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読書完走#387『貧困パンデミック』稲葉剛 2021

感染症のパンデミックが日本に上陸したのと歩を合わせるように、それまで見えなかった国内の貧困が急に可視化され、拡大していった。コロナ禍は世界中の国々で貧困を深刻化させたが、日本でも「貧困パンデミック」とでも言うべき状況が生じたのである。
「居住福祉」という視点があまりにも希薄な我が国では、住まいは基本的人権であるという当たり前のことが未だに確立されていないことが一番の問題だと著者は指摘する。当事者の声を拾い上げ、国や都にぶつけることでひとつひとつ制度改正を実現していく稲葉さんたちの地道な活動に敬意を表したい。
一方で、医療崩壊という不都合な真実を隠蔽するため自宅療養を強く薦める政府や都庁は、自宅のない貧困層のコロナ対策をどのように考えているのだろうか。
2020年3月から今年5月、五輪強行開催直前までの現場からの悲鳴は、完全に底が抜けてしまった日本社会の暗部を照らし出す。過去27年間、生活困窮者支援を続けてきた著者がこれまで見たことのないほど多く、多様な人々がコロナ禍で困窮している。それでもなお、扶養照会という行政窓口のタチの悪い水際作戦によって、必要な生活保護申請の多くが妨げられている。
本書はコロナ禍における「共助」の記録であると同時に、「公助」がいかに機能しなかったのか、を伝える必読の記録にもなっている。