トスカーナ想ひ出紀行「ひとり蜜月 ハニームーン」
とある晴れた日、絵葉書が舞い込んできた。差出人は旧友Uさんだ。イタリアはトスカーナ地方を旅しているとのことだ。うむ、いいなぁ、羨ましい。徐に高校のときの地図帳を広げ、イタリアおよび隣接国の地形を確認し、国土に対する荒地の割合を電卓で計算する。よし、いい感じだ。地図帳で大まかな旅のルートを思い描く。決まった。次の海外旅行先はイタリアのトスカーナ地方とフランスのプロヴァンス地方だ。
2005年3月中旬、成田発の捕鯨船アリタリア号は古い機体で、終始ゴーゴーガタガタ言いながらもミラノに無事着いた。ミラノでは、あのフランチェスカが空港まで迎えに来てくれており、その日は彼女の部屋に泊まった。といった智恵子抄風味の純愛があるはずはなく、彼女とはすでに音信不通であった。
※フランチェスカにつきましては、拙文『ドニゴール想ひ出紀行「イアンデューリーとフランチェスカ」』をご覧下さい。
トスカーナ旅が始まる。ミラノやフィレンツェ、シエナといった有名観光都市で一般的な観光をサクサクとし、サン・ジミニャーノにやって来た。Uさんから頂いた絵葉書の写真はこの地だ。のんびり散策するのに適した規模の街で、ようやく気持ちが落ち着いてきた。初来伊で、完成度の高いイタリアの景観に感激をしていたが、イタリア都市部の人混みで人酔いをしていたのだ。
ときに、イタリア人の明るさや人懐っこさ、スマイルは上等だ。仕事でイタリアに住んだら大変なのだろうが、短期旅行で過ごす分にはかなり魅力的だ。「微笑みの国」とはタイではなくイタリアのことだな。うむ、待てよ、両国には共通点が多い。すると、微笑みの国世界ランキング第一位はタイかイタリアか、どちらの国なのか。どっちでもいいや。
サン・ジミニャーノでは貸自転車屋でMTBを借り、トスカーナの丘陵地帯を走り英気を養った。サイクリングをしていると、高級ロードバイクに乗るイタリア人がすれ違いざまに、「よっ!」という感じでしばしば挨拶をしてくれる。私が乗っている自転車は決して高級とは言えない借り物の古いMTBだ。さすが自転車先進国イタリア、自転車路上ヒエラルキーがないようだ。微笑みの国世界ランキング第一位だけのことはある。
その後、ピサに出向いた。大哲学者、天才科学者、髭親父、さまざまな通り名を持つガリレオ=ガリレイの故郷だ。尊敬をしている。ガリレイがピサ大学生のときに大聖堂のシャンデリアを見て「振り子の等時性」を閃いたらしく、そのシャンデリアを見たかったのだ。
ピサ中央駅前のバールでエスプレッソをいただいてイタリア気分を味わってから、高層建築物のない小ぢんまりとした街を30分ほど歩く。急に視界が開けた。洗礼堂、大聖堂、斜塔が並んでいる。ドゥオモ広場だ。大聖堂に入る。シャンデリアを見た。ふむ、なるほど。ピサ観光、終了。
イタリア旅の最後は海辺の街ジェノヴァに立ち寄った。なんだ、治安が悪いぞ。ウォーと意味なく叫んでいる男が多い。俺も叫びたい。荒くれ漁師が多いのか。怖いから早く寝て明日に備えよう。明日からフランスだ。1週間ほどの北イタリア旅、これにて静かに終了。
-プロヴァンス想ひ出紀行に続く-