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【書評】通知表をやめた。
「通知表がなくなったら、どうやって子供たちを評価するんだろう?」と疑問を抱きながら読み始めたこの本。しかし、読み進めるうちにわかったのは、評価自体をやめたわけではなかったということです。
そもそも先生たちは、通知表以外にも教育委員会に報告するための評価を作成しており、それとは別に、保護者や子供向けに通知表を作っていたのです。まずその事実に驚きました。
さらに、成績の根拠を保護者に説明できるように準備したり、ミスがないように二重チェックを行ったりすることで、先生方が膨大な時間と労力を費やしていることがわかりました。その作業の大変さを想像すると、教師の負担は計り知れないなと感じました。
本書では、ある校長先生が「通知表をなくそう」と提案し、数年かけてその実現に向けて努力した様子が描かれています。この提案に対しては賛否があるなか議論を重ねた上で、廃止を決定し、その後の3年間を記録した内容でした。
個人的に興味深かったのは、通知表がなくなってから3年が経ち、通知表を経験していない生徒たちにどんな変化が見られたのかという点です。特に、通知表があった時と比べて、子どもたちが他の子と成績を競い合うことが減ったと教師が感じた、というエピソードはとても興味深いものでした。
以前は、成績が返された後に「自分は何点だった?」とか「他の子より良かった?」といったことを気にしていた子どもたちが多かったようです。でも、通知表がなくなってからは、テストを返されたときに「なぜ間違えたのかな?」と深く考えるようになり、次にどうすれば間違えないかを意識するようになったそうです。もちろん、これはあくまで先生の印象に過ぎませんが、それでも子どもたちの学び方や感じ方に何か変化が起きていることを感じさせる話でした。
この取り組みについて、私自身もとても共感しました。成績のために勉強するのではなく、自分自身の成長を楽しみながら学ぶという教育の姿勢は、まさに理想だと思います。もともと人間は成長したいという気持ちを持っているものだと思います。小さな子どもが何度も転んでは立ち上がり歩こうとする、言葉を覚えるのも失敗しながら少しずつ上手になっていく姿を見ると、新しいことに挑戦して成長することが、私たちの本来の喜びなんだと感じます。
それが、学校で成績により優劣を決められ、他の子どもと比べられる文化の中で育ってしまうと、大人になっても「勝ち組・負け組」といった考え方が強まってしまう気がします。
大人の社会はそういうシビアな社会だから、できるだけ早い時期に慣れさせたいという意見もありました。
ですが、本当に大切なのは、一人一人が自分の成長を楽しみながら生きていくことではないでしょうか。
実際、働く現場でも、失敗を恐れて挑戦しない人や、ミスを避けるために言われたことだけをやる人が多いと感じることがあります。そうなると、エラーが起きても責任を回避しようとする姿勢が増えてしまいがちです。しかし、本当に大切なのは、失敗を恐れずに挑戦し、その結果を振り返って次に生かすことだと思います。ミスをした時には素直に謝罪し、その上で「次はどうすれば良いか?」と考え、再び前に進む勇気を持ち続けることが必要です。
この小学校の取り組みは、そうした失敗を恐れないチャレンジ精神を育み、子どもたちが自分自身の成長を楽しむ姿勢を引き出す、素晴らしい教育の形だと感じました。
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