【ヤバイ】手塚エロティシズムの傑作「奇子」!タブー連発の伝説の衝撃作を解説。
今回は手塚治虫の中でも
伝説級のトラウマ的裏手塚の傑作「奇子」をご紹介いたします。
この作品においては「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」のような
日本を代表する児童マンガの面影はこれっぽっちも感じません。
むしろ真逆、
とても同じ作者が描いたとは思えない驚愕の人間ドラマが描かれています。
あまりの過激さに、これR指定はないけど大丈夫なの?
って思いますけど
まぁないからいいんでしょう(笑)
それほど刺激的で官能的で狂気とエロスが交錯した
タブーが連発する手塚治虫屈指の凄まじいマンガとなっております。
今では目を疑うようなシーンが連発しますので
初見の方はちょっと引いちゃうかもしれません。
人間のドス黒い面を赤裸々に描きだした手塚治虫の傑作中の傑作
容赦ない本気の手塚治虫が見る事ができますので
読まれる方は十分にお気をつけください。
それではその恐ろしい本編を解説していきます
本作のポイントは3つ
①史実との絡み
②主人公不在のストーリー
③暴走した性欲
動画は年齢制限がありますので15歳以上の方はどうぞ。
あらすじ
舞台は終戦から4年後の昭和24年(西暦1949年)。
四百年続く大地主の旧家に次男の仁朗が戦争から復員してくるところから始まります。
この家では仁朗が戦争に行っている間に奇子という妹が誕生していました
しかしこの娘は母が産んだ子ではないことを仁朗は知ります。
なんと奇子は、父が長男の嫁に手を出したことで誕生した曰くの子
しかも兄が遺産相続することを引き換えに
父に嫁を差し出してできた子なのです。
事情を知った仁朗は
これらを平然と容認している家族に
狂った家族だと軽蔑するんですが…
彼もまた人に言えない秘密を抱えていました。
それはGHQのスパイ活動(秘密工作員)として一人の男を運ぶというもの
しかしその男はが妹、志子(なおこ)の恋人でした。
止む無く男を線路の上に置き、礫死体に見せ掛け任務を全うする仁朗。
そしてこの事件をキッカケにこの一家の歯車が一気に狂い出します。
その事件の証拠となる
血のついたシャツを女中の知的障害のある“お涼に見られてしまい
仁朗は口封じのためお涼を亡き者にしますが
それを奇子に見られてしまいます。
天外家の家名が汚れることを恐れた天外一家は
まだ幼子である奇子を土蔵に閉じ込め死んだことにしてしまいます。
何の罪もない奇子は一家の秘密保持のために
数十年もの間、薄暗い地下の土蔵の中で監禁生活を送ることになるのです
やがて20年云年という長い年月が流れます。
奇子は外の世界を知らないまま成長し
胸も膨らみ、初潮も迎え
妖艶な大人の女性へと変貌していきます。
しかし身体は大人に成長するも
外の世界と断絶し育った奇子の精神は純真無垢
全く汚れの無い透明感は幼子そのもの
外見の妖艶さに反して精神面の幼さが共存したアンバランスさは
もはや異様ともいえる女性像になっていきます。
そんな奇子が父の死をキッカケに数十年の時を経て
ついに外の世界に出ることになるのですが
その奇子をめぐってさらに血みどろの群像劇が展開していく
…というのが本作のストーリーであります。
①史実との絡み
これは戦後最大のミステリーのひとつ
初代国鉄総裁、下山定則氏失踪事件
通称「下山事件」を題材として折り込んでいること
作中では「霜川事件」となっていますがほぼ史実に忠実に再現されています。
実際の事件は戦後最大のミステリーと言われる未解決事件で
初代国鉄総裁、下山定則氏が失踪、そして翌日轢断死体として発見され、
自殺、他殺どちらか分からないまま公式の捜査結果を発表することなく
捜査が打ち切られてしまいます。
多くの謎を残したまま迷宮入り事件となった戦後最大のミステリー、
戦後最大の未解決事件、となった曰くの事件であります。
この一件に関して振り下げた記事もありますので
詳しくはこちらをご覧ください。
そして本作では仁朗がこの事件に類似した事件に関与したとして物語に登場、その行動が一家を破滅へと導いていくという重要な役割を担っています
手塚先生は常に実際の時代背景と同化した原作を描きますがこの
複雑に絡み合った因果関係の描き方はまさに秀逸
最後の最後まで事件の黒幕が誰なのか
GHQ,キャノン機関、政治腐敗
当時の日本社会の闇をえぐるように問いかけてくるような重厚さがあり最後まで目が離せません。
謎解き要素とメッセージ性でいえば文学小説にも匹敵するくらい面白い。
匹敵というとマンガの方が下に見ている感がありますが
マンガという娯楽性の強いエンタメの側面から見た場合
娯楽作品としてここまで描き切っているのはもはや神業。
超一流の映画や文学作品に触れたような読後感があります。
戦後間もない混沌とした日本と時代に翻弄された狂った一家の群像劇、
これはまさに必見、秀逸としかいいようがありません。
②主人公不在のストーリー展開
タイトルは「奇子」ですが、
決して奇子は主人公のようなヒロインではありません。
主人公として存在していないという表現が分かりやすいかも知れません。
主役であって主役ではない
ある種見る人によって主人公が変わるお話しです
奇子はあくまでも天外一族の一員としてのキャラクター
むしろ他の登場人物の個性が強すぎ、ほぼ全員が欲望むき出しで攻撃的
そんな個性がぶつかり合う超絶なストーリーであります。
これは手塚作品の特徴でもあるのですが
ストーリーがキャラより強いので極端なこといえばキャラが変わっても
ストーリーは死なない。流れ続ける。
マンガの本質的な面白さとは「原作がすべて」と語っているように手塚作品の主役はキャラじゃなくストーリーなんですよね。
だからこの奇子、めちゃくちゃ面白いのにキャラが立っていない
フィギュアやおもちゃ、イラストなどの作品にならないのがその証拠です
(ヤバすぎて表に出せないだけかも知れませんが…)
とにかく主役はストーリー
人間とは何かをずっと描き続けてきた手塚先生のある種の回答が本作
理解不能な制御できない不条理な行動
それこそが人間そのものなのだと言ってる気がします。
悪意、欲望、出世欲、嫉妬心など
人間のあらゆる黒い面がぶつかり合います。
みんなそれぞれに己の正義を振りかざしているけど
何が正義なのかもわからないのも人間
そんな人間関係の中にあって
唯一、純真無垢な奇子が振り回されていくお話し
そしてそんな純真無垢な奇子に廻りが翻弄されていくお話しでもあります。
奇しくも外の世界に触れるうちにあの純真無垢な奇子でさえ汚れていき
狂気とカオスに満ちた展開が繰り広げられていくのですが
現実社会が如何に汚れた世界であるかを象徴しているように感じます。
最後に奇子が高笑いするシーンなんかは
この物語の本質を感じさせてくれるような気がしますね。
もうね、登場人物が全員ぶっ壊れすぎて鳥肌もん。
これこそまさに狂気
そしてぐいぐいとのめり込んでいくストーリー運びはまさに圧巻
人間の業を描いた黒手塚の傑作たる所以です
この群像劇こそがこのマンガの中心であることは間違いありません。
③暴走した性欲
この作品に描かれているのはまさに狂気の世界
弟とセフレのような関係になるし、兄をも誘惑するし
親父は息子の嫁を寝取るし
近所のおっさんは襲ってくるし
とにかく屈折した性欲が爆裂したマンガです。
目を疑うような
ドロドロの近親相姦劇もエグいですけど
このマンガにある、えも言われぬエロさ
いや…手塚治虫が放つエロさとは一体何だろうって考えてしまいます。
手塚先生より画力が優れている作家は山ほどいるのに
手塚治虫が放つこの何とも言えない爆裂したエロスの秘密は
何だろうって考えると
それは
本当のエロさとは「描かないこと」なんだと思うわけですよ。
見えないエロさ
描いてはいるんだけど恐ろしいくらいアッサリ描いているんですよね。
残虐なシーンもあっさりとグロさを描いている
このあっさり加減がより、エロさと恐怖を引き出させているのだと。
これってホラー映画の原理で
見えないから怖い、分からないから怖いのと一緒
ホラーで本当に怖いものは出てこない
ジョーズも13日の金曜日も出てくるまでが怖くて
登場したら後は視覚で訴える恐怖しかなくなっちゃうというやつ。
エロの原理も同じで
見えそうで見えない
そういう描かない心理的描写がエロさを際立たせているんじゃないかと。
内面的に潜むエロさが秀逸なのであります。
とにかくこの奇子に潜むエロチシズムがハンパない。
ここら辺は変態的な手塚治虫が炸裂しているといえます
これはストーリーにも絡んでくることなのですが
身体は成熟した女性だけど精神は子供という
非常にアンバランスな精神構造を持つ女性って設定がすでにエロい
監禁されているので接触できるのは実の兄弟のみ
奇子の世話役である仁朗の弟、伺朗
彼は唯一、一家でまともな人間でしたが
人間離れした奇子の美しさに惑わされ禁断の一線を超えてしまいます。
奇子は精神面が発達していないので
「好き」という表現が「セックスする」とイコールになっているので世話をしてくれる伺朗と互いに身体を求めるようになるんです。
何なんですか、この設定。
奇子の存在そのものが猛烈にエロいです。
実の兄弟としかセックスをしたことがないとか
相手が誰であれ“セックス”以外の愛情表現を持たないとか
単なるエロスではない異常性が狂気を際立たせています。
しかし狂気でありながらも
実は奇子にとってそれは、無垢な故の行動であり
妖艶なエロスと純粋がゆえのエロスが共存してしまうというカオス。
ここに欲望むき出しの男どもが
群がって血みどろの人間関係が交錯していくという
超絶な物語になっていくんです。これマジでエグい。
登場人物の行動原理が「性」を基本にしているので
とにかくみんな欲望に忠実。
面白い事に、欲望にまみれて育っても
純真無垢に育っても結局「性欲」に辿り着く生命神秘を描いているのは
結局人間ってそういう生物なんじゃないのっていう
手塚治虫の真骨頂も体験できます。
第1話のラストのコマにはハエの交尾が描かれております。
奇子がそれを見つめる意味深なシーンがあるんですが
こんな小さな生物でさえ生殖行動があるんだぜっていう
これから巻き起こるドラマのコンセプトを仕込んでいる
手塚先生のメッセージですよね。
末恐ろしいっす。手塚先生…。
他では味わえないこのエロさ
まさに手塚治虫の黒い部分が炸裂した作品
ぜひとも体験してほしいと思います。
④もうひとつのラスト
この奇子は
やむを得ぬ事情で3巻で終わるのですが
これはまだほんのプロローグと手塚先生は語っています。
「描きたい意欲があり改めてどこかで発表したい」と言っておりましたが
残念ながらこの続きを見ることができませんでした。
これから奇子がどういう波乱を巻き起こしていくのか?
一応完結しているとはいえこの後の展開に、どういう物語を用意していたのかめっちゃ気になりますよね。
ちなみに
2017年に復刊ドットコムから出ているオリジナル版では
単行本には未収録だった“幻”の7ページにわたる別エンディングページが
掲載されております。
最高にオススメの一冊ですのでチェクしてみてください。
☆☆☆本書の特長☆☆☆
1. 雑誌連載時にしか読めなかった幻の別エンディング(計7ページ)も含めて、雑誌オリジナルのページ構成を忠実に再現!
2. カラーのイラスト類も余すところなくギャラリーページに収録!
3. 雑誌連載時の予告、その後の大都社版単行本に所載された手塚先生による「あとがき」をはじめ、第2巻の巻末には図説・解説ページを収録。
というわけで今回は
手塚エロティシズムの頂点とも呼べる傑作「奇子」のご紹介でした。
最後までご覧くださりありがとうございます。
リライトした記事もありますのでどうぞ。
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