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新感染半島 ファイナル・ステージ

ゾンビの高速化が進む昨今、コースレコードを塗り替える新種が、韓国から登場。獲物を見つけるや否や、いきなりトップスピードで襲ってくる“屍”たち。その恐怖ときたら、人智を軽々と超えている。

突如発生した謎のウィルスによって、韓国全土は機能を停止、国民の大半が凶暴化する。命からがら船で脱出した者たちは、香港の地で迫害を受けながらも4年間じっと耐え忍んでいた。そんな彼らにある仕事が舞い込む。ゾンビで占拠された韓国に舞い戻り、取り残された米ドル紙幣満載のトラックを奪取して来いという。片道切符同然の、無謀極まりないミッションは果たして成功するのか?

プロットだけ見ると、ジョン・カーペンターの近未来SF「ニューヨーク1997」を彷彿とさせる。実際、荒廃した都市に潜入し、数々の困難をクリアしながら作戦を遂行していくさまは、オマージュしたのかと思うほどよく似ている。しかし、主人公のキャラクターや脇役たちのディティールは、現代的に大幅アップデート済みなので、アクション映画としてのオリジナリティは、しっかり担保されている。
 
劇中まず目を見張るのは、カーチェイス。高速で移動するゾンビの大軍を、ドリフト一閃、車体の横腹でなぎ倒してみせる。キレっキレのドライビングテクニックを披露していたのは、何と中学生くらいの女の子。助手席には、小学校低学年の妹もいる。姉妹は4年間、ゾンビに支配された“修羅の国”でたくましく生き延びていたのだ。この登場シーンだけで、お金を払った価値は十分にある。ノワール・カーアクションの金字塔「ベイビー・ドライバー」の女性版に出会えるなんて、新年早々縁起が良い。

ここから、ストーリーは一気に展開。最終的には、暴力で街を牛耳っている民兵組織も参戦し、トラック強奪合戦に拍車がかかる。狡猾で執拗な追手が加わったことで、浮き彫りになる真理。

“ゾンビあるある”「生身の人間の狂気のほうが、始末に負えない」

大勢の死人を巻き込みながら、脱出ポイントの港を目指す主人公たち。車両数台によるデッドヒートの中、姉妹のドラテクにもさらに磨きがかかっていく。果たして彼らは、迎えの船まで無事にたどり着くことができるのか?

アクションの迫力とアイディアでは、日本映画を軽く周回遅れにしてしまっている韓国映画。では本作が完璧なのかというと、そうでもない。敢えて苦言を呈するならば、車が疾走する場面で「グランツーリスモ」のゲーム映像を加工したかのような“作り物感”も散見される。これは凶暴化した群衆に対しても言えることで、集団で移動するところなど、とくに顕著に表れる。実写に限りなく近いがゆえに、少しの違和感でも脳内にこびりついてしまう。
切ない場面にしても、仰々しいくらいの悲しいメロディーを持ってくる“いかにも”な演出。若干のあざとさを感じさせ余韻に浸れない。
もちろん、高望みしすぎということは重々承知の上、やればできる子だから!

しかし今回、中学生ドライバーの“キャラ立ち”一発で、それらネガティブ要素は大部分が払拭されたといってもいい。ありがとう、イ・レ。できれば彼女を主人公にした、スピンオフ作品も今後期待したいくらいだ。  
性別や年齢をもろともせず、シリアスもアクションもこなせる俳優が出てくるあたり、韓国映画界の未来はすこぶる明るい。

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