【読了】深水黎一郎「テンペスタ 最後の七日間」
深水黎一郎「テンペスタ 最後の七日間」読了。20250112
ジャケ買い。長編。
冴えない大学非常勤講師の「賢一」が、小4の姪「ミドリ」と過ごした、嵐〈テンペスタ〉のような7日間の話。ある日、都内で一人暮らしをする賢一のもとに、郷里に住む2つ下の弟から一本の電話が。「東京に行きたいと言って聞かない娘を一週間だけそっちで面倒見てくれないか」。何年も会っていなかった姪は、生意気で舌鋒鋭い美少女になっており、気弱で持病持ちの賢一はタジタジ。わがまま放題の東京観光(刑場跡地などの激渋スポット)の中で、ミドリは大人なら見てみ見ぬふりをするようないざこざに真っ向から体当りして蹴散らしていく。賢一はヒヤヒヤしながらもその若い勇気を眩しく思い、同時にそれを既に失っている自分の暗さをより濃く意識する。一方で、都内では連続少女誘拐事件が発生して、連日ニュースを賑わせていて……。という感じ。
視点はあくまで伯父の賢一だが、実際的な主人公は姪のミドリ。若さゆえ知識も無いが先入観もないため、変な読み間違えや言い間違いもするし、美術や文学の名作にも容赦ないツッコミを入れていく愛すべきキャラクターである。我々読み手は良くも悪くも知識と先入観を持った立場(=伯父)として、ミドリの想定外のぶん殴りを浴びまくるのが、この小説の読み方における一つのモデルケースなのだと思う。
ミドリの滅茶苦茶な「間違った日本語」に当てられた伯父は、段々と「正しい日本語」に疑念が生まれ、そもそも言語なんて正しいとか間違ってるとか決められないんじゃないか、というところまで行き着く。個人的にも、言葉とかフレーズとかは「雰囲気伝わりゃええやん」というスタンスなので、ミドリを礼賛してやまない。Wordで勝手に引かれる赤い波線を何度無視したことか。こまけーこたぁいーんだよ!
というところまで書いて、こっからこまけー話をする。
本書を楽しく読み終わった方はここらへんで戻ってください。
思いっきりネタバレもします。
期末テストで学年5位以内に入ったらなんでも一つの言うことをきいてやる(どうせ無理だろうけど)、とミドリの父(=賢一の弟)が安請け合いした結果、見事ミドリは5位に食い込み、憧れの東京観光を叶えた。え? 最近の小学4年生って期末テストあるん? 私立かと思ったけど、ミドリの一家はおそらく東北在住であり、発言の中からもあまり小学受験を匂わせるような要素がない。そういう小学校もありますよと言われればそうですかとしか返せないが、なんか理由感じ取らせてよ。
ミドリは、賢一の大学の夏休み期間に合わせて上京している。小学校と大学の夏休みがラップするところとして、小説内の時期は8月なんだとイメージ。しかし、賢一の唯一の娯楽として大相撲の中継(のダイジェスト再放送)を観るシーンがあり、これが場所中であった。8月には大相撲は開催されないので、必然的に名古屋場所の7月中旬〜下旬の話とわかる。さらに、ミドリの東京滞在4日目に千秋楽があるので、この日が7月の最終日曜日。逆算して1日目が木曜日。七日目は水曜日。この七日目は、東京観光最終日にして、ミドリの両親が夫婦水入らずの旅行から帰ってくる日である。ミドリの父は会社員だ。水曜日に帰ってくる? しかもその2日前の朝に出発したという記述があるので、月火水の2泊3日の旅行となる。7月末から8月頭あたりの月火水で旅行ね。ふ〜ん。土日は家でゆっくりしてたんかな? ふ〜ん。
ミドリが賢一の袖を引っ張って先を急ぐシーンがある。半袖じゃないんだ。夏なのに。
賢一は、両親を相次いでなくしており、弟の竜二(=ミドリの父)とは法事の時くらいしか会っていない。ミドリ(現在9歳)が幼稚園に上がるか上がらないかの後に両親をなくしているとあるので、他界したのは6年ほど前になる。賢一は、両親をなくしてからミドリに会っていないらしい。つまり、ミドリは法事には現れず、竜二とだけ会ったことになる。なんで?
賢一は現在35歳で、両親が相次いで亡くなったのは6年ほど前なので、29歳の時。親が何歳のときに生まれたのかは不明だが幅を見て、25〜40歳で賢一を授かったとしたら、両親は54〜69歳で亡くなっている。若いと思うよ。物語のラストの転調で、竜二夫妻は死ぬのだが、信用ならないとかいう理由で生命保険に入っていなかったし、わざわざ団信のない住宅ローンを契約している。両親がこの年齢で死んでるのに。しかも妻の方は子供の頃に両親を事故で亡くした交通遺児である。物語のために捻じ曲げられていると感じざるを得ない。
赤ちゃんの紙おむつにも使われている「高分子ポリマー」という素材が出てくる。サハラ砂漠でチゲ鍋でも食べててください。
こういうのは全て釣りで、指摘しようものなら、こまけーこたぁいーんだよ! とミドリにどつかれるのだろうか?