城山文庫の書棚から082『見ることの塩 上 イスラエル/パレスチナ紀行』四方田犬彦 河出書房新社 2024
20年前にテルアヴィヴ大学客員教授としてイスラエルに滞在した際に書かれた本を二分割して緊急再出版。虐殺が繰り広げられているガザの今を四方田さんが見つめる「見ることの蜜は可能か」を追補。二国共存の希望が残されていた時代から絶望の今を照射する。
80年代にコロンビア大学でサイードから薫陶を受けていた四方田は、イスラエルに向かう定めだったのかもしれない。背中を押したのは山口淑子;かつての大女優・李香蘭その人だった。彼女は70年代初頭にテレビ番組の収録でパレスチナ難民キャンプを訪れていたという。
水と油のように交わらないイスラエルとパレスチナ。しかし旧約聖書の昔からユダヤ人とアラブ人は兄弟に等しい存在で、言語学的にもヘブライ語とアラビア語は相同的な構造を持つ。いま起きていることは宗教の対立ではなく、植民地主義がもたらす領土問題だ。ユダヤ教正統派とシオニストは常に対峙してきた。
「世界の果てに辿り着いたとき、われらはどこへ行けばよいのか。最後の空が終わったとき、鳥はどこで飛べばよいのか。」パレスチナ人ダルウィーシュが残した悲痛な詩の言葉が偏執的なシオニスト政治家らの耳に届く日は来るだろうか。開戦から7ヶ月。即時停戦あるのみ。