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【第7話】迷い猫


女将さんは少し申し訳なさそうに
お会計票を差し出した。

39800円。


ほう、4万円にしないところが可愛い。
少しでも安く感じさせようとする配慮が伺える
それはそうでしょ。
あれだけ飲んで食べてすれば
これぐらいの金額で収まる方がおかしい

私は5万円を差し出した
女将はとっさに
「1万円多いです」
と私に差し出す

私は「クリーニング代とパンツを買ってくれたお代金として
陽子さんに渡してください。」と

どこまで見栄張りなのでしょうか。
それでも、この迷い猫を女将さんからすれば
ちゃんと我が家に帰したい気持ちが
代金に現れているのかもしれません。
私はお会計を済まし 女将さんに少しお話を聞いた。
まず私が スッポンポンで 陽子さんを腕枕をして寝ていた件
その詳細はこうだ。


陽子さんと私はご返杯を繰り返し
陽子さんがある提案をしたらしい
参りましたといえば許してあげる」と。
そこに火がついたのが私である
何が何でもそれだけは避けなければならない
負けを認めるわけにはいかない。
お互いに意地の張り合いが始まったらしいです。



バブルの子


負けを認めることに対して人は何故そこまで執着するのでしょうか?
私が家出をした理由もそういったところにあるのだ
私のサラリーマン生活自体は順風満帆であった
なのになぜ家出 なんかをする羽目になったのか
うまく言えないがこの時代というのは
やはり勝ち負け なんだなと痛感しながら
私は生きていたと思います。
営業成績を上げるために
営業先の人を ヨイショ したり
酒の席で女性をアテンドしたり
とにかく自分の成績を上げるために
いろんなものを利用したのだ。
少なからず みんなそういうことをやって凌いできた。
先輩から教えていただいたことを実践しているだけ。
そこに 罪の意識 なんてない
バブルっていうのは 乗っかってこそぞと、
とんだ 旗持屋だ。

上客のお客さんが来た時
どの店に連れて行けば 機嫌よく 商談がまとまるかとか、
接待ゴルフなどどうやって褒めたら良いかとか、
グラスビール三分の一になったらお酌するとか
どこか 私は人の心理とか
人はどう言えばどうすれば 気持ちよくなってくれるのかとか
いわゆる 陽子さんもそこら あたりの女性で
ちょちょいのちょいと 攻略できるかと思っていた次第でございます。


バブル崩壊が起きたのは1991年とされています
日本は1986年頃から 好景気に入って
資産価値や株価が勢いよく 上昇していきました
日経平均株価 1986年末に ピークを迎えた後
急激に下がります
1990年10月には株価は半分まで落ち込む
日本は不況に入りました
この景気の下落を泡が急激に膨らんで弾ける様子に例えて
バブル崩壊まっしぐらと突き進んでいったのです。
私がなぜ家出をしたのか簡単に言えば
そういったことに嫌気がさしてしまったということか
資本主義社会の鍋の中
具材になることに
私はホトホト疲れていました。


ついつい私の癖で話があっち行ったりこっち行ったりいたします。

話を戻します🙇

陽子さんとその夜の宴
酒の飲み比べで負けそうになった
もうこれ以上飲んだら本当に死ぬなと。
トイレ籠城から帰還し
私は「命乞い」をしたらしい
(死ぬ覚悟をしているのにね)
ココで言う「命乞い」とはご返杯に対して
飲めなかったら1枚ずつ服を脱ぎますと
頼まれてもいないのに私が懇願したのだ
(あぁ、なさけない)
また それを 陽子さんは面白そうだからと受理する。

とはいえ
私の服は浴衣と帯とパンツ
しかございません。
稚拙な頭で考えたことは
今まで幾度かのピンチを救ってきた


裸芸


がそこで繰り広げられるのです。




デンセンマン電線音頭





チュチュン ガチュン  チュチュン ガチュン
電線にスズメが三羽止まってた
それを 猟師が鉄砲で打ってさ 煮てさ焼いてさ 食ってさ。
あ、よいよいよいよい おっとっと と、
よいよいよいよい おっとっと
チュチュンガ チュン
 チュチュン ガチュン

 勉強は 国語算数理科社会 休み時間に弁当 くってさ…


すっ裸になるまでの三部作
1,浴衣脱いで
2,パンツ脱いで(普通先に帯だよね)
3,帯でアレをかくし芸(まわしみたいにしてね)

布留珍之介と言う
ストリップダンサー仕様で
脱いだり着たりを繰り拡げるスペクタクル巨編。

全米が泣いた、かもしれないくらいのこっ恥ずかしさ!


女将さんも陽子さんも親父さんも
そして、弟さんも大笑いしてくれたそうな


ただ ここからが修羅場だった。
この酔っ払い男は酔いに任せて今しでかしていることを
陽子さん、女将さん、ご家族いる前で
全部ぶちまけてしまったのだ。

そこに 陽子さんは酔っ払っているって言うところもあって
先にも述べたように
父親が家族を捨て家を出て行った
その無責任さに
家出している私に対して
激昂し殴られながらではあったが
陽子さんの父親に対する愛が
見え隠れした「ひと幕」だったのです。

女将さんから昨夜の詳細を聞き旅館の会計を済ますと
女将さんは
「陽子を起こしてきますからちょっと待っててね」
と階段を上っていく姿を見ながら
私は旅館を後にするのでした。

その時の心情

自分はつくづくクソだとそう思いました。



夕映え


バス停まで10分くらい歩いて行ってると
クラクションが猛々しく鳴った
陽子さんだった。

陽子「昨夜はゴメンよ~」
私は調子よく
「あはは、大丈夫だぁ」と作り笑顔。

陽子「すまん!たんこぶできとるがか?」
と触ってくる

私「…お父さん、恨んどる?」

陽子さんも調子よく
「あはは、大丈夫だぁ」

私「お父さん、会いたいがか?」
なれない土佐弁で返してみた。

陽子「…送って行くよ。乗んなよ」

甘えることにした。

お互いにいや~んなムードが漂うのを嫌って
昨夜のお酒の戦いを振り返る話に終始した。
国道56号線 東宿毛 松田川を渡って
山道に入っていく中村駅まで乗せて行ってもらうことにした。

陽子さんから
「あんたの飲みっぷり、イカしてたし 裸芸イカれてたよ」
「弟があんなに腹抱えて笑ってるの見てて嬉しかった」
「ありがとね」
とポツリ褒め言葉を頂いた。

「陽子さんこそ、 酒 強すぎ!男とうまくやろうと思うなら
もう少し弱いふりした方がいいよ」
と助言してあげた。

陽子「男はもうイイ!」
いささか、嫌悪感を抱いていらっしゃるようだ。

カコバナはやめておこう。

運転する陽子さんの横顔が夕焼けに映えて
少しキュンとなってしまった。


【第8話】世界で一番最低な男


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