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エッセイ

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楽しいもの、大事なものを見つけて言葉にするのが好きなんです。 「分かる!」も「へー」も嬉しいです。「へー・・・」も、是非。
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#映画

映画のような鏡

先日、「ナミビアの砂漠」という映画を観た。 それが表向きは何てことのない、しかし私にとっては中々ハードな挑戦だ。 世界観や登場人物に怠惰な雰囲気のある作品が苦手だ。 普段は小説をよく読むのだが、その手のものを読んだ後は気持ちが重くなって、さらさらさらさら、緩くて暗いまま思考が流れていく。 その感覚がどうしても苦手で、小説にしても映画にしても、そういった作品に対してセンサーを働かせて避けてきた。あくまで趣味や娯楽ですし。 「ナミビアの砂漠」は間違いなく“それ”だ。 そう分か

映画と私と、私

田舎のショッピングモールの上階の端にある、寂れた映画館に入った。そこからさらに一番端のシアターを目指し、劇場の一番後ろの席に座った。 約一年前の春に、「少女は卒業しない」という映画を観た。 昨年、この日の体験について記事を書いた。それから、時間の経過によってあの日の記憶は変容し、当時はふわふわと浮いていた感情に輪郭が与えられた気がしている。 嘘をつけない自分の感度を信頼していい。 だから、映画のために過ごしたあの日の記憶に意味を与えなくていい。 年々日常的な冒険をしなく

映画の外側

電車を乗り換えて、90分かけて映画館に向かった。寂れたショッピングモールの3階の、小さな映画館の端のシアターは、横がスクリーンと同じ幅しかなかった。 全国公開から一か月遅く、二週間だけの公開。県内で観られるのはここ一か所だけ。ちなみに、今日が公開初日で、上映時間は午前と夕方の二回。 奥の奥に、ひっそりと私が観たい映画があった。 狭いシアターながら、一番後ろの真ん中辺りの席に落ち着くと、やはりそこは映画館だった。誰もいなかった。このまま一人も入ってくるなと願ったが、上映時刻を