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いためりつくれり

今朝、ルリナから「これから行きます」というショートメールが入った。

週末はルリナが私の家で勉強する日だ。

ルリナはちゃんと家を出る前に私に連絡してから訪れてくれるから、礼儀正しくて素晴らしい子だと思う。

しかし、朝のうちは凍てつくような冷たい強風が吹き荒れていたので、少し心配になった。
ルリナのアパートから私の家までは、徒歩で20分ぐらい。
吹きさらしの農道を通ってくるわけだけど、本当に大丈夫だろうか。
居ても立ってもいられなくなり、私は着の身着のまま家を出て、道の途中までルリナを迎えに行った。

見通しの良い農道でルリナは遠くから私の姿を見つけると、風が吹くなかを元気よく私のところまでバタバタと走ってきた。

「先生、どうしたの?」
息を弾ませながらルリナが尋ねてきたので、「風が強いから迎えに来た」と私が答えたら、ルリナはケラケラ笑ってこう言った。

「もう、いためりつくれり !」

ん…?
今、なんて言った?
それを言うなら「いためりつくれり」じゃなくて、「いたれりつくせり」だろうよ。
私はそんな説明をしながら、ルリナと笑って家まで一緒に歩いた。

午前中からしっかり勉強して、ランチはルリナが大好物だというパスタをまたつくってやった。
今日はナポリタン風のオムレツ乗せ。

「はい、イタメシ つくれり!」
と言って料理を出してやったのだけど、ルリナはきょとんとしている。

しょうがないので、蛇足とは思いつつも、ルリナの「いためりつくれり」「イタメシつくれり」を掛けてみたのだよ…と丁寧に解説してやった。
ダジャレを改めて解説するほどしらけるものはない。

すると、ルリナが「イタメシって、何?」と真顔で尋ねてきた。

そうだった!
そもそもルリナがそんな言葉を知るはずもない。
イタメシはすでに死語だったのだ。

「イタメシ」とは・・・
イタリア料理を基にしたカジュアルな和食の一種。
ナポリタンなどが典型的な例。
本物のイタリア料理と区別するために、かつてはよく使われた。
1990年代のイタリアンブームを象徴する言葉となり、当時の若者の間で一世風靡したが、バブル崩壊後にやって来た日本経済の低迷とともに、いつしかブームは去って死語となった。
今では昭和のおじさんが使う奇妙な言葉の1つとなっている。

またしても、ルリナとのジェネレーションギャップを感じた私であった。

でも、ルリナは私と一緒にいるのが楽しいらしく、勉強が終わってからもなかなか帰ろうとしなかった。
いろいろおしゃべりをしたり、数年前にリフォームして作ったシアタールームでさまざまな大自然の映像をサラウンドで見せてやったりしたら、すごく喜んでくれた、

おやつには クリームたい焼きを出してやった。
冷凍食品のたい焼きだけど、電子レンジとオープントースターを使って調理すれば、まわりはサクサク、中身はとろ~り、である。
案の定、ルリナにも大好評だった。

すっかりまた帰りが遅くなってしまったので、ルリナをアパートまで車で送ってやった。
母親のマナミはあいかわらずまだ仕事中らしくて帰っていなかったので、「今、ルリナをおうちまで送りました。帰りが遅くなってしまって、ごめんなさい!」とメールを送っておいた。

するとマナミから返信が来て、「いえ、ルリナをできるだけ長く預かっていただけると逆に助かります。今後ともよろしくお願いします!」とあった。

(やっぱり俺は託児所扱いかよ…)
・・・と思いつつも、なんだかそれも嬉しいと思っている自分もいる。