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しかくく切りとる
ある友達が家に泊まりに来た。ゲームをして近くの銭湯に行って酒を飲んで、これでいいんだよという夜だった。
明くる朝、食パンを食べたいと言ってきたので、「冷蔵庫のマーガリン使っていいよ」とだけ伝えたら、貴重なりんごジャムまで使ってやがった。しかもたっぷり。図々しいやつめ。
僕も食パンを食べようと、パンを焼いてマーガリンの蓋を開けるとびっくり、マーガリンに四角い穴があるではないか。どうやら友人は、マーガリンを天然氷のように切り出して塗るタイプのようだ。
僕はマーガリンを取る時は、バターナイフで、こう、スキーの初心者コースのようになだらかに削っていくスタイルなわけだ。これは実家でそういうやり方だったから、特に何も意識せずそう切り取っていたわけだが、その友人の家では違ったらしい。
しかしよく考えてみれば、四角く切りとるやり方は合理的なのではないか。酸化されるマーガリンの表面積が圧倒的に少なく済むし、残りの分量の目安がわかりやすい。
でも、四角く切り取ったマーガリンって溶けにくくないか?熱々の食パンの上に乗せても、溶けるのに時間がかかってしまうじゃないか。溶けていくのを見るのは楽しいけど、忙しい朝にそんな時間は無い。それに、なんかパンに対していっぱい塗っちゃいそうだし!!
マーガリンの切り方ひとつとっても色々(2通り)あるのだから、誰かと一緒に住むということはこういうギャップの連続なんだろう。もちろん、マーガリンを四角く切り取った友達に腹が立つとかそういう感情は浮かばなかったが、僕の違和感センサーはビービーと反応してしまった。こういう違和感センサーに引っかかったものにいちいち反応していては、誰かと一緒にいる時には気が落ち着かないだろうし、ましてや一緒に住むなんて到底できないだろう。
僕は、こういう違和感が積み重なっていくことを、「この人は自分と違って面白い」と感じられるような人ではないだろうな。いやまあ違和感のレベルによるんだけどさ。きっと積もり積もったものが、些細な喧嘩を契機に溢れ出てしまう。もしかしてモラハラってこういう事を言うんですか!?しちゃうかも…。
マーガリンに空いた穴はしばらく経っても残り続けていたけれど、僕が毎朝スキーのコースを作っていくうちに、穴はいつのまにか消え去ってしまった。