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通り雨の悪魔

ここ最近は、1日に1度大量の雨が降る。

それまでの綺麗な青空が嘘のように雨雲が立ち上り、一瞬にして乾いた地面を土砂降りが奪い去る。

出かける時なんかは特に大変だ。

家を出る前に、今日は傘を持っていくべきかなんて考えるが、天気予報を見ても予想外の雷雨が来ることも考えられるので、結局何も持たないで出ることが多い。

そのせいで、大体どこかのタイミングでずぶ濡れになりテンションがダダ下がりになるという流れは、もはや恒例行事だ。


つい最近、大学の夏休み前最後の授業でプレゼンをする機会があり、教室へと向かっていたのだが、その時にも土砂降りに降られた私は、電車の中で閉じ込められてしまった。

幸いそのプレゼン自体はZOOMで行う予定だったので、学校に着いている必要はなかったのだが、流石に電車の中でプレゼンをするという判断は阿呆すぎるので、私は今の状況に焦り散らかしていた。

その後、なんとか電車は動き出したものの、プレゼンの時間は迫ってきていたため、大学の最寄りの駅よりも手前で降り、近くのカフェに行くことにした。

そして、ずぶ濡れになった身体をハンカチでさっと拭き、一杯1000円ほどする中々に贅沢なコーヒーを注文し、非常に優雅な時間を過ごしながらプレゼンを無事終えたのだった。

だが、一息ついたのも束の間、私は次の授業にも出席しなければいけなかったので、高級コーヒーを存分に味わいきることなくカフェを飛び出し、遅延した電車に乗り込みまた大学へと向かったのだった。

そこから先はもう嘘のように青空が広がり、真夏の強い日差しが濡れた身体と地面を乾かしていた。



夏の雨は残酷だ。

晴空に突然現れ、呑気に生きている人たちに危害を加えたと思ったら、またすぐに何事も無かったかのように過ぎ去っていく。

それは、悪夢のように、天罰のように、通り魔のように。

別に悪いことなんてしていないのに。

私がなぜそんな酷い目に遭わなければいけないのかといつも嘆くのだが、そんな悲鳴を雨が酌んでくれるはずもなく、颯爽とどこかへと消えていくのだ。

向こうからしたら、さぞ気持ちの良いことだろう。

いい迷惑だ。


そんな通り雨みたいに、嫌なことがあってもすぐに何事も無かったかのように忘れられれば良いのにと、ふと思う時がある。

大学3年の夏休みの今、自分はおそらく人生の転換期に差し掛かっていて、そろそろ選択をしなければいけなくなっている。

だが、昔から何かに縛られるのが苦手な私は、その選択をすることが怖くて仕方がない。

本音を言えば、このままダラダラと適当に最低限の生活費を稼いで生きていたい。

なんなら別にそうであってもいいと思っているが、流石に親とか周りに迷惑をかけ続けるわけにはいかないことも分かっている。

そうしてウダウダと過ごし、時間と周囲の人たちは私をどんどん置き去りにしていく。

少し考えすぎだとは自分でも思うが、ここまで生きてきた自分の人生に、将来を保証できるほどの功績が何もないからこその当然の結果なのだろう。

そんな風に、ついつい考えすぎてしまうのだ。


私が悩みを抱える時は、急に土砂降りになることがあったとしても、その土砂降りがピタッ、と止まることなどない。

その悩みが消えるまでには相当な時間がかかり、最悪の場合見なかったことにして蓋をしてしまい、いつまで経っても地面が乾くことなど無い。

ただ、夏の雨は一瞬にして、水たまりさえ消え去っていく。

雲の流れは一辺倒で、決して後ろを振り返ることなんてないのだ。

悪魔だって、悪事を働き後悔することなどないのだろう。

それはとても気持ちがいいくらいに。

時にはそんな真っ直ぐさが、今の私には必要なのかもしれない。


土砂降りで濡れた頭で、そんなことを考えた。

気がついた頃にはもう、空は晴れていた。

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ましこ
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