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きみのおめめ

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きみとわたしの目線の先のものたち。
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2022年10月の記事一覧

きみのおめめ あとがき

9月30日、ひさしぶりに行ったランチの帰り道でした。
風に吹かれてひやりとしたブラウスに秋を感じ、同時に過ぎ去った夏をぼんやりとしか思い出せないことに背中がひやりとしました。

クリエイターフェスが開催されること、仕事がすこし落ち着いたこと、以前いただいたメッセージ(ありがとうございます!)を読み返したこと、夫が好きなゲームの続編が出て夜時間ができたこと、細々続けていた仕事関係の資格がキリの良い単

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きみのおめめ 少しだけまえの、遠いむかし #30

「娘ちゃんと、どっちが好きっておもうの!」
腕を組み、ぷいと横を向く。
ふーん、と続け、斜め上に尖らせた口は、怒りながらも甘えてくるときのそれだったけれど、瞳はゆるゆると揺れていた。ぱちりと瞬きしたあとすぐに俯いて、手の甲で涙を拭う。
スン、と鼻をすすりながら項垂れる娘の姿を見て、私は答えを迷っていた。

娘が産まれてから、1年に1度、年末年始を使って娘の写真を整理している。
1年間撮りためた娘を

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きみのおめめ うるうるのうるおい #29

きみのおめめ うるうるのうるおい #29

鏡の前で5歳の娘が「んーま、んーま」と繰り返す。たまらず込み上げてくるむず痒い愛しさを、お揃いのリップの中におさめパチリとふたをする。

「おくちがカサカサする」と娘がいうので、子ども用のリップを買った。
ECサイトの画像を見せると、「じぶんで!」と私のスマートフォンを手に持ち、すい、すい、と指の先を滑らす。
しばらくソファで一緒に見ていると、「あっ、これがいい」と鮮やかなオレンジ色のパッケージを

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きみのおめめ ワッフルとチョコレートソース #28

きみのおめめ ワッフルとチョコレートソース #28

「ずっとずっと、いっしょにくらしたいよねえ」
向かいの席に座る娘が、そういってフォークを持った。

店内の光をまとい、スイーツはより魅力的に見える。
5歳の娘はレジの横にあるショーケースを右端から左端までひとつひとつ丁寧に見つめたあと、「これが食べたくなっちゃった」と四角いワッフルを指差した。じゃあそれにしようかと娘にいうと、
「よかったら」
と、頭上からかけられた声に体を起こす。
「チョコレート

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きみのおめめ 玄関のこづつみ #27

きみのおめめ 玄関のこづつみ #27

手のひらよりもわずかに大きい、オフホワイトのクッキー缶をもらった。
缶の蓋を開けると、いろいろな形をしたクッキーがきゅっと形を揃えて並ぶ。花びらを模した淡い桃色、切手のかたちにくり抜かれたココア色、小鳥が羽を広げたクリーム色。ふんわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
「わあ、娘ちゃん、これぜーんぶ食べたくなっちゃう」
机に手をついたまま椅子についたステップに立ち上がるので、緩んだ脚がかたかた鳴る。
食べ

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きみのおめめ 歯の定期検診 #26

きみのおめめ 歯の定期検診 #26

「あーんしててねー」
反射で娘が「あー」と声を漏らす。
口に当たるライトが眩しいようで、きゅっと目を細めている。薄いゴム手袋をはめた歯科衛生士さんが、娘の口の端をニョン、と伸ばす。口の中に入れたミラーで、奥歯から順に角度を変えながら見ている。カチ、と器具が歯にあたる音がする。

3ヶ月に一度、歯の定期検診へ行っている。
娘が大人になったとき、健診を受けることが定着していたらいいなと3歳から行きはじ

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きみのおめめ 紺色の制服 #25

きみのおめめ 紺色の制服 #25

子ども用のハンガーに、5歳の娘の制服をかけている。先々週まで夏用の制服だったのを、10月に入り衣替えした。

娘が久しぶりに紺色の制服へ袖を通すと、「大きくなるから、これくらいを買ったほうがいい」と入園前にアドバイスをいただいた保育園の先生が正しかったと実感した。
だんだんぴったりになってきたね、と肩と裾の位置を整えながら言う。
「娘ちゃん、ほいくえんで3番目に背が高いからね」
と声に嬉しさをにじ

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きみのおめめ あいうえおの練習 #24

きみのおめめ あいうえおの練習 #24

爪の先が白く、見ているこちらがはらはらする。
手についた筋肉を指先一点に集めたように、鉛筆の先へとすべてをそそいでいる。
紙と芯の擦れる音がチリチリと鳴り、数センチ進むごとに、尖った先が細かく弾ける。音のない部屋では、鉛筆の芯が縦に割れるわずかな音すらも響かせた。

ふう、と一息吐いて5歳の娘は太めの三角鉛筆をドリルの脇に置く。カラリと音がして、一辺分転がる。
私は娘のほうを見ないよう、自分の開い

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きみのおめめ お祝いのケーキ #23

きみのおめめ お祝いのケーキ #23

「かか、あいばくんテレビ出てるよ!」
キッチンで朝食の準備をしていた私に娘が声をかける。
食器棚から水色の皿を3枚出し、昨日買ったパンを乗せたところだった。ミルクパン、ウインナーロール、シナモンデニッシュは、娘と夫と私でそれぞれ選んだ。
ふたつの皿をダイニングへ運びつつ、映画の宣伝かな、と言いながらテレビへ目をやると、第一子誕生のニュースが流れていた。
驚いて声をあげ、娘ちゃん、相葉くん赤ちゃんが

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きみのおめめ ちくりと痛い #22

きみのおめめ ちくりと痛い #22

「娘ちゃん、前のやつも泣かなかったから大丈夫だよ」
病院までの道のり、お気に入りのぬいぐるみをぎゅっと抱えながら何度も繰り返した。
夫と私はその度に、おお、すごいねと目配せしながら返す。

自動ドアを開け、カウンターに駆け寄り背伸びして受付の方へ名前を伝えていた。追って私もフルネームを伝える。
「インフルエンザの予防接種ですね」
はい、と答えながら娘を見ると、壁に貼ってあるポスターをじっと見つめて

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きみのおめめ サンタクロースへのお願い #21

きみのおめめ サンタクロースへのお願い #21

「もうすぐクリスマスだから、なにお願いしようかなあ」
夕食のハンバーグを食べていた娘が、頬にデミグラスソースをつけていう。
あと2ヶ月くらいだねというと、「2ヶ月って、何回寝たら?」と聞かれ、60回くらいかな、と答える。
えー!と声をあげ、ろくじゅう?!と繰り返す。1ヶ月を30日をだとして、2倍だから60回くらいかな、というと、たくさんだなあ、とひとりごち箸を置く。
娘ちゃん、去年はサンタさんにな

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きみのおめめ 秋の帰り道 #20

きみのおめめ 秋の帰り道 #20

10月に入って陽が落ちる時間が早くなり、保育園の帰り道は薄暗くなった。
遠くに夕焼けが見えるものの、19時頃まで明るかった夏の日が嘘のように、暗闇がすぐそこにある。

家やビルで隠れる月を追いかけたり、空に輝く一番星を探したり、リリリと鳴く秋の虫の音を聴きながら手を繋いで歩く。
歩き疲れたわけでもないのに「だっこして」とせがまれ抱き上げると、くっついたところから娘の子どもらしい体温が沁みる。時おり

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きみのおめめ 私がそれをかわれたら #19

きみのおめめ 私がそれをかわれたら #19

「なんだかあたまがいたい」
心が跳ねると同時に駆け寄った。
リビングに置いているグレーのブランケットにくるまり、ソファの端で体を小さくしていた。
体温計を脇に差し込みながら額に触れた。お昼ごはんを食べたあと、キッチンで洗い物をしていた冷たい手に、じわりと熱が染みわたる。
頭をなでるともたれかかってくる娘は、いつもよりずしりと重い。
病院にいこう、そういうと「ん」と弱々しく返ってきた。
触れた部分だ

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きみのおめめ おしゃれなくつした #18

きみのおめめ おしゃれなくつした #18

「おしゃれな服ってどんなの?」
と娘から聞かれたことがある。
聞くと、私がよく夫の服をほめるので気になったらしい。
自分の好きな服を着たらいいよ、と伝えてもしっくりこない顔をしていたので、ととにヒントを聞いたら?と言うと「そうする〜」と軽い足取りで向かっていた。
クローゼットの前で話しているふたりの声が聞こえた。夫は、私と同じように「好きな服を着ればいいと思うけど」と前置きをして、ととが服を選ぶと

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