『天啓予報』第66章 もしもし?いますか?

第六十六章 もしもし?いますか?

 パン!パン!パン!
 シャンパンの瓶が石畳で砕けるように、銃身に落ちた雨水が弾け飛んだ。
殆ど凝固した時間の中で、機関銃の銃身の排気口から煙がもうもうと立ち上り、火花が散った。
 銃腔の中を旋回する銃弾は、腔綫によって摩擦され、火花を発した。三つの熱せられて赤くなった銃弾は銃口から飛び出し、空気を切り裂き、雨のカーテンに衝突した。
 金属に凝固した殺意は耳をつんざく音を立てて隊列を組んだ車の一番前の窓を撃ち砕き、助手席の見知らぬ顔にめり込んだ。
 血煙が上った。
 槐詩かいしはもとの場所に佇んだまま、壊れたフロントガラスを銃身越しに見つめながら、再び引き金を引いた。
 つづいて、耳を刺すブレーキの音が遠くから響いてきた。先頭の車は滑り、雨の中を横になってぶつかり、水しぶきを上げた。
 車は重心を失い、転がり、逆さまに地面に倒れ、動かなくなると、ゆっくりと煙を上げ始めた。車軸を外れたタイヤが地面に落ちて転がった。
 銃声は雨音のように絶え間なく続いていた。
 弾丸があたったタンクが爆発し。濃い煙が車体から噴き出し、天に昇っていった。濃霧の中で燃える篝火のように競争の光が散乱し、高架に立つ人影を照らした。
 鋭いクラクションと車が横転する音が響いた。そして高架全体が雨と霧によって都市から切り離されたようにぽつんと存在していた。
 槐詩は弾倉を抜くと、レインコートの下から新しい弾倉を取り出して装填し、前に向かって足を踏み出した。
 横転した車の後ろに、やってきた一隊の車が急停車した。
 数台の車は素早く後退した。だが一番先頭の車は転覆していた車に横腹をぶつけた。車窓が開き、乗っていたボディガードが銃を抜いて発砲した。
 ボディガード達は次々と車から飛び出してきた。そして一人が倒れた。
燃える車体を隔てて立っている槐詩は、ポケットを探ってそれを取り出し、 蓋を開け、押した。
 シーン……
 槐詩はぽかんとし、手元を見ると、また押した。
 驚くような轟音が響いた。
 巨大な音とともに橋に取り付けたプラスチック爆弾が爆発した。吹き上がる光がすべてを呑み込んだ。大きな瓦礫が高架から落ちてきて河に落ち、水しぶきを上げると見えなくなった。
 後退していた車の列は橋の行き止まりで急停止した。
 あとちょっとだったのに。
 槐詩は舌打ちすると、手に持った起爆装置を投げ捨て、また弾倉を取り出すと地上に流れる炎を飛び越えて、ゆっくりと彼らの方に歩いて行った。
 爆風は止み、空中に止まっていた雨が再び世界に落ちてきた。
すべてがひっくり返り、痩せた影を呑み込んだ
  ※
  ※
 激しい振動の中、戚問せきもんは深い眠りから目覚め、あやうく座席から落ちそうになった。
 彼は手を伸ばして前方の座席を掴み、驚いて運転席の何洛からくを見た。
「どういうことだ?」
「何物かに襲撃されました。旦那様、動かないでください」
 運転席の何洛はハンドルから手を離し、トランシーバーを取ると言った。
「0号車安全、2号車、3号車、4号車、いるか?」
 雑音の中、次々と回答の声が響いた。
 銃声の音を交えながら。
 濃密な暴雨は無尽の水滴を撒き散らし、まるで一切を呑み込むかのように、何もはっきりと見えず、ただトランシーバーから絶え間ない銃声、叫びと轟音が聞こえた。
 最後に、重々しい足音が銃声の中から響いてきた。
 バン、バン!ザー、ザー……
 まるで誰かが好奇心からもうひとつのトランシーバーをいじくり回し、力いっぱい叩きつけ、中の水を振り払い、それから口元に近づけ、面白がって呼んだかのようだ。
『もしもし――?戚問さんいますか?』
 誰も応答しなかった。
『チェッ。ハンターを探していないのか?まさか、そんなはずはないよな』
トランシーバーの声はきまり悪そうに咳をした。
『自己紹介しよう、俺は淮海路わいかいろの……ととと、つい口が滑った。俺は槐詩だ。戚問さんは俺を知ってるか?』
 戚問は何も言わず、ただ黙って、トランシーバーから聞こえる声を聞いていた。
 顔色は青黒くなっていた。
『ああ、実はどうでもいいんだ。知らなくても構わない』
 声は溜息をついた。
『俺の両親はずっとあんたに世話になっていた。二人が生きてるかどうか知らないか?』
 やはり誰も答えなかった。
 そして、残念そうな溜息が聞こえた。
『……そうか?じゃあしょうがない』
 バン!
 トランシーバーの向こうで銃声が響いた。つづいてまた数度。それからすっかり静かになった。
 薬莢が地面に落ちる音に続き、弾を装填するチャカチャカという音が聞こえ、それから車が爆発したような音がした。
 すぐに、華奢なシルエットが照らし出された。
 透明なレインコートが爆発の風の中で、死んでいった霊魂の服の裾のように縹渺とはためき、バタバタと鳴った。
 何洛の表情が険しくなった。彼はシートベルトを外し、肩を聳やかして筋骨を動かした。筋肉が動くにしたがって黒緑色の鱗が皮膚の下から現れ、少しずつ両腕と顔を覆い、再び彼を屈強なナーガに変えていった。
 道具箱から二連式散弾銃と四本の弯刀を取り出すと、何洛は敵を迎え立ち上がろうとし、戚問に肩を抑えられた。
「待ち伏せに気をつけろ……」
 老人の青ざめた顔に獰猛さが見え隠れしていた。
「商売敵の襲撃かと思ったら、まさか槐家の死にぞこないとは。まあいい、いっそ天国で一家団欒させてやろう!」
言うと、戚問は電話を取り、ある番号を押した。
「いつまでのんびりしているつもりだ?まさかたった一人のガキが怖いのか?」
「戚社長、迂回するのにも時間がかかります」
 電話に出た男は困ったように言った。
「もうちょっとで爆破されて河に落ちるところだったんですよ。東夏は平和な国じゃなかったんですか?こんなにあちこち爆発するなんて。ここじゃ子供まできちがいになるんですか?」
昇華者しょうかしゃかもしれん。甘く見るな」
「ご安心を」男は笑った。「戦争は、我々の専門です」
 その時ジープのエンジン音が橋の断絶していない方から響いてきて、数台の車両が雨の幕を切り裂きながら突進してきた。
 車の天井がゆっくりと開き、中から何かが持ち上がってきた。防塵布に覆われているそれは、獰猛な形をしていた。布が取り去られた。隠れていた機銃が現れ、鋼鉄が光を反射した。
 つづいて、無数の灼熱の銃弾が、震える銃身から暴雨の中に飛び込んでいった。
 狂ったように振り回された機銃が吐き出す雷がすべてを薙ぎ払った。

訳者コメント:
すみません、うっかり第66章をアップし忘れていました……
後でマガジンにまとめる時に正しい順序に並べ直します。
さすが戚問、軍隊を護衛に付けていたとは……

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