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城山文庫の書棚から074『声の地層 災禍と痛みを語ること』瀬尾夏美 生きのびるブックス 2023
東日本大震災の被災地へ赴き、津波と地震から生き延びた人々・大切な人を失った人々の声を聞く経験から語り継ぐことを始めた瀬尾夏美さん。東京から陸前高田・仙台に移住し、10年を経て東京に戻り、語ることを続けている。真摯なその記録。
本書は彼女が聞いた話を元に書き起こした物語と、それに対する彼女自身の解説のセットで織りなされている。話を聞かせてくれた人びとのほとんどが、誰かに伝えてね、と言ってくる。語り継ぎの役目を託された瀬尾さんは、本書で見事にそれを果たしている。
東日本大震災、コロナ禍の日々を経て、関東大震災から昨年ので丸100年。様々な人の声を聞き、死者の声を語り継ぐ瀬尾さんは、一人ひとりが自身の経験を言葉として表現することに希望を持ち、誰もがその担い手になれると信じている。重いテーマの本書はそれゆえに暗くならず、あたたかさを内に秘めている。
今年の元旦に能登半島で大きな地震が起き、復興は今も続いている。ウクライナへのロシア侵攻から2年が経ち、戦争に終わりは見えない。ガザへのイスラエルの攻撃は凄惨を極めるばかりだ。天災、震災に加えて戦争・腐敗政治という人災にまみれた世の中で、我々にできるのは少しでも災禍と痛みに耳を傾けることだと思う。