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キャリアの寄り道が、おいしい仙台牛づくりに活きている|仙台牛生産者・菅野豊博さんインタビュー

仙台牛は、日本一の牛肉を決める大会(全国肉用牛枝肉共励会)で6年連続受賞している実力派の和牛ブランドです。その仙台牛生産者の一人が菅野豊博さん。菅野さんは、ご実家が肥育牛の生産農家で、家業をストレートに継がれたのかと思いきや、そのキャリアは寄り道も多かったといいます。これまで歩まれた道と、仙台牛にかける想いをお聞きました。

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<プロフィール>
菅野豊博(かんの・とよひろ)
宮城県大崎市で仙台牛150頭を育てる生産者。菅野畜産の2代目。仙台牛のNo. 1を決める「JAグループ肉牛「仙台牛」担い手共進会」で、昨年、出品した仙台牛がチャンピオン賞に選ばれた。仙台牛の若手生産者の仲間たちとともに「仙台牛レボリューションズ」というグループを創設し、仙台牛のプロモーション活動も担う。46歳。

父が始めた和牛肥育。でもそのレールには乗りたくなかった青年時代

―ご実家が和牛肥育(※)を?

菅野さん:父がもともと米農家だったのですが、米の値段が下落したのをきっかけに和牛肥育を始めました。私自身は子ども時代に牛舎の手伝いをさせられて、大変で嫌だな、と思っていました。子ども心に、牛の世話はきつい仕事だとわかっていたので、敢えてレールに乗りたいとは思わなかったですね。でも、運命をちょっと感じて…結局、和牛肥育の道に挑んでいました。

※和牛は、多くの場合、母牛に子牛を産ませて8~10か月ほど育てる和牛「繁殖」農家と、その子牛を市場から買ってきて20か月ほどかけて大きく育て出荷する和牛「肥育」農家による分業で育てられます(繁殖から肥育までを一貫しておこなう一貫経営をする農家もいます)。菅野畜産では、後者の「肥育」をメイン事業としています。

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―運命というのはどういうことでしょう?

菅野さん:宮城県の農業実践大学校を卒業したあと、どうしても家から離れて東京に出てみたくて、横浜の牛肉卸会社に就職しました。ただ仕事が厳しかったし、都会になじめなくて。数年で地元に戻って県の畜産試験場で4年間仕事をしていました。

自分の経験を振り返ると、ずっと和牛に携わっていたんですよね。じゃあ、こうなったら自分の力でどれくらいできるのか試したいと思ったんです。あとは父の体調が思わしくなかったし、父が築いてきたものをこのまま無くすのももったいないという想いもあり、和牛肥育に取り組みはじめました。

始めたころは、JA全農みやぎの職員とずっと二人三脚でしたね。あとJAの職員もすごく情熱をもって取り組んでくれたし、所属している肥育部会の方々にもいろいろ教えてもらいながらでした。そういう支えもあり、いい方向にいけるような運があったのかなと思います。

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菅野さん(右)と、JA新みやぎで現在、
仙台牛を担当している齋藤 拓海さん

任された40頭の牛舎。初めて出荷した和牛はダメだった

-学校で和牛を学ばれていたとはいえ、実際に始めてみると技術的なスキルアップが必要だったと思います。どのように学んでいったのでしょうか?

菅野さん:地元に当時JAが経営していた肥育センターという大きい牧場があって、その場長さんが自分を一生懸命指導してくれて。父のつながりもあり高校生のときからの知り合いだったので、そこで技術を学びました。あとは父の仕事を見様見真似でしたね。うちの父は、手伝いながら学ぶのではなく最初から最後まで全部自分で実践して覚えろという方針だったので、最初から牛が40頭入る牛舎を一つ預けられて。まるっきり全部、子牛を買うところから始めて、そこから自分の牛を出荷できるまで2年ですね。

―最初に出荷した牛はどうだったのでしょうか?

菅野さん:ぜんぜんダメでした。やっぱり最初はうまくは行かないんだな、と。

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攻めの規模拡大と、自身の成長

―その失敗を受けていろいろと改善したと想像するのですが、どう変えていきましたか?

菅野さん:やっぱり和牛は血統が重要。子牛を導入する際の血統の吟味、子牛の状態を見分けられる目もできた。あとは餌も最初は父の真似をしていたんですけど、新しい餌にもチャレンジしています。父は従来の餌、自分は新しい餌でリスク分散しています。
そして初めての出荷のあと、規模拡大ということで牛舎を新築して飼養頭数を倍の80頭に増やしました。経営的に、再びチャレンジするには頭数が必要だったからです。

―令和2年度の「JAグループ肉牛「仙台牛」担い手共進会」ではチャンピオン賞になったと聞いています。

菅野さん:チャンピオンになったのは、子牛の時から狙った牛でした。条件が揃って、タイミングよかったですね。ただ宮城県は全国一位の人がたくさんいる地域で…若手でもちょっと勝てないような有力な人がいっぱいいて、自分でもよくとれたな、と思います。

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「JAグループ肉牛「仙台牛」担い手共進会」に出品した
チャンピオン牛

―飼い方での工夫はありますか?

菅野さん:出荷する月齢を、うちの地域は長くとるほうです。月齢を少しおいて「枯らし」てから出荷にもっていく。やっぱり月齢をおいたほうが食味がよいと感じています。これは、農業大学校卒業後に就職した牛肉卸会社の社長にも言われます。

―前職のご経験や人脈が活きていますね。

菅野さん:そうですね。東京に出荷して、市場に行くと今でもその社長にダメ出しされますよ(笑)。「お前こんな肉を持ってきちゃダメだよ!」とか「今日はいいやん!」とか。勉強させてもらっています。あとは畜産試験場とのパイプがあることで、新しい技術や飼養方法の情報が入ってきて、それもいまに活かされていますね。

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仙台牛の生産者同士がつながって、プロモーションも担う

―地域には優秀な生産者がたくさんいると仰っていましたが、生産者同士の横のつながりはありますか。

菅野さん:地域の横のつながりは、JA全農みやぎの担当者のがんばりもあって「仙台牛レボリューションズ」という組織を作りました。最初は自分がこの地域の代表をしていました。今は世代交代して、私は一歩引いて、若手に任せています。

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仙台レボリューションズの現在の中心メンバー

―仙台牛レボリューションズはどんな活動を?

菅野さん:以前は、東京のお台場に消費者の方を呼んでバーベキューをしたりしました。都内のスーパーで生産者が試食台に自ら立ち、仙台牛のPRをすることも。若手ならではのフットワークの軽さで取り組んでいます。あとは最近だと、テレビ番組からオファーが来て出演もしています。

―仙台牛のプロモーション活動をしているということですね。それまでは、生産者さん自身の活動は無かったのでしょうか?

菅野さん:そうですね。横のつながりすら限定的でした。仙台牛レボリューションズを始めた頃は、自分の父親世代に混ざってやっている感じでしたけど、いまは若い人が増えましたね。

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仙台牛生産者(最前列右から3番目が菅野さん)と宮城県内のJA、JA全農みやぎの職員が仙台牛の出荷時に集まったときの一枚。生産者、JA、全農が一丸となり仙台牛を盛り上げている。

味を追い求め、また買いたいと思われる仙台牛を

―目標はありますか?

菅野さん:いま実は自分で飼料用米を作って、その飼料用米を牛に与えて肉の脂身の風味を向上させています。仙台牛ってすごいサシが入るんですよ。そうするとどうしても口に残って、食べづらく感じることもある。それを、飼料用米を与えることで、脂の融点が低くなってあっさり食べやすくなるんです。

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菅野さんの牛舎から見える田んぼ

はじめのうちは飼料用米の生産者は限定的で、自分を含め数人しかやっていなかったのですが、それが徐々に広まってきました。これからはJA新みやぎ全体でも飼料用米を使って食味をよくしようという方針になれば、と考えています。今後も飼料用米に限らず、仙台牛のおいしさにつながる餌や技術があれば、試していくつもりです。

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仙台牛はどうしても高い値段で買ってもらうものなので、買ってもらった人が、もういいやとなるのではなく、また食べたいな、と思ってもらえる仙台牛をつくりたい。それに子どもに食べさせたときに「やっぱりパパの育てた牛肉がいちばんおいしいよ」と言ってもらいたいし。食べておいしい仙台牛を目指していきたいです。

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編集後記
すぐに和牛肥育の道に入るのではなく、牛肉卸会社、畜産試験場のご経験が今につながっているというのが、素敵なことだと感じました。菅野さんがおすすめの食べ方は、サーロインなら炭火焼きでステーキ、ミスジ(肩から腕にかけての部位)のしゃぶしゃぶ、あとはローストビーフだそう。特に、東京・新小岩の「肉のあさひ」さんのローストビーフは、業界の方々も絶賛とのこと。早速買ってきていただきました。こ、これは…旨さの密度がすごい!

ローストビーフ

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▼仙台牛の販売店、仙台牛を味わえる飲食店はこちらで検索できます。
https://sendaigyu.jp/shop/

▼仙台牛について詳しくは仙台牛銘柄推進協議会のWEBサイトへ。
https://sendaigyu.jp/

▼仙台牛の魅力はInstagramでも発信しています。
https://www.instagram.com/sendai.gyu/?hl=ja

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