四季
春。
硝子の抜け落ちた窓枠から、対岸の桜が見える。
散らばった瓦礫の隙間から、新しい命が生まれた。
新緑の雑草は、まっすぐに天を指して伸びる。
夏。
太陽が、大地を、骨となったそれを、じりじりと焦がす。
噴水から跳ねる水音を聞き、陽炎に揺らぐ。
その日、8時15分、1分間の黙祷を捧げる。
秋。
外壁にところどころ残った、浅く、深い、土色の煉瓦。
同じ色へと色づいた葉が、朽ちた建物の周囲を一面に覆う。
踏みしめる落ち葉は、やがて土となる。
冬。
剥き出しの、錆びた鉄骨。
天井に張られたアーチ状のそれは、降り積もる雪で白い線を描く。
枯れ木から、とさり、と落雪の音を聴く。
今、川沿いに佇む原爆ドームには、静かな広島の四季が寄り添う。
この寧静よ、永遠に。
いいなと思ったら応援しよう!
すごくすごく喜びます!うれしいです!