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主治医から復職可と言われたけど、まだ不安がある時は?
今回は復職に向けて職場で配慮していたとしても、うまくいかなかったケースを紹介します。職場でできる限り配慮をしてもらえたとしても、自分でも気づかないうちに無理をしすぎていると、再休職しやすくなってしまいます。
そんなときにどうすればいいか一例を紹介したいと思います。
まずはミニストーリーから。
ミニストーリー
佐藤明美(40)は、「抑うつ状態」と診断され、3ヶ月の休職を経て復職を目指していた。主治医から「復職可」の意見が出たため、上司の田中課長に連絡を入れた。その後、産業医との面談が設定された。
「少し焦りが見えるけど、大丈夫そうですね。まずは4時間勤務からスタートしましょう」と産業医は提案した。その後、担当の松本保健師も同席し、本人と上司と復職に向けての話し合いの場を設けた。
産業医の意見をもとに相談の上、職場復帰のスケジュールを組んだ。4時間勤務から開始して、体調が問題なければ2週間ごとに6時間、8時間とステップアップしていく方針だった。
復職初日、明美は久しぶりの職場にやや緊張しながらも、4時間勤務を無事にこなした。
2週間後には6時間勤務にステップアップ。職場では明るい笑顔で「順調です!」と応じていたが、帰宅後にはどっと疲れが押し寄せるようになった。16時に帰宅してから眠気と闘いながら家事をこなし、21時に就寝する日々が続いていた。
保健師の松本が体調確認した際は、疲労の蓄積が強くこのペースでステップアップするのは難しいだろうと感じた。産業医にも共有したところ、6時間勤務を延長する指示があった。早速、上司本人に共有し、追加で2週間6時間勤務を継続することにした。
そして2週間後、再度保健師の松本が体調確認の面談をしたが、就寝時間は変わらなかった。
穏やかな表情の中に、かすかな迷いを浮かべている松本を見た佐藤は明るい声で続けた。
「でも、以前より体調も良くなってきてます。朝起きた時のしんどさも楽になってきたので、来週から8時間で大丈夫です」
違和感を覚えたが、産業医も勤務態度や上司の評価も問題ないためストップする明確な理由がなかった。今回は彼女の言葉を信じて来週から8時間にステップアップすることとなった。
ところが、8時間勤務が2週間目に差し掛かった頃、彼女は出勤できなくなった。
8時間勤務初日から拘束時間が増えたこともあり、手持ち無沙汰な時間も増えていた。そのため、同僚のフォローに自ら手を貸す場面も多く、家に帰ると体が動かなくなるほどの疲労感が残った。就寝時間も22時にずれ、翌朝の疲労感が抜けないまま出勤しなければならなかった。だが、その状況は長く続かず、ついにある朝、ベッドから起き上がることができなくなり、再休職を余儀なくされた。
佐藤の再休職を聞いた田中課長は反省した。
「大丈夫です」と話す笑顔を信じてしまっていたが、実は相当無理をしていたのだということを後になって理解した。彼女の性格を周りのスタッフにも共有しておいた方がよかったのかもしれない。そう思う一方で、個人情報もあるしどこま言っていいのかわからずモヤモヤが残った。
そして3ヶ月後、再び復職可の診断書が出た。
佐藤は保健師と面談で前回しんどくなった理由を振り返った。
上司からは無理をしないように言われていたし、周りの人もやさしくしてくれるのですが、みんなが忙しそうにしているとどうしても手伝ってしまって…
そのほかにも、しんどいときに自分からは言えない性格だということ。自分で理解しながらも、どうしても頑張ってしまうことなど保健師に伝えた。
すると、今まで寄り添って話を聞いてくれていた保健師が口を開いた。
「あの、今回は復職に向けて話をしていたのですが、復職する前にリワークに参加してみませんか?」
『リワークって?』理解しきれない佐藤に気づいた松本保健師は、丁寧に説明を続けた。
「リワークは、復職に向けた準備を整えるためのプログラムで、職場復帰に向けて、生活リズムを整えたり、職場でのストレスへの対処法を学んだりする場所なんです。復職後の再休職を防ぐためにも、こうした準備期間を設けることがとても効果的なんですよ。」
佐藤は少し驚きつつも興味を示した。「でも、そんなことしてる時間あるのかな…。早く復職して働かないと…」
「その気持ちもよくわかります。でも、焦って復職してまた同じように体調を崩してしまうと、もっと時間がかかってしまうこともあります。リワークに参加することで、復職後も無理なく働き続けられる方法を学べるし、長い人生の中においてもきっと意義は大きいと思います」松本はまっすぐ佐藤の顔をみて答えた。
佐藤は考え込んだ。これまで復職しても無理をしてしまい、再び体調を崩すことを繰り返してきた。自分では気づかないうちに周囲に合わせて頑張りすぎてしまう性格が、再休職の原因だったのかもしれない。リワークで自分を見直す機会を持つことは悪くないと感じた。
「わかりました。一度主治医の先生に相談してみます。」佐藤は小さく頷き、松本保健師にそう伝えた。
数日後、主治医からもリワークの参加を勧められた佐藤は、プログラムに参加することを決めた。初日は緊張しながらリワーク施設に足を運んだが、同じように復職を目指す仲間たちと出会い、少しずつ安心感を覚えるようになった。
リワークでは、毎日の生活リズムを整えるためのスケジュール作成や、しんどくなった原因分析、職場でのストレス対処法、他者とのコミュニケーションの取り方など、実践的な内容を学んだ。職場を想定したトレーニングでは、周囲に頼る練習も行い、自分一人で抱え込まないことの大切さを実感した。
半年後、佐藤は再び職場復帰の準備を整えていた。今回は以前と違い、焦りや不安は感じていなかった。むしろ、リワークで学んだことを実践する自信があった。田中課長も、復職に向けて周囲のスタッフに佐藤の性格や適切なサポート方法を共有し、配慮ある職場環境を整えていた。
復職初日、佐藤はこれまでとは違う穏やかな笑顔で出勤した。新たなスタートを切った佐藤の姿は、これまでの経験が無駄ではなかったことを物語っていた。
解説
いかがでしたでしょうか?
職場が配慮をしても、本人が無理をしてしまう性格の場合、しんどさに気づかず、再び体調を崩すことがあります。仕事に対して真面目で責任感が強い人ほど、このパターンに陥りやすいのです。
周りからの評価は高いものの、自分のしんどさに気づかずにある日限界が来て休んでしまうことにもなりかねません。
職場での配慮も重要ですが、本人が自分の限界を知り、適切な休息を取ることを学ぶ必要があります。
通院先の精神科で、振り返りや対処についてアドバイスをしてもらうこともあるかもしれませんが、忙しい外来の中では十分時間が取ることができないのも現状です。
そんな時に、おすすめなのがリワークです
リワークとは何か?
リワークは、職場復帰を目指す人が、復職に向けた準備を整えるための専門的なプログラムです。医療機関や公的機関、民間施設などで提供されており、復職をスムーズにするためのサポートを行います。いかにそれぞれの特徴を簡単に記載します。
医療機関のリワーク
精神科や心療内科で提供されるプログラム。医師や心理士が専門的にサポートし、復職に向けた準備を整えます。ハローワークや公的機関のリワーク
無料で提供されることが多く、復職に必要なスキルや生活習慣の改善を支援します。民間リワーク施設
有料の施設ですが、プログラム内容が充実しており、復職後のフォローアップも行われる場合があります。民間が経営しているので費用はかかりますが、自治体が補助をしてくれる所が多いので、比較的通いやすいと思います。
リワークの内容
生活リズムの調整
会社勤務を想定した時間帯に施設へ通所することで規則正しい生活リズムを確立します。休みながら自分自身で散歩したりスケジュールを整えることは案外難しいので、こういう仕組みを利用するのもおすすめです。自己分析
過去にしんどくなった体験や今回休職に至ったを振り返って、原因を分析します。そして、その分析に基づいて、職場でのストレスにどう対応するか、具体的な方法を身につけます。
過去を遡って振り返るのでしんどく感じることもありますが、しっかりと自分と向き合うことで、働いてからの仕事のストレス対応が上手になります。模擬職場トレーニング
職場を想定した環境で、実際の業務に近い活動を疑似体験します。コミュニケーションの練習
同僚や上司とのコミュニケーションを円滑に進めるため、個別や集団でコミュニケーションの練習を行います。上下関係を含む対人関係の訓練も行います。復職後のサポート
復職後も再休職にならないように、継続的に支援を受けられる場合があります。
個人的にも通いたいなと思うプログラムも多いです☆
リワークの効果
いくつかデータを紹介します
■リワークを受ける方が復職率が高い
リワークプログラムを受けなかった場合:約55.5%
リワークプログラムを受けた場合:約90%
■復職後1000日時点の就労継続率:
リワーク利用者: 約70%
リワーク非利用者: 約20%
以上のように、リワークをすることによって復職率も高くなり、復職した後の再休職率も低くなります。
個人的な感覚でも復職後の定着率は高いですし、実際にリワークを受けてから復職された方のほとんどは「受けて良かった」という感想をおっしゃいます。
自分と向き合う期間があることは、長い人生においてとても大きな意義があると思います。
まとめ
復職後の再休職を防ぐためには、本人の働き方やストレスとの向き合い方を見直すことも大切です。リワークはそれを学ぶ絶好の機会です。職場での配慮だけでは解決が難しい場合、ぜひリワークを検討してください。
本人にとっても職場にとっても、「無理なく働ける環境」を作ることが再発防止につながります。
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