23-新フィールドでの第一歩!
【前回のお話】
(942字・この記事を読む所要時間:約2分 ※1分あたり400字で計算)
鏡の前で何度も何度も身だしなみをチェック。
カバンの中に履歴書と筆記用具がきちんと入っているか。
忘れ物はないか。
一つ一つ念入りに確認した後、グイとドアノブを回した。
心が躍っていた。
(いざ、人生の第二章の始まりだぁ!)
ーーなんてふざけたことを考えながら、玄関の外に出た。
晴天。
初夏の日差しが異様にまぶしく、それが私を更にワクワクさせた。
今日の用事は2つ。
アルバイトの面接、それと、S教授との面談だ。
まだ使い慣れていない日本の電車におどおどと乗り、色とりどりに流れゆく一軒家の屋根を窓辺から眺め、新鮮さで胸がいっぱいだった。
前職に務めていた時も来日はしていたが、全てが慌ただし過ぎた。
一切の余裕を与えられず、日常が全て会社に奪われていた。
ひたすら仕事、仕事、仕事の毎日だった。
ゆっくり日本を味わう余裕なんかなかったのだ。
けど、今こうして一人静かに電車に揺られていると、「私は確かにまた日本に来たのだ」と実感出来る。
日本語の車内アナウンス。
明るくて整然とした町並み。
ガタンゴトンと伝わってくる線路の響き。
この新たなフィールドで、私は自分の人生を立て直すのだ。
まずはアルバイトの面接へ。
応募した仕事は、倉庫での検品作業だ。
正直、時給はそんなに高くない。しばらくは切り詰めて生活しないといけないだろう。
けれど、これにはちゃんと私の考えがあった。
経済面で考えると、接客業とかの方が断然条件は良い。
だが、なんせ当時の私は非常にコミュニケーション力が不足していた。
加えて小心者で、些細なことでも異様に緊張したりあがってしまう。
正直、体調もまだ不安定なままだった。
たとえ無事面接に受かっても、ストレスで倒れることは火を見るよりも明らかだ。
いきなり無茶な挑戦で失敗して自己嫌悪に陥るぐらいなら、まずは無難なことから少しずつ成功体験を積み上げ、自信感を育てるべきだろう。
そして、徐々にこなれてきてから次のステップへ進めば良い。
商店街の一角にひっそりと佇むこぢんまりとしたビルに入り、こつこつと階段を上がった2階の一室に、その会場があった。
予想していた「面接」とは随分と違った。
教室のような部屋にデスクと椅子がぱらぱらと並べられており、複数人で一斉にスタッフの案内を聞く。
いわば「説明会」のようなものだったーー
(つづく)