「貝の動物は、目が命」
<舞台裏>シリーズ No.12
かいのどうぶつえん 園長です。
貝の動物の制作現場では、毎日さまざまなエピソードが生まれています。このシリーズでは、舞台裏の失敗談や内緒話、奇想天外な空想や徹底した“こだわり”などをチョイスしてみました。
第12回目は 「貝の動物は、目が命」です。
数年前に知人から、「キャッツアイ」という名の、巻貝のフタを数枚いただきました。外国産でサイズは直径1〜2㎝ほど。ふくらんだ表面はツルツルで、黒目の部分は宝石も顔負けの深い緑色をしていました。
図鑑で調べたものの見当たらず、名前も色彩も派手すぎて、ついつい天然のはずはないと思い込んでしまったのです。
結局、美しすぎる貝はケースの底で長いこと放置され、やがて忘却されました。
ところで、「かいのどうぶつえん」のサイトで、動物が主役をつとめる「物語シリーズ」はアクセスの多いコンテンツです。
たとえば、日本の物語の『笠地蔵』や『鶴の恩返し』などは、テレビ放送されて全国的な話題となりました。
海外の物語では、『長靴をはいたネコ』にチャレンジしました。
作者のシャルル・ペロー(フランス)は、民間伝承の昔話を編纂した「ペロー童話集」を1697年に発表。グリム兄弟(ドイツ)の「グリム童話集」(1812)にさきがける童話集として、全世界で親しまれてきました。
『長靴をはいたネコ』の第1回目は、「父の遺産がネコ1匹」と嘆く若者に、当のネコが「袋」と藪でも歩ける「長靴」をせがみ、ウサギを捕まえるシーンとしました。
ネコの“目”は、小型のキイロダカラとスガイを組合せです。
しかし完成直後に、もっと迫力のあるシーンにしたい!
ネコの表情をビビットにしたい!と反省し、
翌週、2回目の『長靴をはいたネコ』の制作に着手。
ネコの頭部は、同じタルダカラの表面を使用。利口なネコが人食鬼をおだててネズミに化けさせ、パクリと食べてしまうシーンとしました。
ところが1回目と同じ貝(キイロダカラとスガイ)で“目”をつくると、ちっとも面白くないのです。
打つ手もなしに困惑していると、思わぬプレゼントが届きました。
植物や貝のことなど博覧強記で、南方熊楠の再来ではないかと尊敬する先輩が、調査に行かれた西表島で購入された
大小様々な「キャッツアイ/ネコノメ(地元名)」を送ってくださったのです。
巻貝の「リュウテンサザエ」のフタとのことで、改めて調べると、図鑑にちゃんと掲載されていました。
園長の“はやとちり”は、雲散霧消。
天然なのに人工ではないかと疑われた美しい貝「キャッツアイ」は、晴れてペローの物語の”ネコの目”に起用されて、本来の輝きをとりもどしました。
いずれにしても、貝の動物は“目”が命。制作の度に貝の種類や組み合わせ、サイズなどにあれこれ悩んでいます。
それだけではありません。基本的に動物の体全体が完成してから、最後に目をつけます。
ほとんどの貝は瞬間接着剤でつけるのですが、目は木工ボンドで接着します。
理由は単純で、完成してからじっくりながめると、位置を変えたくなったり、撮影が済んで画像チェックすると、目の大きさが気になって取り替えたくなるのです。
木工ボンドでしたら、貝を傷つけずに外すことができるからです。 つづく
目の実例をご紹介します。
貝は「割らない。塗らない。削らない」のスッピン勝負
2回目「長靴をはいたネコ」 〜成分表〜
★ネ コ:タルダカラ/シジミ/キャッツアイ/ザクロガイ/ヒメカノコアサリ /アカウニ/ベニガイ/センニンガイ/ミソラフトコロガイ/ムシボタル/キ
クスズメ ★長靴:フジツボ/ウコンハマグリ
★尾:ミソラフトコロガイ
★ネズミ(人食鬼):チャイロキヌタ/メダカラ/タモトガイ/スガイ他
★野原:ホタテガイ
☆「スガイ」採集の舞台裏をご紹介します