「燗酒にして美味しくない酒はそんなに無い」という考え方
どうも、ぞぬです。
お久しぶりな今回は、このクソ暑い季節に話題になりつつある燗酒について。
きっかけはSake Streetさんが連載をスタートしたこちらの企画から ↓
振り返ってみると自身も2年前には燗酒について書いたことはありました。この回は温度によってどのような変化が起きるかについて。今回はまた違った部分について考えていきましょう。
よくある「温めたらおいしい日本酒」について
今まで一般的に「燗酒に向いている」と言われてきた日本酒にはどういう特徴があるでしょうか。
・ご飯を思わせるような、原料由来の味わいが主体
・果物を思わせるような吟醸香は無い
・熟成しているとなお良い
これらの事項が挙げられるでしょう。
代表的な銘柄は神亀、剣菱、奥播磨など。旨味たっぷり、熟成上等。白米というよりも炊き込みご飯や焼いたパンのような主食を思わせる香味が特徴的です。
熱めの燗につけることも多いですが、幅広い温度帯での燗酒として楽しめることも利点の一つです。
ですが欠点もあります。
旨味系や熟成系の日本酒に慣れるまでは苦手と思われやすい味わいであることが多いので、燗酒へのハードルは日本酒への入り口からかなり高いところにあると言っても過言では無いでしょう。
では、日本酒初心者にオススメされることの多いフルーティー系の日本酒は燗酒に本当に向かないのでしょうか?
旧くからの燗酒ファンの方々は甘い酒の燗はタブーと言うかもしれませんが、私はそうは思いません。
「甘い日本酒」への誤解
そもそも果物の甘い香りは冷たくないと美味しくないのでしょうか?
よく日本酒に含まれる酸の要素でリンゴ酸やクエン酸は冷旨酸と呼ばれ、冷やして提供することを推奨されてきました。
とは言っても、リンゴやバナナ、みかんは焼いて美味しいデザートを作れることは皆さんご存じでしょうし、レモンも冬にはレモネードなどの商品が人気です。
果物を温めても美味しいのであれば、果物のような味わいの日本酒を温めても美味しく仕上げることが出来るのは自然なことでしょう。冷旨酸主体の日本酒だからといって燗酒に向かないとは言い切れないのです。
リンゴを思わせる香りとして吟醸香の二大巨頭とされるカプロン酸エチルは加熱で香りが変化しやすく、火入れタイプでこの香りを有している商品で720ml数千円を超える純米大吟醸でも、苦味が出てしまっていて「微妙だなぁ」と思う味わいになってしまっている商品は少なからず存在します。確かにこういった商品の燗は非常に難しいです。
昨今人気のフルーティー系日本酒はできたてのフレッシュさを閉じ込めるため生酒であることも多いです。こういった商品はあることに気をつければ燗酒に向くと言っても良いのではないでしょうか?
フルーティー系燗酒のススメ
フルーティー系日本酒、特に生酒を燗にするうえで気をつけるべき「あること」は、
・火入れの温度(60℃以上)を超えないこと
・素早く仕上げること
燗への解釈の仕方や自身のつけ方によっても変わるかもしれませんが、まずはこの2点。
ここでのポイントは「いかにフレッシュな甘味を残すか」です。
果物のような香りや甘味があるとはいえ実際の果物とは甘味や酸味の量が異なり、加熱によってお米由来の味わいを感じやすくなってきます。そのため、そういった部分が強くなりすぎる前に仕上げて飲むことが重要になってきます。
細かい燗酒のつけ方はまたどこかで。
私自身が飲食店で燗酒を提供していた際によく使用していたオススメのフルーティー系日本酒はこちらです。
高知県 亀泉 純米吟醸生原酒 CEL-24
カプロン酸エチルが非常に多いけれども甘味や酸味も非常に強く、比較的高い温度に温めてもへこたれないポテンシャルを持っていたお酒です。皆さんも是非試してみてください。
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フルーティー系燗酒の良い点は、「口に含んだ瞬間に美味しいと伝わること」です。
旨味タイプの場合はごはんを咀嚼した後に甘味が出てくるのと近いように、瞬間では伝わりにくい美味しさではあるのですが、フルーティー系ではそのタイムラグが無く燗酒初心者でも非常に伝わりやすい美味しさを秘めています。
ほっこりとして安心できるような味わいの旨味タイプは、分かる人には分かるけども理解されにくい、良くも悪くも尖った部分や飛び抜けた個性が少ない、「酒をよく飲んでる人向き」と言われて敬遠される可能性は高いです。
しかしフルーティー系燗酒には欠点も勿論存在します。むしろこれまではデメリットにばかり目が向いていたのでしょう。それは
「美味しく仕上げるための扱いが非常に難しい」
「そのくせ特に美味しいと感じる温度帯が狭いこと」
この2点です。
高い温度から燗冷ましまで幅広く美味しいと感じることができる旨味タイプと比較して、「高温の燗にしにくい」「冷めたら甘味がまったり感じてしまう」「ある温度を超えてしまったらバランスが崩れやすい」など多少の扱いにくさが付きまとってしまうのが大きな欠点とも言えるのは間違いないでしょう。
また商品によっては「この温度じゃないとあまり美味しくない」というような1~2℃レベルでの調整を求められることも少なくありません。。
フルーティー系燗酒の扱いは非常に難しく、提供する側のスキルが非常に試される商材ではあります。ただ温度を上げただけでは味わいがまとまらない、物足りないといった商品も沢山あります。
この扱いの難しさや手間のかかり方が多くの方から敬遠され「フルーティー系は燗に向かない」といった通説が広がったのかと考えてしまいます。
しかしうまく扱えると燗酒の先入観を完全に覆して初心者層を燗酒の沼へ引きずり込むことのできるほどの分かりやすさ・親しみやすさを有しているのです。
たとえすごく美味しい温度帯が5℃の幅しか無かったとしても、それでこれまで燗酒に親しみが無かった方々が過去イチ美味しいと感じてくれるのであれば、この燗酒はキャッチ―ではない安牌の定番商品を提供するよりも良い選択肢だと思いませんか?
むしろフルーティー系日本酒もちゃんとおいしく燗酒に出来てこそレベルの高い燗つけ人だと思うんですよね
色んな日本酒を温めてみよう
たとえ燗酒に向かないと言われるような味わいの日本酒でも、実際に何度も試してみることではじめて得られるものがあります。
コンビニなどで売っているパック酒でも十四代や新政のようなプレミア酒でも、それは変わりません。
失敗したようでも「ここが良くなったら美味しいんだけどなぁ」という疑問を持つことが出来たらいずれ手掛かりが得られるでしょう。
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そういえばパイナップルが乗ったピザって定番で売ってるじゃないですか。
賛否両論あって叩かれることもあるけど定番商品群から絶対に消えないアレです。
ゲテモノと思われても求められ続けるんですよね。フルーティー系燗酒もそういったポジションになってくれると良いなぁって思います。
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