第138回MMS(2016/09/19対談)「オリジナル文房具ブランド『Factionery』をプロデュースする金型設計者」前編 株式会社モールドテック代表取締役 落合 孝明さん
本記事は2016年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。
●MMS本編
三木:第138回マイクロモノづくりストリーミング、本日も始まりました。本日は神奈川県藤沢市の株式会社モールドテックさんのほうにお邪魔しております。落合さんに金型設計とは何か、町工場が自ら生み出したFactioneryという自社商品のブランドなどについて色々とお話を伺っていきたいと思います。落合さんよろしくお願いします。
落合:よろしくお願いします。
三木:落合さんなんですが、前回ご出演いただいたのが2011年の8月19日ということでもう5年前ですね。
第16回MMS放送
落合:早いですね。
三木:5年前にご出演いただいて今日に至るということになります。落合さんよろしくお願いします。
落合:よろしくお願いします。
●enmonoとの出会い
三木:まず冒頭は落合さんと我々の出会いがどういうところがあったと。
落合:はい。
宇都宮:記憶も定かじゃないですけどね。Twitterの頃ですからね。
落合:Twitterの頃ですね。当時製造業応援ブログというのがあって、そこの山本さんに横浜で一周年か何かのパーティーをやった時に初めて・・・
宇都宮:お目にかかったのはその時ですか?
落合:その時ですね。
三木:6年、7年前。その時にもうパーティー会場に緑川さん来てましたよね。
落合:いました。あの時にその緑川さんとかコマでいうところの実況の椙田さんとかあの辺の…
宇都宮:落合さんもその時に初めて緑川さんに会ったんですか?
落合:緑川さんはもっと前から。それも山本さんつながりなんですけど。あまり表に出て来ないですけど僕の中では結構キーマンなんです(笑)
宇都宮:表に出て来ない(笑)
三木:そうですよね(笑)熱い感じの方ですよね。
落合:そうそう。
宇都宮:製造業応援ブログの結構老舗の・・・
落合:そうですね。僕はそのつながりで今のコマの立ち上げメンバーみたいな人たちには出会ってますね。ミナロさんに連れてってもらったので。
三木:そうですよね。あそこにいたメンバーが結構中心になってコマの母体を…
落合:そうですね。今思えば。
宇都宮:濃いメンバーですね。
落合:僕の人生を狂わせるきっかけになった人たちですね。
enmono:(笑)
●金型設計を始めた経緯
三木:落合さんの会社モールドテックでは金型の設計をされているということで。
落合:そうですね。本業は金型の設計屋でございますね。
宇都宮:学校は工学部かどこか?
落合:学校は工学部だったんですけど化学系だったんです。
宇都宮:それはどこでこう…?
落合:元々学校を出て化学系の会社に就職して、そこを辞めて実家に入って…元々継ぐ気はなかったんですけど。
宇都宮:お父様も設計家だったんですか?
落合:そうですね。元々実家でここでドラフターで始めて。
宇都宮:ドラフターなんですね。
落合:そうですね。ドラフターの時代ですね。うちの父が始めたのは。
三木:何かきっかけがあったんですか?継ぐという・・・
落合:いや、前の会社を辞めてちょっとフラフラしてて…(笑)あまりにもフラフラしてたから、うちの父親が「とりあえずバイトでいいからここでやれ」と。「じゃあ一時的にやるか」って言って、一時的がもうかれこれ十数年ですね。今じゃ継いじゃいましたからね。
宇都宮:何かおもしろかったんですか?やってて。
落合:何ですかね。座って何かするのが性に合ったんでしょうね。
宇都宮:でもドラフターでしょ?最初は。
落合:もう僕が実家に入った頃はCADを導入していて、「そろそろうちぐらいの規模でも3次元使わないとまずいね」ということだったので。
宇都宮:「3次元やれ」と。
落合:そうそう。まあまあ体のいい3次元要員で雇われた形ですね。元々が。
宇都宮:でもゼロから覚えるのは大変でしょ?
落合:大変でしたね。
宇都宮:金型のこともたぶん全然ご存知ないでしょうし。その辺はお父さんから教わりながら?
落合:あと当時の金型屋さんのお客さんのとこにちょっと1年ぐらい入り浸って覚えてという形ですね。もうその金型屋さんないですけどね。
enmono:(笑)
落合:潰れちゃったので。でも、その型屋さんが潰れちゃうタイミングと僕が後を継ぐタイミングが一緒だったんですよ。
宇都宮:代表をやるということ?
落合:そうそう。当時8割ぐらいその会社に依存してたので。
三木:そうなんだ。
宇都宮:これは営業しないと・・・
落合:「営業しなきゃ」って言って始めたのがブログとかTwitterとかなんですよ。
宇都宮:2009年頃?10年?
落合:ブログで2006年。
三木:すごい早いですね。
落合:そうですね。さっきの話で出てた山本さんとブログ経由で知り合って、「横浜でとんがってブログやってる人がいるよ」って紹介してもらったのが俗に言う緑川さんですね(笑)
三木:俗に言う・・・(笑)何でブログをやろうと思ったんですか?
落合:単純に営業が嫌いなんですよ(笑)
一同:(笑)
落合:人に会ってしゃべるのが大嫌いなので。
三木:ブログで書くネタはどういうネタですか?
落合:何でも書いてましたけどね。
宇都宮:仕事のこととか?
落合:も、書いてました。これからどうしたいとか何の本を読んだとか何でもですね。当時は仕事が暇なので時間だけはあった。仕事8割減だったので。
宇都宮:でも色々情報を発信しながら…
落合:そうですね。
宇都宮:出歩きはしなかったですか?
落合:でも最初は出歩いてないですけど、それから緑川さんだったりとか、あとは別のルートでミヨシの杉山さんとかあの辺もこの頃からの付き合いなので。
宇都宮:杉山さんって情報発信されてましたっけ?
落合:杉山さんは軽くやってましたけどそんな積極的ではなかったですね。ただmixiで出会った(笑)
宇都宮:(笑)
三木:mixiで会ったんですね(笑)
落合:そこで2代目金型何ちゃら会みたいなのがあって。コミュニティって言いましたっけ?mixiって。あれで杉山さんとかがいて、「じゃあ会ってみようか」って言って会ったのが初めてですね。そういう2代目の人とちょっとずつ知り合って。
三木:なるほど。で、お仕事は・・・(笑)
一同:(笑)
宇都宮:そこから何かお仕事につながっていくっていう感じなんですよね?
落合:そうですね。
宇都宮:知ってもらってっていう。
●知ってもらいとにかくやってみる
三木:(売上の推移のグラフを見て)なんか急に減ってますね。
落合:8割依存してたのが潰れちゃったよっていう。潰れちゃってこんぐらい売上がきつくなっちゃて。
宇都宮:で、ブログとか始めたのが2006年…
落合:そうですね。知られてないので知ってもらわなきゃいけないってことで始めたのがブログとかですね。
宇都宮:それでFacebook、Twitter…
落合:そうですね。
宇都宮:ものづくり流行語大賞とかを震災前に。キャナ型でしたよね?
落合:キャナ型ですね。
三木:この魅惑の湘南会合という。あれ、これ僕行ったんだっけ?行ってないな。何かおもしろそうなのをやるよって言って…。
落合:湘南台のやつもそうですね。
三木:震災の前でしたっけ?
落合:震災の直前ですね。西村金属が初めて出て来た時ですね。こっち側に。
三木:西村金属登場(笑)
宇都宮:今すごい大ブレイクされて。
落合:もうブイブイやってます(笑)
宇都宮:雲の上の存在で口聞いてもらえないですよね(笑)
三木:色んなところにお店出しまくって(笑)
落合:もうこっちが下手に出てます。
一同:(笑)
落合:でもそんなこんなであとは復興支援やったりとか。復興支援も東北の震災があった時に、5年前に出た時に確かその話をしてますけど、製造業なんだからお金を直接あげるより何か作って付加価値を与えてやったほうがいいだろうってことでやり始めたのが…
三木:何人ぐらいやったんでしたっけ?当時。
落合:延べで言うと製造業側だと25、6人かな。
宇都宮:それは東北の会社さんも?
落合:そうです。協力してもらって。月に何回か行ける人だけ行ってって感じですかね。あとこの時は向こうの学生さんと知り合って協力してくれたりとか。
三木:結局これはどれぐらい続けた感じですか?
落合:丸2年ぐらいやったんですかね。
三木:そんなにやったんですね。すごいですね。
宇都宮:結構パワーかかりますよね。本業もありつつだと。
落合:この先どうするんだっていった時に、結局本業を犠牲にしないといけない。犠牲というと言い方が悪いですけど、本業との兼ね合いが難しいねってことでちょっと活動としては今止めている感じですね。解散とかはしてないですけど。
三木:そうなんですね。
三木:このメンバーがこっちに…(笑)
落合:そのままこちらにスライドする形で(笑)
三木:はいはい(笑)
落合:コマですね(笑)
宇都宮:顔ぶれ一緒ですよね?ほとんどが。最初の最初…
落合:ほぼ同じメンバーですね(笑)出だしは。
三木:いわゆる一つのコマですね。
落合:いわゆる一つのコマですね。まさかこんなになるとは思わなかったですけどね。
三木:コマ大戦っていうのはいつからでしたっけ?
宇都宮:2012年の2月に第一回です。その前にたぶん飲み屋で何か思いついたって言ってましたよね?
三木:そうです。由紀精密のちっちゃいコマで飲み屋で見てて大戦したらみたいな感じで。
宇都宮:落合さんいたんですか?
落合:僕はその時いなかったです。僕のいないところで決まってたんです。これをやることが(笑)
宇都宮:(笑)
三木:これを今もう伝説ですけども、何か初代…
宇都宮:初代落守伊之助(笑)
三木:行司をやれって言われた時にどんなリアクションだったんですか?
落合:行司ですか?だから「コマをやるから行司をやってよ」って電話で言われたんですよ。
宇都宮:意味分からないですよね。
落合:意味分からないから、とりあえずまた何かやるんだなって思ってとりあえず「いいですよ」って(笑)
宇都宮:それでこんなことになって(笑)
落合:どうせ身内だろうって思って。それがまさか…
宇都宮:僕らも気軽な気持ちでちょっと関わったら、三木さんが1年ちょっと日本中を振り回されて…(笑)
三木:そうですね。
落合:行きましたよね。あちこちね。一緒に。
三木:行きましたよね。
宇都宮:4年前だ。でも。
落合:まだ4年ですもんね。
三木:何か落合さんがルールを決めてったみたいな感じ。
落合:そんなことはないです。
三木:コマ大戦の色んなルールはあったけど、色んな細かいことの判定が難しくてそれが後々色んなルールになっていったり。
落合:何かね。たまたま最初に行司をやっちゃったから(笑)こんないい扱いしてもらってますけど。良いのか悪いのか運が良かったんでしょうかね。
宇都宮:強烈にでも人の輪は広がったじゃないですか?
落合:広がりましたね。
●金型設計の仕事への影響と今後の方向性
三木:そうやって仕事というか人の輪が広がった結果色んな仕事に結びついたりとか?
落合:そうですね。なので、元々設計しかやってなかったところが、結局金型の前の製品設計とかデザインとか企画だったりとか、それこそマイクロモノづくりのあれに近いものがあるかもしれないですけど、あとは金型の設計をするだけじゃなくてモノを手配したりとかという、要は業務の幅がちょっと広がってきましたね。
宇都宮:そうすると売上の推移も少しは?
落合:そうそう。おかげさまで売上が当時の損益分岐ぐらいにはなったかなってとこですね。この1個前の期で。
宇都宮:今後はこれをもう少し伸ばしていく?
落合:そうですね。
宇都宮:あるいは人をもう少し増やすとかそういう方向もある?
落合:今お客さんが増えて変な話1社ぐらい潰れてもそんなに痛くなくなったんですけど(笑)
enmono:(笑)
宇都宮:かなり強気な発言ですね(笑)経営者の発言ですね(笑)
落合:(笑)
三木:その代わり管理が大変になってきますね。
落合:そうなんです。やることがすごい増えちゃったのでちょっと人をどうにかしないとなというとこですね。おかげさまでコマとかですごい知り合いが増えたので、色んな今までできなかった要望も、金属加工ならこの人とかデザインならこの人とかそういう断ることが減りましたよね。
三木:なるほど。
宇都宮:それはつながってきますよね?どんどん。
落合:だから結局営業が好きじゃないと言いつつも、設計のできる営業とか商社とかそんな立ち位置になってきたかなという感じですね。
三木:いいですね。
宇都宮:すごいですね。それは何か目指してた形に近いですか?こういう風になったらいいなとか。
落合:そうですね。元々が金型設計の知識を生かして、要はモノづくりの入り口を押さえたかったんですよ。
宇都宮:上流工程のほう?
落合:そうですね。上流工程を。そういう仕事がたぶん日本からなくならないし、逆に今から現場に備えて何かやるっていうのもちょっとどうかと思うので。一からスタートになっちゃうので(笑)。
宇都宮:工場を作るってかなり資金が必要ですよね?
落合:自分で作るぐらいだったらあんだけ知り合いがいるんだから知り合いに頼んだほうが向こうも喜ぶしいいやと思って。じゃあ上流を押さえようということで今、上の開発案件とかそういうのを中心に力を入れたいですね。
三木:お客さんはだいたい中小、大手、色々ですか?
落合:中小ばっかりです。
三木:中小。いわゆるメーカーみたいな人…
落合:(メーカーの)人も多いですし、お客さんのお客さんが大手という場合は結構(あります)。やっぱり今大手の人もあまりあちこちに外注しちゃうと…
宇都宮:候補を絞ってますよね?
落合:絞ってるし手間もかかるっていうので1社というか少数に絞りたいという傾向があるので、そうするとうちのお客さんは色んな要望に応えなきゃいけないという状況で…
宇都宮:便利な人。金型で。
落合:便利な人(笑)そうそう。設計はできるし知り合いは多いしっていうことで…
三木:すごいですね。
落合:すごい重宝されてるお客さんも…
宇都宮:日本の製造業のキーマンですね。
一同:(笑)
落合:やめてくださいよ(笑)何も出ないですよ(笑)
三木:キーマンですよね(笑)
宇都宮:だってこんな本を出してるくらいですからね。金型設計者みんな読んでる教科書ですから。
三木:「金型設計者1年目の教科書」。
落合:1年目の人ね。
三木:これはすばらしい本で、私も読ませていただいて。すごい丁寧に初心者にも超分かりやすく。
宇都宮:パッと見で分かりますよね。そういうのをちょっとでも知ってると素人じゃ絶対作れない形状だなとか。
落合:そうですね。それが言えると言えないじゃお客さんもまた信用度が違うので…
宇都宮:3次元プリンタで試作して持って来られても「これ量産無理だよね」とかありますよね?
落合:そうなんですよね。
宇都宮:シリコン型でも無理な場合がありますもんね。
落合:あります。うちはやっぱり試作は3Dプリンタが樹脂だと結構多かったりするので、その段階で金型でできるできないっていうのを提案したりだったりとか。
宇都宮:3次元CADって良し悪しですもんね。何でもできちゃうっていうか…
落合:CADだとどんな形でもできますからね。
宇都宮:デザイナーさんもやっぱりデザインを重視するとどうしてモノにならないものもあったりしますからね。
落合:そうですね。
三木:最近の傾向って何かありました?
落合:設計屋っていう目線でいうと結構設計屋さんって高齢化しているのでもう引退の時期だったりとか、あとは3次元CADができないとかそういう設計屋さんが結構多いので、そういう意味では設計屋単体でも金額の大小は別ですけど需要がちょっと増えてきているのかなと。
三木:増えてきてるんですね。
落合:そうですね。結構問い合わせも来ますね。
宇都宮:そもそも受ける人が減ってきてますね。
落合:そうですね。受け皿が本当少なくなってますね。
宇都宮:製品設計ができても、要は金型設計というと社内に生産技術者がいる会社は別でしょうけど。
落合:だから中規模ぐらいの会社さんだとなかなか…
宇都宮:そうですよね。製品設計者が金型設計できないですからね。
落合:できないですからね。一社で色々やってもらいたいっていうお客さんというか需要が増えている感じがしますね。そうすると金型ができる知識とか、結局僕は金型設計ばっかりですけど、例えば金属製作加工だったら関東で一番の関東精密さんとか樹脂型だったらミヨシさんに頼むとか、うちでできなくても他の誰かに頼めばだいたいできるようになってるのでそういう…
宇都宮:そういう心強い知り合いがいますよね。
落合:いるので、基本的には何か言われたら断らないで動いて。
三木:設計の前段階で、例えばデザインとかそういう相談も来たりするわけですか?
落合:来ますね。もう本当に手書きの漫画みたいなので「こんなのがほしい」って言われてそれを具体的にデザインしたりとかということもありますね。
三木:その場合はデザイナーさんにつなぐとか?
落合:つなぐ場合もありますし、そんなに凝ったデザインでなきゃ自分でやっちゃう時もありますし。金型用のCADで。
一同:(笑)
宇都宮:すごいですね。
落合:いや、だからそんなにすごいかっこいいあれじゃないですよ?
宇都宮:モールド状という感じですよね。ソリッド状というか。
三木:そのまま金型にできる感じですね。
宇都宮:すごい。普通のCADでも難しいですもんね。
三木:金型CADでデザイン。新しい仕事じゃないですか。金型CADでデザインするって。
落合:いやいや、本当に簡単なやつですけどね。本当にデザイナーさんが必要な時はちゃんと…
宇都宮:実際3次元プリンターもありますもんね?
落合:あります。安いやつですけどね。