見出し画像

城山文庫の書棚から061『ロシアより愛を込めて』金平茂紀 集英社文庫 2023

TBSのモスクワ支局長として4年近く滞在したロシア。昨年2月に発生したロシアのウクライナ侵攻を受け、金平さん自らが望んで文庫化された30年前の手記。後半に昨年来の現地取材を記録した「ウクライナより愛を込めて」を新たに追録。

金平さんがモスクワで暮らしたのは1991年から94年。その間にソビエト連邦が消滅し、指導者はゴルバチョフからエリツィンに代わった。革命に近い政変を間近で取材する金平さん。ロシア人との考え方の違いに呆れ憤り、それでも現地スタッフを鼓舞しチームで取材を遂行する。

ロシアでの駐在員生活は想像を絶する。公務員の腐敗、機材や車の盗難など日常茶飯事。93年10月には反エリツィン勢力によるクーデター未遂にも遭遇する。危険と背中合わせ、モスクワからの迫真のレポートは、本書のハイライトのひとつだ。

報道特集の一線を退いても、金平さんの批評精神は衰えない。プーチンと同じ未来を見ていた元首相をチクリと皮肉るのも忘れない。ロシアの侵攻後直ちにウクライナ入りし、現地の生の声を届ける。91年のソビエト崩壊と今回のウクライナ侵攻の両方を間近で捉えたジャーナリストの貴重な手記。