7月の語学まとめ ーワーク・ゴガク・バランス
7月の語学学習についてまとめる。勉強として取り組んでいたことを書き出し、現状分析、軌道修正の必要、今後の展望を得ることを目的とする。
まずは定点観測的なデータから。7月の勉強時間は以下の通り。
合計で約154時間。6月の約195時間と比べるとだいぶ少なくなってしまった。月の表を見てもここ半年で最も勉強しなかった月になっている。対象言語に関しては先月までと同様で、初級であるドイツ語とフランス語をメインに勉強し、中級以上のレベルにいるロシア語とポルトガル語と英語は現状維持ができればいいくらいの気持ちで取り組んだ。前者は50時間以上、後者は15時間程度を目安にしていたので、ポルトガル語と英語は落第だが、そのほかは概ね満足できる勉強量に達している。
勉強時間が減ったのには明確な理由があって、7月は8日ほど労働をしたのだが「労働がある日は勉強時間を計測しない」ことを自分に課していたからだ。「勉強しない」ではなく「勉強時間を計測しない」ので、計測していないが語学に触れている時間があり、その差で勉強時間が目減りした。なぜ計測しなかったかは後述するが、労働がある日の学習実態は「勉強できるほどの気力はない状態でその言語に触れているだけ」だからだ。その他、本格的に夏が到来し、暑さで勉強が捗らなくなったのも大きい。これについては8月も対策を考えなければならない。
次に勉強の内容をおおざっぱにまとめる。
順に見ていく。
1、文法的なもの(独・仏)
文法書を通読していく勉強。現在は『ドイツ語練習問題3000題』と『フランス語の冠詞』に取り組んでいる。文法は大事だが退屈になりがちなので、一番気力が充実している1日の始めにやることにしていた。
2、多読的なもの(独・仏・露・葡)
原書を読む勉強。ロシア語以外は邦訳を並べて随時参照している。私の場合、普通の意味で古典文学が「読める」レベルにある外国語はロシア語だけかもしれない。ドイツ語やフランス語のように勉強を始めてまだ半年くらいの言語は1時間に2ページくらいしか進まないし、ポルトガル語も邦訳を参照していないとすぐ筋を見失ってしまうが、自分の語学学習の目標のひとつが原書を読めるようになることなので、これは続けたい。6月と変わっていないが、原書のリストを下に記す。
どの言語も古典文学のオリジナルなので、当然すんなり理解できるような代物ではないが、粘り強く読むことで、他の普通の文章が全般的に理解しやすくなってきている感覚がある。そもそもその言語で書かれた読み物として歴史的な評価がついている古典が教材として優れてないわけがない。考えてみれば原書を読むことは「良い文章をたくさん読む」ことにほかならないので、その言語の読解力向上に大きく寄与する。読書が好きならこのやり方はおすすめだ。
3、発音練習的なもの(仏・独)
youtube 等にある外国語の動画を一つ選び、動画の話者をコピーしていく感覚で、オーバーラップできるまで繰り返し聞いて発音していく。どうにも音が聞こえないところや音の連なりがわからないところは、YouGlich という音源検索サイトで調べて、個々に練習する。目的は発音練習だが、自然と精聴にもなるのでリスニング能力の底上げにもなる。 この勉強方法はyoutuberのだいじろーさんの方法を参考にしたものだ。
この動画を初めて見たのがちょうど1年前くらい。この動画からは本当に大きな影響を受けた。
4、聴解的なもの(英・仏・独・葡・露)
youtubeにある動画の内容をスクリプトを見ながら聞いていく勉強。量としてはこの勉強が一番多い。この勉強には、LingQという有料の言語学習プラットフォームで行なっている。LingQでは、youtubeの動画をインポートすると、その動画のスクリプトを生成してくれるし、単語をクリックするだけで辞書が表示されるので、インターネットのコンテンツで語学学習するのに最適である。インターネットにはどの言語でもたくさんの動画があるので、自分の興味や関心に合わせて動画をセレクトできる。毎回、動画を選ぶところから始めるのではなく、あらかじめ気になるチャンネルは登録しておき、新しい動画が投稿されたらちょっとだけ見て、学習になりそうだと思ったら、LingQにインポートしている。動画はいくらでもあるので、興味がなくなったら別に最後まで見なくてもいい。ちょっと意識高めのコンテンツ消費くらいのモチベーションで勉強できる。以下、先月発掘したチャンネルや動画を各言語ごとに紹介する。
BBCNews(英語)
英語学習の定番ともいえるニュース読解、その中でも代表的なメディアであるBBCのyoutubeチャンネル。思えば7月は国際的に大きなニュースが多かった。トランプ銃撃、Windowsのシステム障害、バイデン撤退、パリオリンピック… こうした全世界にインパクトを与えるニュースが起きたときは、その話題が各海外メディアで報道されるので、かっこうの学習教材になりえる。世界がこの話題をどう見ているかという意味でも有益な視点を提供してくれる。
HugoDécrypte - Actus du jour(フランス語)
HugoDécrypte - Actus du jour は日々の出来事を簡潔にまとめて紹介してくれるチャンネルで、フランスの政治や外交に関する話題が多い。パリオリンピックの開催直前に起きた鉄道網の破壊行為についての動画を見てこのチャンネルを登録するに至ったのだが、普通のフランスメディアでは前提になってて省かれている知識を最初からまとめてくれていたりするので、難しく感じるニュースもけっこう関心を持って見ることができ、言語だけでなくフランス社会への理解も深められる。
Psychologie im Alltag(ドイツ語)
Psychologie im Alltag は直訳すると「日常のなかの心理学」で、人間関係や日常生活で役に立つ心の持ち方を自己啓発的視点で紹介しているチャンネル。動画の投稿頻度が高く、長さも8分前後とちょうどよくまとまっている。内容はどこかで聞いたことのある小技を箇条書きにしたものだが、馴染みある内容というのは語学の勉強にとってはちょうどいい。動画のタイトルは、訳すと「賢い人がやっていること(ただし決して話さない)」で、有能な人が無意識に行っているが、その人にとっては当たり前すぎてわざわざ他人に話すまでもないことを紹介している。
Literature-se(ポルトガル語)
Literature-se はブラジルのブックチューバー、メルさんが運営するyoutubeチャンネル、典型的なブックチューバーという感じで、買った本や読んだ本、本に関する記事やイベントの紹介をしている。動画は2024年の半年間で読んだ本の紹介。ブラジルの本だけではなく、けっこう海外の作家の本も読まれているようで、日本の本からは、石田 祥『猫を処方いたします』が取り上げられていて驚いた。
Porina Pars(ロシア語)
先月の個人的ベスト動画。ロシアのブックチューバー、ポリーナさんがドストエフスキーの『罪と罰』についての考察をしている動画で、50分超える大作に仕上がっている。『罪と罰』はロシアの学校で必ず扱うらしく、日本でいえば森鴎外の『高瀬舟』か太宰治の『走れメロス』あたりといったところか。世界的な知名度もさることながらロシア人にとってはそのくらいおなじみのドストエフスキーの『罪と罰』だが、私がロシア語を勉強したきっかけもこの作品で、昨年は原書を読破する試みもしていたので、この動画にはのめりこんだ。もちろん、この作品の文学的研究の蓄積は膨大にあるものの、普通のロシア人がこの作品をどう見ているかが知れての嬉しい。期待を裏切らないポリーナさんの考察の精度は高く、相当長い時間をかけられたことがうかがえる。ペテルブルグの天候と物語の関係は、今まであまり気にしたことなかったし、作品世界に合わせて7月20日に投稿するなど、本当にこの作品が好きなんだろうとは思うものの、ポリーナさん自身は「ドストエフスキーの作品のなかではそんなに好きな方じゃない」らしく、なかなか意外だった。ロシア文学の沼の深さはほんとやばいとつくづく思う。
他にも細かい隙間時間にやっていることはあるのだが、基本的にやっていた勉強は以上の4つで、文法、多読、発音、聴解の4つに分けられる。ここからは、いつ、どの勉強を、どのようなスタンスでやっていたかを述べる。前述のように7月は労働を8日したのだが、労働との関係で、その日その日を3パターン(労働がある日、労働の前日または翌日、昨日も明日も労働がない日)に分けて勉強する内容を調整していた。
1、労働がある日
労働がある日は、午前7時に家を出て、午後6時に家に帰るのが標準的だった。この種の日にやっていたことは、主に聞き流しで、通勤時間はずっとイヤホンで音を聞く。発音練習で取り上げている動画を繰り返し聞く感じで、行きはフランス語、帰りはドイツ語という感じで独と仏を交互に繰り返していた。帰宅してから夕食食べて落ち着いた午後8時~10時にも語学に触れていたが、ここが労働のクソなところで、仮に何か自分がやりたいと思っていることができるくらいのまとまった時間があったとしても、その気力が沸かずに結局やらないのが常だ。「自分のやりたいことが分かっていて、それをやることが生きがいであるはずなのに、それすらもできず、気力が充実していたら時間の無駄としか思わないスマホいじりばかりする、そして今日は何もできなかったなと自己嫌悪と後悔にまみれながら就寝する」という最悪な一日になってしまう。かといって無理して文法のような脳のリソースを大幅に食うような勉強をこの日にやろうとしても、集中できずにいらいらするだけで、こんなふうにしか勉強できなくなる労働を憎むようになり次に労働に行くのがさらに嫌になるという負のループを生んでしまうだけなので、いっそのこと労働のある日は「勉強をしよう」という気持ちを起こさないようにした。かといってスマホいじりして生産的なことはなにもせずに終わりにするのではなく「日本語の動画を禁止して、youtubeを巡回する」のようにハードルを可能な限り低くした。「知らない語に出くわしても義務的に辞書を引いたりはしない」「分からない文があってもフィーリングでなんとなく理解してよしとする」くらいのゆるい気持ちでやらないとまじでニートになりたくなるので、外国語環境に浸ることを主眼に置いた。この方法が勉強としていいのかはわからないが、無理に勉強して挫折するよりかはましである。労働に自分の趣味を殺されることは現代人として敗北以外のなにものでもない。
2、労働の前日と翌日
仮に1日8時間労働だとして、「その8時間だけが自分の生活から奪われる」だったらどんなに楽だろうかと思う。実際は通勤時間のような拘束時間はもちろん、その前日から「労働がある」ことを意識しただけで目の前の趣味に集中できなくなる「精神的な拘束時間」がある。仕事がどんなに楽で脳死でできることでも不安の種は尽きないから厄介だ。「仕事であれがああなったらどうしよう」という現実的なものから、「雨が降ったらやだな、めっちゃ暑くなったらやだな」と四六時中天気予報を気にして、猛暑や大雨の予報に気分が落ち込んだり、「寝坊しないように早く床に就くが結局寝つけなくてイライラする」といった自爆に近いものまでさまざまな形がある。日曜日の夜6時半は、世間的には休日で労働から解放されているはずの時間だが、あの国民的アニメを見るだけで陰鬱な精神状態になる。もちろんこの間に時給は発生していないのだから、実質的に自発的で無駄な無償労働をしているのに近くて、まったく不毛でやるせない。逆に労働の翌日だと、特にプレッシャーはないが、労働によって奪われた体力気力が完全回復していないがために、万全な集中力で趣味に取り組めることは少ない。私の場合はだいたい自分が理想とする6割くらいの質と量でしか勉強できない。こういう日も文法や発音のような精神力が消費されるような勉強はやらず、youtube で気になっていた動画をひたすら見ることにしていた。労働のある日よりも時間的な余裕があるので、辞書を引くといった多少精読よりのスタンスで取り組んだ。また、勉強をしているという意識はもてるので、勉強時間はきちんと計測した。5つの言語でそれぞれ一本ずつ動画を見て勉強しているとちょうど一日が終わる感じで、1日の勉強時間はだいたい6時間くらいだった。
3、昨日も翌日も労働がない日
真の意味で24時間が自分のものと言える日は、労働がない日と労働がない日の間の日だけと言える。週5で働く正社員だったら、盆と正月、もしくは3連休の中日にあたる。この日は労働によって実質的に拘束されている時間がないだけでなく、労働に向かうまでに生じる心理的なストレスや労働をしたことによって起きる肉体的な疲労ともほぼ無縁だ。私にとってはこの手の日だけが、思い切り語学に没頭できる。この日はドイツ語メインの日とフランス語メインの日に分け、メイン言語は文法・多読・発音を朝からやり、そのあとにサブ言語で聴解をやる。ロシア語とポルトガル語は、多読と聴解を一日交代でまわし、最後に英語で何かyoutubeの動画を見て勉強する感じ。調子が良ければ一日の勉強時間は10時間を超える。
まとめ
フランス語とドイツ語を同時並行して勉強し始めてから7か月くらいが経過した。自分が思うようにはなってないものの、着実に月ごとに上達しているのを感じる。学習を始めたころはかなり難しくて時間のかかっていた動画が今ではわりかし簡単に理解できるということが多くなってきて、マテリアルとしても、語学系のyoutuberが発信する学習者向けのものから、母語話者に向けて作られた解説系の動画に移行しつつある。さすがに公的なニュースなどはまだ難しくて背伸びになるが、話題によっては意欲をもって読むことができるようになった。語学学習において王道はないとは言われるが、その真意は「これやっとけばOK」みたい方法は存在しないということだろう。その外国語が用いられる様々な状況に身を置かなければならない。ニュースだけ見ていればお硬い言葉しか覚えられないし、ネイティブとの会話だけでは口頭表現しか身につかない。よって現地に行くことが最高の学習法である、というのがこれまで鉄板のロジックだったが、無料で見られるコンテンツがあふれている2024年現在では、留学せずともそういう環境に身を置ける。しかも複数の言語でそれが同時にできるのだから、多言語学習にとってよりよい環境が整っているといえる。自分の興味に関係したコンテンツに触れることがモチベーション的な観点からはもっとも効率がいい。教材にあまりお金をかけなくてもよくなった一方、時間の価値は相対的に上がっている。語学の上達に必要なのはお金と時間とよく言われるが、教材費や渡航費や授業料といったお金の問題はテクノロジーが解決しつつあるものの、時間は依然としてかけなければならない。そしてその時間を奪うのが主に労働ということで、今回は労働との関係を軸にして学習計画を組み立てた。お金の価値が低くなったので、労働がお金を得る手段と考えると労働の排除は自然な流れかもしれない。今の5言語の実力の維持と上達を続けるには、最低でも一か月に150時間くらいは勉強したいので、働く時間はミニマムにする必要があり、実家住みフリーターに必要な出費を考えると月に8日というのがいまのところ最適化された労働量であろうと思う。今年のはじめごろはまったく働かずに語学に専念した時期もあったので、労働ゼロで語学に時間を全振りしたいとも思うが、息抜き程度というか、気分転換的に労働するのは悪くなく、立ち仕事なので運動不足解消にもなってちょうどよいと感じる。(でもこの時期は暑くてしんどいが)先月を振り返ってみると「勉強は月150時間、労働は8日」という一応の基準値を発見できたのが一番の収穫かもしれない。8月もこのペースでいきつつ、自分が学習に使った動画とかはNoteだけではなく、Xにも流そうかなとちょっと考えている。