかもしれない夢の夢である。幸運にも形になった夢、それが『バックトゥザ・フューチャー』であり『バットマンリターンズ』であり、この映画を含む全ての映画であるのだと思わせてくれる。
そしてそれは私たちの今生きている人生も同じなのだ。幸運にも形になった夢なのだ。マルチバースに設定やギミック以上の意味を持たせられた作品は珍しい。こんなヒーロー映画に劇場で、リアルタイムで出会える幸せを感じた。スーパーヒーローの能力はすでに私たちに備わっているのだ。
スーパーガールも素晴らしかった。サッシャカジェのその佇まいがスーパーである。存在が失われてしまうのがもったいない、と思わせる説得力があった。
補足:この作品は「マルチバース」というより、BTTFと同じ過去改変ものである。複数の並行世界の話ではなく、一本の時間軸を歪めてしまう危険性についての話だ。しかし、ラストの描写に関してのみマルチバースの様相を強めている。
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