見出し画像

Vol.1 乳酸性作業閾値とは何か?

今回から数回に分けて、乳酸性作業閾値(Lactate Threshold:LT)についてお話していきます。

LTは、最大酸素摂取量(VO2Max)と走の経済性(Running Economy:RE)と並んで、走パフォーマンスを構成する3つの要素のひとつ。

マラソンはもちろん、トレイルランニングでも、ウルトラマラソンでも、5000mでも1500mでも、持久力が必要な運動のパフォーマンスを高めるためには、このLTをいかに改善するか?という視点が重要になります。

LTについての知識を深めることで、日々のトレーニングの目的が最適化されますから、毎日のトレーニングを目標達成に繋げるために、ぜひ乳酸についての理解を深めていきましょう。

乳酸とは、何か?

まず、そもそも「乳酸」とは何か?ということについて。

乳酸とは「糖」をエネルギー源として利用した後に作られるものです。

乳酸は脂質からは作られません。糖を利用した後に作られるものなんですね。

昔は「疲労物質」と考えられてましたけど、今では再利用できる重要なエネルギー源だということがわかっています。

つまり「乳酸が出るから疲れる」というわけではなく、「疲れるような運動をすることによって乳酸が出る」ということです。

ちなみに、僕たちはランニング中だけでなく、生きるために必要なエネルギーを「ATP」という形で利用しています。

つまり「糖をエネルギーとして使う」という表現は厳密には正しくなくて、糖はあくまでATPを作り出す材料。つまり「エネルギー源」です。これは脂質についても同様。

そして、糖を材料としてATPを作り出した後にできるのが「乳酸」である、ということ。ですから「乳酸」からもATPを作り出せるということです。

僕たちの身体では、運動強度が低ければ脂質の利用割合が大きく、強度が高くなるにつれて、糖の利用割合が大きくなってきます。

つまり「疲れるような運動=強度が高い運動」によって糖の利用割合が大きくなり、その結果として乳酸が作り出され、その乳酸もATPを作り出すのに一役買っています。

乳酸性作業閾値とは、何か?

運動強度が高まり、糖の利用割合が大きくなるにつれ、乳酸の産生量も増えてきます。

そのまま運動強度が上がると、あるところで乳酸の産生量が急に上昇するポイントがあります。

そのポイントのことを「乳酸性作業閾値(Lactate Threshold:LT)」と呼んでいます。

LTの向上は、持久力の向上に直結しますから、いかにこのLTを向上させていくか?を考えて、トレーニングしていくことが重要です。

このLTですが、正確に把握するのであれば、血液を採取して測定する必要がありますけど、おおまかには「45〜60分間走り続けることができる強度」と言われてます。

ただ…

「45〜60分走り続ける強度」って言われても、これ、結構幅があると思いません?15分違うと、だいぶ努力感違ってくると思うんですよね。45分だったら走れるけど、あと15分このペースで走り続けるのは無理!ってこと、結構あると思うんです。

それもそのはず。実はLTには「二段階」あるといわれています。

60分程度走り続けることができる強度を「LT1」と呼び、45分程度走り続けることができる強度を「LT2」と呼びます。LT2はまたの名を「OBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation)」と呼んだりもしますね。

(山地啓司、運動処方のための心拍数の科学、大修館書店、1994.)

このように、ひとくちに「LT」と言っても、強度が結構違います。ここ、結構ポイントなんです。

LTインターバルのスウィートスポット

少しばかり小難しくなりますが、ここは大事なポイントなので、がんばってついてきてください!

LT1における血中の乳酸量は2mmol、LT2では4mmolと言われてます。

ゼロベースランニング・メソッドでは「LTインターバル」を主軸に置いたトレーニングメニューを提案していますが、このトレーニングで目安にする血中乳酸量は「3mmol」になります。

これはもちろん血液を採取して測定しないと正確にはわからないんですけど、感覚的には「苦しすぎず、楽でもない」くらいの強度が、この「3mmol」の強度なんじゃないかなーと踏んでます。

ではなぜこの「3mmol」を目安にするのか?それは…

ここから先は

1,288字
この記事のみ ¥ 150

高岡 尚司(たかおか しょうじ) ゼロベースランニングクラブ・オーガナイザー 熊本国府高校陸上競技部長距離ブロックコーチ 鍼灸マッサージ師 ランニング足袋・開発アドバイザー ALTRA JAPAN アンバサダー 合同会社エフエイト・代表社員