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なんで上司にだけいい顔する人が昇進するの?

あなたの上司はどんな人ですか?

幸せの条件の一つに「良い上司」を挙げる研究者がいるくらい、働く人にとって上司の存在は大きな影響を及ぼします。

「働きにくい」と言っている人のほとんどは、上司との関係で困っていることが多い印象です。

今回は、上にはいい顔をするけれど、下には厳しい上司のお話です。


ミニストーリー: 「上司には評価されても、部下には不評な課長」

営業部の課長、山内は、部長の吉川には非常に愛想が良かった。会議の席でも、吉川部長からの指示や提案に対して、いつも「やります」「できます」と返事をし、決して反論や異論を口にすることはなかった。吉川部長からの信頼も厚く、「山内君はいつも頼りになる」と評価されていた。

一方で、山内の部下たちは、まったく別の人物像を抱いていた。

ある日、部下の佐藤がプロジェクトの進捗について山内に報告に来た。進捗は予定通りで問題はない、と自信を持っていた佐藤だったが、山内の表情が一気に曇った。

「こんな進捗で終わるわけないだろう。これじゃ遅すぎる。」山内はイライラした様子で言い放ち、佐藤を一蹴した。

佐藤は必死に説明を試みる。「でも、このスケジュールは最初に確認してもらったものですし、現時点で特に遅れは出ていません。もし追加のタスクがあるなら調整しますが…」

山内は佐藤の言葉を遮り、「いいか、今それをやる余裕なんてないんだ。言っただろう、スピードが全てなんだよ。この件は明日までに修正して再提出してくれ。」と、強い口調で命じた。佐藤は言いたいことが山ほどあったが、山内が対話を許さない態度を見て、何も言い返せずに席を立った。

別の日、もう一人の部下である西田が、山内に対して業務量の増加について不満を訴えた。西田はすでに連日残業続きで、体力的にも精神的にも限界を感じていた。

「山内課長、すみませんが、今のスケジュールだとどう考えても無理があります。あと1週間もこのペースでは持ちません。何か調整してもらえませんか?」

しかし、山内は西田の訴えにも冷たかった。「言っても仕方ないだろう?仕事は山ほどある。これをやり遂げないと意味がないんだ。余計なことを言う暇があるなら手を動かせ。これも君のためだと思ってやってくれ。」

西田は反論したい気持ちを抑え、仕方なく指示に従った。

その一方で、会議の場では山内は吉川部長に笑顔で対応していた。

「山内君、今期のプロジェクトの進捗はどう?」吉川部長が尋ねると、山内は即座に自信満々に答えた。

「順調に進んでおります。部下たちも全力で取り組んでいますし、問題はありません。どうぞご安心ください。なんでもやらせていただきます。」

吉川部長は満足そうに頷き、「さすが山内君、期待通り。今後も頼むね」と、笑顔で答えた。

しかし、山内の部下たちはその「全力」の代償を日々支払っていた。西田は連日の過重労働で体調を崩し、とうとう限界を迎えて退職を決意。佐藤も心身共に追い詰められ、出社が徐々に減り始めていた。山内は部長の吉川には高く評価されていたが、部下たちにとっては厳しさと理不尽さの象徴であり、心の休まることがない存在だった。

吉川部長は、山内の対上司への姿勢しか見ておらず、部下たちに対する厳しい態度やストレスを知らないまま、山内の昇進を検討し続けていた。部下たちに対する評価が反映されない職場では、360度評価がないために部下の声は届かず、メンタル不調や離職者が続出する状況が続いていた。


解説: 「上司からの評価だけで昇進を判断するリスクと360度評価の重要性」

このストーリーは、部長が課長の評価を上司視点からしか見ていないことが、組織全体にどのような悪影響を与えるかを描いています。部長の吉川は、山内課長の「上司への対応」や「言葉」をもとに評価を行い、彼の昇進を検討していました。しかし、現場では山内課長の理不尽な指示によって部下たちが苦しみ、離職やメンタル不調を引き起こしていたのです。

部長は課長の言葉だけで判断してはいけない

部長は、課長の報告や会議での態度だけを鵜呑みにして判断することはリスクが高いです。山内課長は部長には「順調に進んでいます」「問題ありません」と報告し、部下たちが全力で取り組んでいるように見せていますが、実際には部下たちに無理な負荷をかけ、対話をせずに理不尽な指示を押し付けていることに気づいていません。

課長や中間管理職の評価には、彼らの部下に対する対応や現場でのリーダーシップも考慮するべきです。言葉だけで判断することは、自分を良く見せるために上司に対して取り繕っている可能性を見逃すリスクがあります。

360度評価の重要性

このようなケースを防ぐためには、360度評価が重要です。360度評価では、上司だけでなく、部下や同僚からのフィードバックを集め、管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルを多面的に評価します。山内課長のような上司に良い顔をするタイプの管理職は、部下からのフィードバックを見逃されがちですが、360度評価なら部下たちの本音を聞き取ることができます。

組織にとって、上司に対してだけ従順な課長が昇進するのはリスクが高く、組織の健全な成長を妨げる可能性があります。部下からのフィードバックを取り入れることで、現場での信頼関係やコミュニケーションの質を正しく評価し、適切な昇進を行うことができるのです。

忠実な部下を昇進させるリスク

部下がただ上司の指示を忠実に守るだけでは、組織の成長には繋がりません。むしろ、時には上司に対して異なる意見や反論をする人材こそが、組織にとって価値があります。ただし、重要なのは、こうした反論が単なる反抗ではなく、組織の理念やカルチャーと一致していることです。理念の部分で一致しつつも、異なる視点を提供できる人材が、組織に新たな発想や成長の機会をもたらします。

山内課長のように、反論せず「やります」「できます」と上司に従う人材は、短期的には評価されるかもしれませんが、長期的には組織にとってリスクとなります。異なる視点や建設的なフィードバックを提供できる人材こそが、組織を次のステージへ導くために重要なのです。

上司が悪いのではない。システムが悪い。

前半のストーリーでは、山内課長が悪者になるように描いていますが、原因は山内課長ではありません。というよりも原因を山内課長のせいにしないことが重要です。

良い悪いは別として、人は自分の欲求のままに行動する生き物です。上司から褒められる、評価されるという報酬を得るために、山内課長はイエスマンになっていました。

それを加速させたのも、職場の評価システムそのものでした。

上司の評価が最優先され、部下からの声が反映されない環境では、山内課長のように「上司にだけ良い顔をする」という行動が強化されてしまいます。山内課長は、自分の昇進や成功のために、上司の期待に応えることが最も効果的だと学んだに過ぎません。もし、部下からのフィードバックが評価に組み込まれていれば、彼もまた違った行動を取っていたかもしれません。

山内課長はシステムに適応しただけであり、問題はそのシステム自体にあるのです。このような環境では、上司に忠実であればあるほど評価が高くなるため、結果として部下を無視したリーダーシップが生まれてしまいます。リーダーとしての本来の役割である、チーム全体の成長や健全なコミュニケーションが疎かにされてしまうのです。

システムが変わらなければ、同じ問題は繰り返されます。

だからこそ、評価システムを再構築し、上司だけでなく、部下や同僚からの評価も反映されるような仕組みが求められます。そうすることで、管理職が部下とのコミュニケーションを重視し、現場の声をきちんと拾い上げるリーダーシップが育まれるのです。



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