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Duolingo 補完計画 ーアプリをゲームから教材に引き上げるために

Duolingoを始めて1年が過ぎた。この間、日々試行錯誤してこの学習アプリを多言語学習に組み込んできたので、今回は私なりのアプリの使い方について書く。アプリの使用実感を言葉にして語学学習について考える機会としたい。

私のDuolingoの設定と環境

学習言語:フランス語とドイツ語
アプリ内の言語:英語
使用端末:iPad
プラン:Duolingo Super
一日のプレイ時間:30分〜50分
現在のレベル:両言語ともSection4(A2)

フランス語を始めたのが23年11月で、ドイツ語は24年2月ごろ。インターフェイス言語を英語にしたのはその方が内容が充実していると思ったため(当時はあまり深く考えずにDuolingoの原語は英語だと思っていたが、CEOの出身はグアテマラで本社はアメリカのピッツバーグ)。出先などではスマホでやることもなくはないが、基本的にはiPadで毎日の学習の始めにウォーミングアップとして取り組む。フランス語とドイツ語を日替わりでやってるが、どちらかの言語に集中した時期もあった。無課金だと広告が煩わしい上にライフ制限がある(これ重要)ので、年払いでDuolingo Superに加入している。AIと会話等ができるコースのMaxにも興味はあるが、なかなかのお値段のため二年目になってもプランはDuolingo Superのままだ。

個人的学習方法

・並び替え問題はキーボードを使う
・ボイス機能を活用
・疑問点はちゃんと調べる
・Legendaryに挑戦する
・読み物でディクテーション

どういうことなのか順に説明していく。

1、並び替え問題はキーボードを使う

Duolingoで並び替えは代表的な問題形式だ。ターゲット言語またはインターフェイス言語の文が表示され、単語のピースを選択して対応する文を作っていく。

英語→フランス語の並び変え問題


しかし、この形式は実に生ぬるい。知識があやふやでもなんとなく解けてしまい、爽快感は味わえるかもしれないが、ちゃんとした実力がつくかは疑問だ。考えてみれば当たり前だが、外国語で話そうというときに切れ切れになった単語のピースが目前に浮かぶわけではない。実際には自分の頭一つで文を組み立てることになる。これでは学習効果が薄いので、私は画面左下の USE KEYBOARDを押して作文問題に変換している。すべての並べ替え問題が作文問題に変換できるわけではないが、これだけでも学習効率はかなり変わってくる。

USE KEYBOARDを押すと作文問題になる

並び替え問題と作文問題では難易度が違う。時間もかかるし、何よりゼロから書くのがめんどくさい。だが、できなかったことができるようになるのが学習というものであり、そのためには脳を使って考える必要がある。なんとなくやって正解しても得るものは少ないが、苦労したり何度も間違えたりすると大事な経験として頭に残りやすい。

2、ボイス機能を活用

では、並べ替え問題を作文問題にして練習をすれば外国語が話せるようになるのか?残念ながらそんなことはない。文章が書けるのと発話ができるのは別の能力だ。文才のある人が演説の名手とは限らない。作文は文を組み立てる練習にはなるが、発話の瞬発力を鍛えてくれない。外国語を話せるようになりたかったら、話す練習をするしかない。もともとDuolingoには発音の問題もあるが、指定された文を読むように求められるだけなので、「自分で文章を組み立てながら外国語を話す」という実際の会話では普通のことが練習できない。そこで作文問題を口頭発話問題にする。やり方は簡単。タイプをする代わりに音声を吹き込めばいい。キーボードを打つ代わりに声でやれば作文問題が会話問題になる。もちろん、きちんと発音しなければ正しく変換されないので発音の練習にもなる。ただ、この方法だとスペルを覚えなくても問題を突破できてしまうので、場合によっては作文問題の方が効果的だろう。これからのテクノロジーの発展を考えると入力はすべて音声でできるようになっていくと思うので、個人的にはボイス機能を使った方がベターだと思っている。

3、疑問点は調べる癖をつける

これは至極当たり前のことかもしれないが、疑問に感じたことはすぐに調べなければ知識としてほとんど残らない。アプリの構造上、あまり反省を促すような仕様にはなっておらず、どんどん次の問題へと進ませるようになっているため、その流れに逆らうようにして「立ち止まる」必要が出てくる。

この問題だとBWL=business ということしか学べない

たとえば辞書。Duolingoでは分からない単語はタップすれば意味が表示される。これにはメリットデメリット両方あり、その単語をすでに何度か見て知っていて、意味も覚えていたはずなのにド忘れしてしまった、という場合ならポップアップ表示で「ああ、そうだった、あれね」となって時間の削減になるが、その単語を初めて見たとか、意味がまったく浮かばない、という場合はきちんと辞書を引いた方がいい。外国語の意味がイコールで結べるということは少なく、訳語や語法、例文に語源、その他諸々の有益な情報が詰まった辞書を参照しなければ全体としてのニュアンスはなかなかつかめない。 タップされた瞬間に意味がポップアップされると、なまじ意味がぱぱっと分かってしまうため、語感を養うきっかけを奪ってしまう。

ドイツ語のテキスト カップルが白髪の話をしている

また、問題の正否にかかわらなくても、自分の理解が曖昧だと感じたときは、能動的にモヤモヤを形にすることも重要だ。上の画像では、Ich habe ein graues Haar gefunden.(白髪があったんだけど) に対して Herzlichen Glückwunsch! (おめでとう!)と返しており、会話の流れが今ひとつ理解できなかったので、疑問点をメモしている。今は生成AIもあるので、このように問いの形にしたものはなるべくAIに聞いて、ニュアンスを探るようにしている。いろいろAIと問答しているうちにDuolingo自体を放ってしまうこともあるが、与えられた問いよりも自分で立てた問いの方が記憶に残りやすいのであまり気にしない。

4、Legendary に挑戦する

最後のレッスンでLegendaryに挑戦

Duolingoでは一つのレッスンが3つか6つに分割されていて、一番最後のレッスン(3番目ないし6番目)はそのレッスンの総復習的な位置付けになっている。その最後のラウンドでは、通常の復習コースかLegendaryコースかを選ぶことができる。Legendaryモードではもらえる経験値が増える代わりに単語の意味が確認できず、間違えた問題も再度出題されるとは限らない。一定の経験値を獲得するまで半永久的に続く。もちろん、Legendary モードの方が勉強になる。 すでに述べたが、単語の意味がポップアップされる仕様は意味を調べる手間を省く一方で、学習者を甘やかしがちだ。「この単語の意味なんだったっけ?」という状態から脳みそをしぼってようやくなんとか自力で思い出すのと、脳死状態で単語をタップして意味を見るのとでは、当然のことながら前者の方が記憶に残りやすい。「思い出せない」という状態から「思い出せた」までの体験をドラマティックに演出することが記憶の定着に大きく影響する。

5、読み物でディクテーション

書き起こしはメモ機能でもできるが、できれば紙と鉛筆で取り組んだ方がいい。

Duolingoをやっていると一定の間隔で読み物のパートがあり、内容理解を確認したり、聞き取りの穴埋め問題に答えながら進んでいく。すべてではないもの、「読む」なのか「聞く」なのかを選べる読み物があり、「聞く」を選択するとその物語の一部のスクリプトが伏せられる。もちろん、スクリプトはいつでも確認可能かつ音声は何度でも再生できるので、書き取りとして活用できる。つまり、音声から聞こえた音を文字起こしするのである。やってみればすぐ分かるが、たった一文でも完璧に書きとるのは難しい。リスニングやライティングのいい訓練になる。

書き起こすと10分はかかる


以上、私が思いついた具体的な方法を挙げてきたが、ここからは少し話を抽象化してDuolingoを取り組む際に意識している態度について少し綴りたい。根幹にあるスタンスを箇条書きにするとこんな感じだ。

学習のスタンス

・間違えることをよしとする
・アウトプット教材として使う
・オウセンティシティの問題
・ビジネスモデルを理解する

外国語学習一般に通ずる話もあるのでそれぞれに見ていく。

1、間違えることをよしとする

Duolingoではひたすら問題を解いていくので、文法や語彙の知識を出力しているとも言える。この過程は知識の定着を促進するだけでなく、自身の理解の誤りを発見する機会にもなる。間違えることの重要性は誇張してもしすぎることはない。間違いによるショックは、脳に深く刻み込まれ、記憶に残りやすくなるし、 その誤りから正しい知識がより確実に身につく。例えば、単純に単語のスペルを書く問題でも、まずは自分の知識だけで綴ってみる。記憶が曖昧で確信がないからすぐ調べたいと思っても我慢して、間違ってもいいからリスクをとって答えをチェックする。それが見事正解なら成功体験として知識は強固になるし、間違っていればその事実によって知識が定着する。脳をサボらせないようにするのがコツだ。そのための指針として「間違ってなんぼ」という意識をもってやるといい。間違えてもペナルティがないように課金をしているのもこのあたりが理由になる。

2、アウトプット教材として使う

ユーザーを逃さないためか、Duolingoの難易度は低く設定されており、さほど頭を使わずに簡単な問題を延々解いていく形になりやすい。読んだり聞いたりする教材としては早々に飽きがきてしまうし、本格的な外国語の勉強としては物足りなくなってしまう。そこでインプットとしては簡単な教材をアウトプットとして取り組んでみる。簡単に思える読み物でも、全ての文を書きとるのは難しい。こんなん倍速で聞いても理解できるよっていうレベルのリスニング問題だって、じゃあ全文をきちんとシャドーイングできるのか言えば話は別だろう。アプリが要求するままにやってれば簡単すぎるのかもしれないが、縛りプレイでやってみるとそこそこ骨のある教材になる。受け身でやるのではなく、積極的に自分から工夫を凝らせば学習効率は跳ね上がる。

3、オウセンティシティの問題

オウセンティシティ(authenticity)とは「真実味」と訳せるが、この語が外国語学習の文脈で帯びる意味としては、「実際にネイティブが使用しているもの」といったところだろう。よく「生の英語」という言い方をするが、古い教科書の例文にありがちな干からびた表現ではなく、実際に使われているという意味で、オウセンティック(authentic)という言い方がされる。Duolingoでずっと疑問だったのが、アプリ内の問題にはこのオウセンティシティがあるのか、ということだった。つまり、実際にネイティブの会話で用いられる表現なのか、それともたとえばAIに作らせたそれっぽい言い方に過ぎないのか、そのあたりのソースがない限り、Duolingoの問題が「間違っている」という可能性は大いにありうる。実際「私の魔女はベジタリアンです」みたいな文が出てきて「こんな文なかなか言葉にする機会ないでしょ」などとツッコミを入れたくなることは多い。文法的に間違っているような文はさすがに出てこないだろうが、ちょっとでも不自然だなと感じるような文に関してはきちんと裏をとるようにしている。疑問を持たずに鵜呑みにしていると、Duolingoで覚えた文を実際に使ったらネイティブからは不自然だと指摘された、みたいなことになりかねない。

4、ビジネスモデルを理解する

ビジネスの観点から言って、ユーザーの語学力が上達してもDuolingoにとって利益にはならない。Duolingoの開発者のTed Talk を見ると、このアプリは教育の不平等を解消する意図で開発されたようだが、SNSのような中毒性をもつ学習アプリを生み出すことに腐心していたことが分かる。つまり、他のSNSといっしょでDuolingoはエンゲージメントを高めるようにデザインされている。ストリークに始まり、デイリークエストやリーグシステム、執拗な通知など、そのどれもがアプリに関わらせるために考案された機能だろう。つまり、ユーザーがDuolingoに依存するように作られているのであって、実力がつくように作られているわけではない。Duolingoに対して批判的な意見があるのはどうもこの辺りのように思える。例えば、ストリークを更新するためだけに毎日毎日夜中の11時50分に1分で終わる単語の神経衰弱をやっていて効果があると言うのか。主体性が欠落している上に、テック企業に時間やデータを嬉々として差し出しているという冷笑的な見方が出てくるのも無理はない。本当の意味での学習の効果とアプリ内のステータスはかならずしも相関しない。中毒性というDuolingoの最大の強みが実は最大の弱点にもなってしまう構造が浮かび上がる。Duolingo内のステータスに完全に依存してしまい、他の語学学習だとXPもらえないからやる気にならない、みたいなことになってしまったらまさしく本末転倒だ。

まとめ:Duolingoに効果はあったのか?

私としては、アウトプットを一からやるような学習(外国語で何か書く、会話の練習としてネイティブと雑談する等)がどうしても億劫になりがちなので、Duolingoでは書いたり話したりすることを心がけている。個人的にはDuolingoがきっかけで始めたフランス語やドイツ語は去年一年間で躍進したと思っていて、フランス人やドイツ人のyoutuberが言っていることが分かるようになり、バルザックやシャミッソーの原書を邦訳と並べて味わえるようになっているので、実際に効果を実感している。しかし、それがDuolingoによるものとは思わない。文法書にかじりつき、大量のテキストを読み、音源を完コピまで発音するといった泥くさい学習を重ねた結果であり、そのウォームアップとして取り組んだDuolingoは一助にはなったかもしれないが、一翼を担ったとは言いがたい。少なくともDuolingo「だけ」では力はつかないだろう。このアプリだけではインプット量が圧倒的に足りない。もちろん、他の勉強にしたってそれだけで全てをカバーできるわけではないので、このアプリに限った話ではないが、Duolingoからは多くを期待せず、あくまでも日々の学習を補完するサブ教材として位置付けるのが賢明と言ったところではないか。

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