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今、読みたい! 岸 惠子『愛のかたち』

編集部・出口が、ZIEL読者のみなさんに今、読んでいただきたい本を紹介する連載「ZIEL編集部が選ぶ 今、読みたい本」。毎月の特集テーマと関連のある内容の本を選び、紹介していきます。

第4回目に紹介するのは、2021年2月9日に発売された岸 惠子の『愛のかたち』。2月の特集テーマ「冬に感じたい、甘い日々」に関連して、5人の男女のさまざまな愛のかたちを描いた作品を紹介します。

文:出口夢々

登場人物が織り成す多様な「愛」

化粧品会社のパリ支店に駐在中の、渚 詩子。仕事に邁進する詩子は次々に成功を収め、周囲での評判も上々です。そんな彼女は休日、友人・アンヌの付き添いで訪れていた飛行場で、ダニエル・ブキャナンと名乗る弁護士と出会います。その後、詩子とダニエルは夕食をともにすることに。そこでなんと、ダニエルは「弁護を担当している少年を脱獄させたい」と語るのです。

詩子がよくよく話を聞くと、その少年は同僚に濡れ衣を着せられて捕まっており、孤児院出身で頼れる大人もいないとのこと。裁判で無罪を主張するも勝算がなく、途方に暮れたダニエルは少年を脱獄させようと思い至ったようでした。

なぜダニエルは弁護士資格を剥奪されるリスクを冒してまで、少年を助け出そうとするのか——それは、ダニエル自身の身の上と少年の境遇に重なる部分があったからです。実は、ダニエルはアンヌの血の繋がっていない弟。複雑な家庭環境で過ごした彼も、頼れる大人がおらず、孤独を感じながら生きていたのです。

そんなダニエルに徐々に惹かれていく詩子。事件と、そして自身の家庭環境と向き合おうとするダニエル。夫との関係性を再構築しようと努めるアンヌ。登場人物たちが描く多様な「愛のかたち」に触れられる、大河恋愛ロマンです。

「愛」と聞くと、ものすごく崇高で尊いものをイメージしてしまいがちな自分がいます。

何かを愛することも、愛を語ることもむずかしいなと思いがちです。ですが、この物語で描かれている人々のあいだには、どこを切り取っても「愛」がありました。親子の葛藤、女の友情、男女の運命の出逢い——。その「かたち」は相手によりけりですが、相手を強く思いやる気持ちは「愛」そのものです。

「自分では気づいていなかったけど、私のまわりにも愛が溢れているのかもしれない」。
物語を読み進めるうちにそう悟った私の頭には、悲しいことがあったときにそばにいてくれる友人や、困ったときに助けてくれる同僚、毎日些細なことで笑い合う家族の顔が浮かんできました。

「なんだ、私のまわりにも愛があったんだ」、「愛があるからこそ、よりよい人間関係を築けているのかもしれないな」——そう思った瞬間、大切な人たちを、そして自分自身をより好きになれた気がします。大切な人を大切に思う気持ち、それこそが私の「愛」なのかもしれないと気づけたのです。

表題作「愛のかたち」に加え、パリの屋根裏部屋で暮らす男女の物語「南の島から来た男」も収録されている短編集『愛のかたち』。普段の生活では認識しにくい、自分自身の「愛」に気づける1冊です。

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