休職者は労務管理する必要はない?
ミニストーリー
職場での人間関係に悩み、32歳の小田真由美は休職に入った。限界を感じるまで毎日なんとか出勤を続けてきたが、体も心も悲鳴を上げ、ついに職場を離れる決断をした。主治医からは「仕事のことは忘れて、しっかり休んでください」と言われたものの、10年も働いてきた彼女にとって、何もしない生活はどうにも落ち着かなかった。
休職の少し前から夜眠れなくなっていた悪影響は続き、昼間は眠気に襲われてベッドから出られない日々が続いた。規則正しい生活をしなければと自分を責めるものの、思うように動けない。そんな自分に罪悪感を抱く毎日だった。
休職から1ヶ月が経った頃、課長から電話がかかってきた。しかし、まだ職場に戻れる気がしなかった真由美は、電話に出ることすらできず、後で届いたメールに「まだしんどい状況です」と返信するのがやっとだった。
その後も、職場のグループLINEには毎日のように業務連絡が入る。休職中とはいえ、自分だけが何もしていない罪悪感に苛まれる。改善しない状態に業を煮やした主治医が尋ねた。
「仕事のことを考えていませんか?」
真由美はLINEのことを伝えると、主治医は言った。「それは職場長に相談して外してもらった方がいいですね。」
モヤモヤしながらも、2ヶ月目の課長からのメールへの返信時、勇気を出して相談してみた。すると、課長はすぐにグループLINEから彼女を外す対応を取ってくれた。
最初は孤独感があったが、次第に気持ちが軽くなっていった。毎日感じていた罪悪感が薄らぎ、夜も深い眠りにつけるようになった。
3ヶ月が過ぎる頃には、不規則だった睡眠サイクルも整い始め、日中の倦怠感も改善した。主治医の勧めで始めた絵を描く趣味にも熱中できるようになり、美咲は自分を取り戻しつつあった。
半年後、主治医から「ずいぶん良くなってきましたね。そろそろ仕事のことを考えてもいいかもしれませんね」と提案された。少しずつ職場のことを思い出す中で、美咲の心にある不安が顔を出した。
最初の頃は来ていた課長からの連絡がいつの間にか途絶えてしまっていたのだった。
「もしかしたら自分は忘れられている?もう職場にはいらない存在なのかな」そう思うと、再び眠れない夜が訪れた。
解説
産業医として、休職した人と面談していて、このように言われる方がたまにおられます。基本的に休職中であっても労務管理の対象者なので、管理者は定期的に連絡をする必要があります。
とはいえ、休職中にどのようなことを聞けばいいのかわからない方もいると思うので今回は、休職中の対応について少しお話します。
まずは、仕事を忘れて休むことが大事
休職中は何よりも心身の回復が優先です。仕事のことを考え続けると、休職の目的である回復が妨げられることがあります。職場からの業務連絡や進捗状況の共有は本人にとってプレッシャーになるため、できるだけ職場のグループメールは外すようにしましょう。
本人の同意を得ずに急にグループから外すと、疎外感を感じてより傷ついてしまうことがあるので注意をしてください。できれば職場内でルールを作成しておくとスムーズです。
休むことで孤独を感じている場合もある
仕事を完全に忘れることが推奨される一方で、職場からの連絡が途絶えると、「自分の居場所がなくなった」と感じることがあります。この不安が症状の改善を遅らせたり、いざ復職するタイミングで思うように進まないこともあります。
本人がスムーズに復職できるように、管理職の方は以下のポイントを意識してみて下さい。
休職中の連絡のポイント
定期的な確認
休職者の状況を把握するために、月に1度程度、状況を尋ねるメールや手紙を送る。
「最近の体調はいかがですか?焦らず、ゆっくり休んでください」といった配慮ある言葉を添える。業務連絡は控える
休職者が希望しない場合、グループLINEやメールによる業務連絡は控えましょう。業務に関する情報がプレッシャーとなり、休養を妨げる可能性があります。安心できる言葉掛けを
早く戻ってきてね等のことばは仕事へのプレッシャーになるため、できるだけさけるのが望ましいです。代わりに「焦らなくてもいいから、待っているよ」というような、いつでも帰りを待っている言葉をかけることも効果的です。
まとめ
休職者は、罪悪感や孤立感を抱えやすい状況にあります。そのため、相手の気持ちを尊重しながら、居場所があることを伝える配慮が必要です。
休職中の労務管理は、回復を妨げない配慮と、職場とのつながりを保つバランスが求められます。相手の気持ちを尊重しつつ、定期的な連絡を欠かさないようにしてください。
こうした職場復帰支援についてどうすればいいのか、厚生労働省が作成した手引きが掲載されているので興味のある方はご参照ください。https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf