語感の言語化練習#7〈御用達〉

御用達

ごよう たし [御用△達]⦅名⦆
①昔、〈宮中/官庁〉の用品をおさめたこと。また、その商人。御用商人。
「宮内庁━」
[由来]御用を足すことから。江戸時代、江戸では「ごようたし」、大坂などでは「ごようたつ」と言った。
②〔俗〕〈えらい/有名な〉人が ひいきにする店や品物。
「芸能人━」

三省堂国語辞典

ざっと辞書を引いてみた限り、②の意味は三省堂の辞書にしか記載されてなかったが、個人的にはほとんど②の俗な言い方の意味だと思っていて、大多数の辞書が「官庁に物事を納入すること」としか記述がなくて隔靴掻痒の感があった。私の語感は相当歪んでいるのだろうか?ただ、三省堂の語釈にも100%賛同という訳ではなくて、単にその人が頻繁に通っていてひいきにするというよりかは、①の意味の「用品をおさめること」という意味から「ある特定の集団に対して調達される物やサービス、またはそれを提供する組織」という意味なのではないか。本来は宮中や官庁などの公的で権威のある組織に対して「御用立てる」立場であったのだから、そういう上の立場の需要に対して先回りして物やサービスを供給する業者のことを意味していてもおかしくはない。元々は偉い人らが対象だったが「セレブ御用達」とか「受験生御用達」のような表現を見ると、もはやマーケティング戦略によるターゲット層として捉えているように思える。類義語を考えると「セレブ専門の」「受験生用の」「セレブ特化の」「受験生向きの」などが浮かぶが、「業者」を指す場合が多いので意味はだいぶずれてしまう。場合によっては「セレブを意識した」「受験生を狙った」のように書き換えられる。ただし「足繁く通う」という意味はないが。

書籍になってるものでも俗な意味で使われている用例はたくさん見つかる。

丘珠空港通りから近いこのお店は、ご近所御用達の気さくなお店。お店の中に入ると、大きなオーブンが目にとまる。

深江園子 『北海道のおいしいケーキ屋さん』


食器類だって、前日に手配された荷づくり班の女性アルバイトが、少々のことでは割れないように梱包しているから、台車で運べる。だが、ピアニストご用達の竪型のピアノを台車で運ぶってわけにはいかなかった。路地のアスファルトは粗いので、台車がガタガタとかなり揺れるのだ。

清水義範『いい奴じゃん』



英語だと、purveyor という語があるらしい。

Royal Copenhagen purveyor to Her Majesty the Queen of Denmark
デンマーク女王御用達ロイヤルコペンハーゲン

ジーニアス英和大辞典

「ひいきにしている」という意味で、patronage が使えるのはおもしろくて、コウビルドで、patronage を引くと、Patronage is the support and money given by someone to a person or a group such as a charity とあり、まるで政府や王室のような資金のある組織が支援する(=そのサービスを利用する)という意味にも取れる。

It is under the patronage of the Imperial Household.
それは宮内省御用達だ.

クラウン英語イディオム辞典


cater to~ も使える。

芸能人御用達のレストラン
a restaurant that caters to celebrities; a celebrity hideout.

新和英大辞典


プチ・ロワイヤル仏和辞典を引くと、

fournisseur attitré de la cour impériale
皇室御用達商人

プチ・ロワイヤル仏和辞典

と出ていて、attitré の訳語として「正式の肩書をもつ、専属の」と「ひいきの、いつもの」という二つの意味に分けられていた。fournisseur は「出入りの商人、納入業者、行きつけの店」だから御用達の本来の意味にかなり近い。

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