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100分de名著(NHK)のバックナンバーを読んでいくプロジェクト

序 

 記憶は過去へ延長した自我によって多少の脚色を受けるために、かつて自分がどんなことを考えていたかを想像するのは極めて難しいことだ。中高時代、僕は中国古典を読むのが好きだったけれど、今思うと何を思って漢文の世界にのめりこんだのか、はっきりとしたことは思い出せない。それでも時折『論語』などの本を紐解いてみると、素朴で力強い言葉の数々が数千年の時を超えて現代に残っていることの不思議さを感じるとともに、当時の自分も今の僕と同じ、こういう感覚を抱いていたのかもしれない、と妙な懐かしさを覚える。孔子は『詩経』などの古典から、人生や生活に必要な思想や真実を獲得しようと奮闘した。「述べて作らず」や「温故知新」などの言葉はあまりに有名であるが、これも孔子の思想のほんの断片に過ぎない。偉人の思想にはある程度の普遍性があるし、複雑で狂気じみた現代に生きる僕らも、心の底ではどこか彼らの生き方に学びたいと思っているはずである。

 最近『100分de名著』なるNHKの番組があることを知った。今「知った」と言ったものの、10年ほど続いている長寿番組であるし、僕もどこかで聞いたことがありつつ気に留めていなかったのかもしれない。ところが昨年『カラマーゾフの兄弟』の特集がきっかけで過去の放送を探ってみる機会を得た(ドストエフスキー全集を通読するくらいにはこの作家が好きで、今でも『カラマーゾフの兄弟』は僕の最も好きな小説として揺るがぬ位置にある)。そこにはまだ自分の知らない世界が広がっており、日頃理論物理の世界ばかり見ている僕にとって非常に新鮮なものだった。そのページからいろいろかいつまんで読んでいくうちに、一つ一つ記録を付けていくのも悪くなかろうと思い、メモ帳代わりに当ノートを立ち上げることにした。
 無論、最初から全部通読したいという思いが僕の中にあったわけではない。もともと本は好きだから、気になる書物をアーカイブの中から調べては書店で手に取って読む、くらいの生活を続けていたところ、気が付くと過去紹介されていた本の三分の一ほどを読み終わっていた。いわば自然と通読のめどが立ちそうなのである。しかし「100分de名著」で紹介される書物の中には、素人一人が読むには難しすぎたり、途方もない長すぎる大著があったりする。難解さでいえばスピノザの『エチカ』やカントの『純粋理性批判』が筆頭に上がるだろうし、読破に年単位を要しそうな長い本には『資本論』や『千夜一夜物語』、あるいは『三国志』がある。断っておきたいが、僕は読書マラソンをしたいのではなく、単に日頃の読書習慣の支柱としてNHKの『100分de名著』を掲げているだけである。正直全部読んでやろうという志は確かにあるものの、あと半年以内にとか、一年以内にとか、曖昧な期間を設けて急いで読むというようなことはしたくない。何よりそういう読み方は僕は好かない。僕は現在大学生で、コロナ禍も相まって時間は腐るほどある(本当か?)。たまたま与えられた時間的余裕の中発見した特権のごとき趣味を追求し、何年かかってもいいから、古今東西の名著をじっくり味わってみたいのである。
 もともと様々な分野の本を手当たり次第に読むことにはリスクもある。専門性、より正確性に言えばアイデンティティの散逸に繋がる、という。間違いないと思う。だが個性が重要視される現代において、視野に一般性を持たせておくこともまた同時に重要なのではないか。尖った専門性によって盲目になる前に、人間が一生かかって研究するような美しい世界、価値ある思想の存在を知っておけば、傲慢と偏見で人を傷つけてしまうような悲劇も少なくなるのではないだろうか、そう僕は考えている。

 過去に読んだ作品はリストに挙げておく。リンク先に感想があるものもある。

読んだ本リスト


・【2】『論語』(孔子)
・【4】『学問のすすめ』(福沢諭吉)
・【6】『君主論』(マキャベリ)
・【8】『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)
・【9】『徒然草』(兼好)
・【10】『武士道』(新渡戸稲造)
・【12】『変身』(カフカ)
・【13】『パンセ』(パスカル)
・【14】『夜と霧』(フランクル)
【15】『かもめ』(チェーホフ)
・【16】『方丈記』(鴨長明)
・【17】『相対性理論』(アインシュタイン)
・【18】『星の王子様』(サン=テグジュペリ)
・【19】『般若心経』
・【21】『こころ』(夏目漱石)
・【23】『戦争と平和』(トルストイ)
・【24】『饗宴』(プラトン)
・【25】『古事記』
・【28】『罪と罰』(ドストエフスキー)
【29】『風姿花伝』(世阿弥)
・【30】『愛するということ』(フロム)
・【31】『孫子』(孫武)
・【33】『旧約聖書』
【34】『遠野物語』
・【36】『アンネの日記』(アンネ・フランク)
・【37】『枕草子』(清少納言)
・【38】『菜根譚』(洪自誠)
・【39】『ハムレット』(シェイクスピア)
・【40】『茶の本』(岡倉天心)
・【47】『斜陽』(太宰治)
・【56】『堕落論』(坂口安吾)
・【57】『永遠平和のために』(カント)
・【58】『苦海浄土』(石牟礼道子)
・【64】『人生論ノート』(三木清)
・【67】『高慢と偏見』(ジェイン・オースティン)
・【68】『野火』(大岡昇平)
・【69】『全体主義の起源』(ハンナ・アーレント)
・【70】『幸福論』(ラッセル)
・【77】『ペスト』(カミュ)
・【82】『エチカ』(スピノザ)
【84】『大衆の反逆』(オルテガ)
・【86】『自省録』(マルクス・アウレリウス)
・【91】『燃え上がる緑の木』(大江健三郎)
・【92】『善の研究』(西田幾多郎)
・【93】『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)
【99】『共同幻想論』(吉本隆明)
・【100】『モモ』(ミヒャエル・エンデ)
・【103】伊勢物語

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