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#103 お前は風媒花として、それでも良いのか!スギ!

(1271字・この記事を読む所要時間:約3分 ※1分あたり400字で計算)
 
 風媒花。
 
 何だこの小難しい単語はと思って、インターネットで検索してみたところ、
・風によって花粉が運ばれて受粉する花
と結果が出た。
 
 ああ、こういった受粉の仕方をする花、それらを専門的に指す言葉があったのか。
 
 
 身近で、ずっと知っているつもりの存在。
 なのに名前でさえ分からない、または思い出せない。
 
 いつも「あの~あれあれ、あの、ああいうこういうやつ」といった、ぼんやりとした表現で誤魔化している。
 
 風媒花であれば、「あれよあれ、あの花粉が風に飛ばされることで受粉出来るタイプのやつ」みたいな。
 
 
 詳しく知らないからといって、生きていくのに支障が出ることも無い。
 
 そんな物事達をつい疎かにしてしまいがちなのだが、こうして踏み込んで調べてみると、何だか面白味があって、
 「知らない」が「知る」に変わっただけで、なんだか普段の暮らしも以前より少し潤った気分になる。
 
 
 よし、もう少し検索を続けてみよう。
 
 ほおほお、風媒花の他にも、「虫媒花」や「鳥媒花」、「コウモリ媒花」は「水媒花」があるらしい。
 名前の通り、虫、鳥、コウモリや水によって花粉が運ばれる花のことだ。
 
 花の形、色、香りといった特徴がそれぞれ異なり、これによって媒体を惹きつけ、無事受粉が行われるようになっている。
 
 例えば鳥媒花は甘い香りがするので鳥を惹きつけやすく、花粉も多少の粘り気を帯びているので、鳥のくちばしに付着しやすい。
 鳥がよく目にする暖色系の色合いであるのも特徴の一つだ。
 
 一方で風媒花は無機物である風を介して花粉が運ばれるようになっているので、別の生き物から好まれやすいような派手さを持ち合わせてはいない。
 花の色は落ち着いた緑色や褐色などで、香りもほとんど無い。
 また、飛びやすいよう軽量であり、更に風が強い春の時期に咲くことが多いのだそうだ。
 
 
 ……はて。
 
 春の時期?
 
 
 続けての説明文には、こういった一節があったーー
 
 「代表的な風媒花:スギ」
 
 
 スギ!
 
 
 そうだったなぁ!
 君は正真正銘の風媒花であった。
 
 暖かくなる季節、春風とともにどこからともなく現れる、それはまさに風媒花そのものであるなぁ!
 
 
 だがしかし、スギ、君の花粉は説明によればもっと地味だったのではないか。
 受粉時に他の生き物を必要としないから、その分目立たない性分を持っているはずなのではないか。
 なのに君は、人間という生き物の注目を浴び、今やメディアでも大きく騒がられているじゃないか!
 
 そもそも、受粉するのに必要なのが「風によって運ばれる」ことなのだから、
 わざわざ寄り道までして人体に潜り込み、アレルギー反応を起こすような性質が無くても良いのではないのか。
 
 
 これで良いのか、スギ!
 
 お前は風媒花として、それでも良いのか!
 
 
 こうして一人の愚かな人類がモニターの前に坐り、断片的にかじり取った知識だけを理屈に自分の恨みを当たり散らしている間にも、
 大自然の流れはゆったりと進み、いつの間にか冬も終わりが見え、春が来ようとしている。
 
 天気は徐々に暖かくなり、やがて春の風が吹く。
 そして、風媒花達も競うかのように、子孫繁栄の希望を一斉に春風に托すーー
 
 
 くちゅん!
 
 
 くっ、忌々しい風媒花共め!

📚大自然は、人間の都合に合わせて動いてはくれないのだ

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