隠し調味料。
ふと、女川に行ったときのある出来事を思い出した。
女川には震災後に、二度訪れたことがある。
手前の石巻には片手以上両手未満訪れているが、
ちょっと先の女川まではなかなか。
一度目は、仙台のとある場所に行った時に、偶然知り合いと再会し、
女川まで連れて行ってもらった。
その日の予定は、仙台を経由して石巻に行くつもりだったので、
とある場所を訪れた。
知り合いは女川に行く予定だったので、石巻まで送ってくれるという話に。
車の中で話をしていたら、女川まで女川丼を食べに行こうという流れに。
女川丼の美味しい味を覚えていて、食べたくなって、
二度目の女川でもそのお店(「おかせい」)をまず訪問することに。
お店が女川駅前に移転する前に訪れ、駅からは結構遠い。
そういえば、泊まったトレーラーハウス(「ホテル・エルファロ」)も、
駅前に移転しているようだ。
女川と石巻では、復興のスピードが本当に違うことを、訪ねる度に感じる。
美味しい味に期待をふくらませながら、
大きな不安がコバンザメのようにくっついてきた。
何といっても、私は極度の方向音痴。
見知らぬ土地では、必ずといっていいほど、道に迷う。
何を隠そう、見知った土地でも、道に迷ったりする。
ましてや、前回は車で送ってもらったので、身体は覚えていない。
でもグーグルマップがあるから、大丈夫!と意味不明な自信だけはあった。
しかし思い、いや願いは、消えていった。
当時、女川駅周辺は日々開発が進んでいて、
マップに反映されていなかった。
そんなことを知らずに、マップが示す経路を頼りに、お店に向かった。
しかし、違う方向にどんどん向かっていく。
海のそばだったのに、どんどん陸地の方へ。
行きたいお店から、遠ざかっていく。
女川丼のランチタイムは決まっていて、もう無理だと思いつつ、
味の思い出を頼りに、重たい荷物を持って小走りで向かった。
機械に頼らずに、工事の人に道を尋ねながら、何とか辿り着いた。
結局着いたのは、ランチタイムが終わってから。
食べたかった女川丼は諦めて、お店の中に入った。
大きな荷物を背負って、大汗をかいて、うらめしそうな私の姿。
それをみたお店の人が声をかけてくれた。
事情を話すと、京都から来たことなどから、女川丼を作ってもらえた。
もう食材がなかったので、あり合わせでと。
ふと、大学生時代のアメフト部の練習帰りのとある光景を思い出した。
確か夜8時過ぎだっただろうか。
練習グランドは、大学からバスで数十分かかる。
大学からスクールバスがあるが、最終に乗り遅れた。
小高い練習グランドから近くのバス停まで、とぼとぼ数人の仲間と歩いた。
途中、グランドから降りてくる車をうらめしそうに追いかけた。
すると、コーチと先輩の車が二回止まってくれた。
コーチは優しく、先輩は怖い(やんちゃな)人。
コーチの車は忘れたが、先輩の車は車高を低くしたレビン。
どんな車か、誰が運転しているかはわからない。
ただ、「乗せていってくれ~」の思いで車を見ていると、止まってくれた。
二人とも、同じことを言った。
「○○(私の苗字)がうらめしそうな顔していたから、乗っていくか。」
万歳したかったが、周りが反対して乗れなかった。
コーチや先輩の車に同席するのが、嫌だったらしい。
どうもうらめしそうな顔をすると、可愛そうだと思ってもらえるようだ。
女川丼の時もそうだった。
なぜだか、二度目の方が美味しかった。
人の温かさと優しさが隠し調味料として入っていたからかもしれない。
ふとまた、東北に行きたくなった。
そして、日本中の隠し味を食べに行きたくなった。