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2024年をもう少しだけ振り返り

年も明けて2025年がスタートしました。
フィレンツェの年明けはそこら中で花火が上がるお祭り騒ぎ。
自分の住む郊外の小さな町でも近所で派手に花火が上がります。

大晦日、元旦と2連休だったのでもう少し2024年の振り返り。

日本の個展でも見ていただいたのですが昨年は自分にとってちょっと新しい試みをしました。

風神雷神のパネル

この作品には自分がフィレンツェで身につけた技術とセンスをぎゅっと凝縮していろいろな思いを込めています。

個展の際にタイミングが悪く、しっかりとご説明できなかった方もいたと思うのでここに書き留めておこうと思います。

このパネルとの出会いはもう10年近く前。
師匠の工房の隣の家具修復職人さんのところで埃まみれになっていたこれをとてもいい雰囲気だったので譲ってもらったところから始まります。

18世紀イタリア製の家具の一部、おそらく小さな扉で写真を見てもらうとわかるのですが元は装飾フレームが付いていた跡があります。
ちなみに紙にある番号「585」はオークションハウスでの落札番号。

かなり虫食いによる穴と破損が激しかったのでどう使うかをずっと悩んでいたのですが年の初めにアイデアを思いつき一気に作業を始めました。

通常家具修復というと虫食いの穴は種類の近い木やパテで埋めてあまり目立たなく仕上げていきます。
このパネル自体の素材がウォールナットで質がとても良かったこともあり虫食いの穴がこれだけあっても芯はしっかり残っていて強度的には問題なし。虫食い穴一つ一つに殺虫消毒の薬品を注射で流し込んで数ヶ月密封して殺虫処理。

それが済んでからパネルの周りの虫食いの穴に通常の木やパテではなく
真鍮の線を打ち込んでいきます。
穴の大きさはいろいろなので0.5mm、0.8mm、1mm、1.2mm、1.5mm、2mmとそれぞれ太さを準備。

強度を保つために穴の奥までしっかりと打ち込み

想像以上に穴の数が多く、数えてはいませんが1000近くはあったと思います。
始めてしまった以上後戻りはできないのでひたすら線を打ち込む毎日でした。

メインのデザインは風神・雷神。このモチーフを選んだのはこの家具が実際に作られた同じ時代に日本では琳派の流れで尾形光琳らが屏風図を描いていた。
そんな時代のシンクロも面白いなと思い、2024年イタリアらしい琳派の継承をしたいと思いこれにしました。

パーツをカットした後にこの突板の厚み約0.7mm彫り下げをしてはめ込みます。

縁の部分の損傷が激しかったのですが新しいパーツを嵌めるということはせず損傷した雰囲気を膠と削り粉を混ぜたもので出来るだけ残しました。

風神雷神ってどこに浮かんでいるんだろう?屏風図を見ながらそんな疑問が昔からありました。

今回のこの作品では虫食いの穴を埋めた真鍮を無数の星に見立てて
夜空?宇宙?に浮かべてみました。

見る角度や光の反射によって真鍮が光る部分と光らない部分があり、見る度に違う表情が現れます。

虫食いの穴は木材を扱う上では天敵。
一つでも入ってしまうと素材としての価値が無くなってしまうマイナス要素となります。
そのマイナス要素がこの表現方法をすることによって数があればあるほど星の数が増えて美しくなっていく。
技術は全く違いますが金継ぎの哲学に近いと思っています。

古いモノを古い雰囲気のまま、特別なモノに昇華するフィレンツェで培った技術とセンス。それに日本人として持っている侘び寂びなどの哲学を合わせて表現したこの作品。
Zouganistaとして活動してきたこの10年間の一つの集大成になったかなと自分では思っています。

作品はフィレンツェの工房にありますのでぜひ見に来て下さい!!

この感覚で表現したいものはまだまだあります。
今年も形にしていきたいと思っておりますので2025年もよろしくお願いいたします。


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