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城山文庫の書棚から081『自壊する欧米』内藤正典 三牧聖子 集英社新書 2024

ウクライナ戦争ではロシアを非難するのに、ガザに侵攻するイスラエルには沈黙し続ける。どちらも国際法違反が濃厚な戦争犯罪だ。欧米のダブルスタンダードの背景にある論理を、老練な中東研究者と気鋭の米国政治学者が炙り出す対談。

アメリカにはユダヤ人ロビーと軍需産業、ドイツにはホロコーストのトラウマがある。英国には3枚舌外交の後ろめたさがあるのかもしれない。だからと言って、イスラエル国家の非道を批判することと反ユダヤ主義の区別もできない状況は極めて危険だと内藤氏は指摘する。

欧米諸国がイスラエルに断固とした態度を取らないもう一つの理由は、ガザからは難民が流出しないこと。イスラエルは難民に避難勧告を出した上で攻撃を続ける。天井のない監獄と言われるガザに、逃げ場などないというのに。

いま主に声を上げているのはトルコやブラジルなどグローバルサウスの首脳達だ。唯一の被爆国で平和憲法を有する日本は国際世論を先導し得る立場にもかかわらず、アメリカに遠慮してか殆ど沈黙している。何が本当の国益に叶うのか、大局的な判断が国のリーダーに求められている。