『天啓予報』第68章 怪物
第六十八章 怪物
まるで雷が胸に落ちたように、まず心臓が跳ねるのを感じた。響き、胸が破裂するように動き、すべての血液が溶岩となって、狂ったように流れ出した。
瞬間的に収縮した筋肉は爆発するように拡張し、言葉にし難い力と速度で、槐詩をこの暴風と驟雨の中走らせた。漆黒のインクが霧の中を伸びていくように。
短い静寂の中、雷が再び轟いた。
いくつもの銃声とともに。
槐詩が飛び出した瞬間、傭兵たちは微塵も躊躇わずに引き金を引いた。交差した火力の網が少年の影を閉じ込めた。
槐詩はすべての方向を閉ざされていた。ジープの屋根の機銃が再び旋回し始めた。
引き金が引かれた。
瞬間、すべての人間の目の前を、白いものが横切った。
それは光。
液化した純銀のような雨が降っている。無数の鋼鉄の欠片から発せられる冷たい光が、見る人の目に痛いほど刺さった。
それは雷の光。
怒り狂った雷が空から落ちた。神の怒りの鞭は燃える車体を打ち、烈火を砕いて火花が巻き起こった。
無数の細かい雷光が蛇のように走って、樹木のように枝分かれし、貪欲に周囲の金属を舐めるように空気中の弾の間を飛び跳ね、少年の瞳を照らした。
漆黒の中、赤い光が輝いた。
彼は見た。
暴風と豪雨、飛び交う銃弾、炎と霧。狭まる包囲。
すべてが電光の中で止まった。
無数の水しぶきが上がった。
槐詩は大地を踏みしめ、電光と金属が織りなす檻から飛び出ると、殆ど凝固した風の中で身を翻し、地上に落ちた弾丸をかすめて火力の檻から抜け出した。
槐詩は雨に打たれながら、まとわりつく霧を裂いて、肺腑から発せられる咆哮とともに、背後に隠していた腕を前に突き出した。
重い祭祀刀が彼の手から飛び出し、中空に雷光を曳きながら雨の幕を破って、旋回掃射している機銃の操縦者の頭蓋骨に突き刺さった。
ドッ!
悲鳴は聞こえず、噴き出す血は見えなかった。その運の悪い人間は妖刀に内側から吸われてあっという間に干からびた骸骨となった。
傭兵たちが銃口を少年に向けた時、彼は既に自分の旅行鞄の傍にいた。
そして彼らに最後の笑顔を見せた。
「ガスマスクをしているといいけど」
少年は銃口を足元の旅行鞄に向けると、引き金を引いた。中のビニール袋が破れ、黒い灰が飛び散った。
少年の銃を握った手から白い炎が燃え上がり始めた。
粉塵爆発のように、
劫灰から生まれた暗黒がすべてを呑み込んだ。
壮絶な悲鳴と恐怖の咆哮が響いた。
恐れと絶望に呑み込まれながら、彼らは一対の赤い目を見た…… .
暗黒は次第に消散しつつあった。指揮官は椅子の上で体を縮こまらせ、捨てられた子供のように泣いていた。
そして、彼は車のドアに寄りかかっている少年を見た。
見えない力に引き寄せられるかのように、劫灰が集まって作られた暗黒は一筋一筋と彼の体に入っていった。怪物のように、少年は実体を持った恐怖と絶望と死を呑み込んでいた。
槐詩は頭を低くして、芸術品のような祭祀刀をベストに仕舞うと、慎重に銃に弾を籠めていった。ひとつずつ、入念に。
「あんたたちはちっとも精鋭じゃない。プロともいえない」
壊れた窓の外、少年の持っていた弾はすべて籠められた。彼はゆっくりと 武器を持ち上げ、最後の敵に暗い銃口を向けた。
「せいぜい、戦争をしている野良犬ってところだ」
引き金を引いた。
バン!
すべてが静かになった。
空から落ちてくる雨の中、少年は振り返り、背後を見つめ、静かに待った。
※
※
静かな車内。何洛は雨の中で自分を待っている少年を見ていた。
戚問の表情は絶えず変化していた。彼は沸き上る焦りと怒りを努力して抑え込んでいた。
「奴は何をしている?」
「私を待っています」
何洛は小さく溜息をついた。
「私がここにいるのを知っています」
言うと、何洛は銃を抜き、銃身を持って戚問に手渡した。
「旦那様、私に何かあったら、一人で金陵へ行ってください」
戚問の表情がサッと変わった。平静を維持することができなくなっていた。
「ま……まさか黄金級の昇華者のお前が、負けると?」
「あの小僧は……」何洛は首を振った。「ただものではありません」
何洛はゆっくりと立ち上ろうとし、戚問に引き留められた。
「行くな!」
戚問の眼は見開かれ、顔は引きつっていた。
「あんなキチガイにかまうことはない。ここは現境だ!すぐに、すぐに警察が来る!」
何洛は思わず笑った。
「まさかあんなガキから二度も尻尾を巻いて逃げろと?」
何洛は雨の中の悪鬼のごとき少年を凝視し、目を細め、氷のように冷たい声で言った。
「ここで奴を殺しておかなければ、我々は枕を高くして眠れません」
鱗が生えて皮膚を覆い、蛇に似た残忍な顔が現れた。
「すぐに戻ります」
ゆっくりとドアが開き、何洛は激しい雨の中に入っていった。
前進するにしたがって、二本の太い腕が、コートの肩甲骨の裂け目から現れ、背後の二本の緑青の浮く弯刀を抜いた。
長い尻尾がコートの下から伸び、水たまりを掠め、緑色の毒を滲ませた。
源質の燃焼により、第二段階・黄金級の聖痕――ナーガが完全に起動し、その体は身長三メートル四本の手の蛇人となった。
四本の腕を広げると、地上の流水は見えない力に引き寄せられるかのように、カーテンのように彼の周囲に凝固した。
天竺由来の聖痕・ナーガはもともと毒龍と大蛇である。ミャンマーに伝わり、錬金術師たちが当地の奇跡を融合させ、いまのような四本腕の姿になり、水と親和する天賦が加わった。
海上や湿った場所、雨や雪の天気の時に、力は倍加する。
いまの彼は最高の状態と言っていい。
まだ第三段階に達していないとはいえ、内側から伝説の生物への変化を開始しており、驚くべき殺傷能力を備えている。
何洛は雨の中の少年を見つめ、人ならざる顔に獰猛な笑みを浮かべた。
槐詩はゆっくりと祭祀刀を抜いた。
鮮血を腹いっぱいに吸って、刀峰は燦然と輝いていた。
訳者コメント:
戦闘シーンの描写がなんとも詩的で、原文の美しさを翻訳で表現できないのが残念です……!!
さて、次の章はいよいよ槐詩と何洛の対決です。しかも何洛に有利な条件の中で。雨が降っているのは単に雰囲気づくりのためだけではなかったのですね。