そこはヘンだろ世界通史
日本国で教えるいわゆる教養教科「世界史」へ、不満が幾つかある。
まずは年号、いわゆるキリスト紀元暦である。
大化の改新が、キリスト生誕後645年後に起きた日本の政変なのは中学生でも知るが、なぜイエス・キリスト基準で時間軸を規定する?中大兄皇子にはイスラエルに知人でも居たのかい?
日本の現教育では馴染みが薄いが、現在の東アジア気質の通奏低音となっている春秋戦国時代・紀元前770~221年、イエスの生まれる遥か770年前から500年かけ中原・マンダリン語圏で成し遂げた絢爛な思想群は、イエスの出自と無縁に百花繚乱と咲き誇ったグレートな思想の足跡だろう?
わかってる、わかってるってば。
キリスト紀元暦が未だ基調なのは、中世ヨーロッパ生活慣習規範のOSがカトリックと東方正教だったせいだ、近世以降の歴史解釈基準が西ヨーロッパ発祥の故だ、今でも史学の学会権威が変わらずヨーロッパとアメリカ合衆国であり続けてるせいだ、わかってるんだってば。これでも一応大卒だ。
だがもうそろそろ、ヨーロッパ・ルールに当たり前に大きな顔させておくのは妙だなと気づく人が増えてもいいだろう?
メソポタミアで集団農場と都市国家が成立したウルク期初期を元年となぜ取り決めないんだ、人類史にとり農業を開始し成功した史実のほうが、イエス生誕年より重要でしょ?
アフリカからホモ・サピエンス種が移動しはじめた時期を元年にしてもいい。人類が全地上へ拡散し始めた記念すべき史実のほうが、イエス生誕年より重要でしょ?
これからの宇宙開拓時代へ遠い未来を託すのなら、人類がはじめて月面着陸した現1969年を宇宙歴元年にしてもいい。なんだかちょいとガンダムっぽいが、イエス生誕年より重要でしょ?
地域史に情報差が激しいのも不満だねぇ。
世界通史では、エジプト文明とポエニ戦争でカルタゴで登場したあと、大西洋奴隷貿易までアフリカ在住の人類は何も営んでいなかったかのように教わる。
紀元前146年~1500年代の1600年間、アフリカ人、殊に赤道より南側のアフリカに人類は居なかったことになっているが、急に奴隷として調達されだす不思議な通史を教わる。
奴隷人材は1600年間バオバブのようにアフリカに何事もなく変わることなく自生し続けていたの?
中南米の扱いもひどい。
はるばる東アフリカあたりからとぼとぼ歩き14200年前に辿り着いたあと、1492年までジャガイモ・トマト・タバコらと一緒にぼんやりと自生していたことになっている。12,708年間も自生し、暇つぶしにピラミッドをたまに作り、地上絵をたくさん落書きしたらしい。
マコンドを各地域で100年ごと作っても、何事もなく平穏無事に127回作ったことになる。
教養レベルでの世界史では、そう教わる。
南半球のアフリカ人とて中南米のインディオとて、恋もしただろう育児に苦労もしただろう寒さ暑さにぼやいた時もあっただろう飯がなく困った時期もあったと思うが。
近世史以降の情報の偏りもひどい。
キリスト紀元暦1600年以降は近時代のため残存史料が多く、毎年世界中のどこかの史実が残る。1600年以降の年号暗記、毎年その年に何が起きたかを闇雲に覚える不毛な記憶作業の受験期を苦々しく思ったかたもおありだろう。
1600年以降の世界通史は、いかにヨーロッパが発展したか考え抜いたかを延々と連ねる。
もの凄く圧縮し近現代史400年間を説明すると
「印刷技術と外燃内燃機関技術が先んじて普及したヨーロッパ人、地上の資産・資源を強欲に独り占めしようとし、失敗しました」
だ。
2000年後の世界通史にはこのひとことで近現代400~500年間を簡単にたぶん書かれるだろう。中世が「宗教規範と封建制の時代でした」で片付けられているように。
まあこのあたりの経緯はジャレド・ダイアモンドやユヴァル・ノア・ハラリが延々数10万文字にわたり書き連ねているので、周知かもしれない。
世界通史については みんなの世界史 さんが詳述記事を沢山公開しておられる。
興味関心のあるかたや、この400年の世界通史がいかにヨーロッパ情報偏重かを確認したいかたは、ご覧いただくとよいかと思う。私も毎回興味深く拝見している。