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【R.I.P.】 ジョン・サイクスに捧ぐ 〜不世出のギターヒーロー〜
山積みのギフテッドを抱えた、美旋律の貴公子
2025年1月20日、ギタリスト兼シンガーそして、稀代のコンポーザーであるジョン・サイクスが亡くなった。享年65歳。
天が二物も三物も与えた男、ジョン・サイクス。
ルッキズムが問題視されるようになった近年であっても、ステージ上での彼の雄姿をひと目見れば、その圧倒的な美しさにひれ伏すしかなくなる。
ブロンドの髪を掻き乱し、煌めくブラックビューティーで、極上のピッキングハーモニクスを決めるこの天使は、悪魔の咆哮がごとき音圧でもって複雑なフレーズを構築させる。
レコードやビデオを借りる文化が全盛だった高校時代、学校帰りに行きつけのレンタルレコード屋に寄るのが日課のようになっていた。
当時は、MTVの誕生とともに様々な海外アーティストのビデオクリップが、お茶の間に浸透。
多感な時期、すでにHR/HMの洗礼を受けていた。
数多あるポップミュージックの中から、ハードなギターに特化したメタルバンドを見つけ出すことに血眼になっていたように思う。
80年代初頭のホワイトスネイクといえば、ツインギターで渋めのブルーズを奏でるバンドというイメージだったが、そこへ若きジョン・サイクスが迎えられる。
すでに完成していたアルバム『Slide It In』を、北米向けのリミックスバージョンとして再レコーディング。
若返りに成功したバンドは、アメリカでブレイク。ジョン・サイクスを全面に押し出したビデオクリップは、MTVでガンガン流れていた。
その流麗なギタープレイと、華麗な出で立ちでもって、すっかり虜になってしまった高校生は、早速お目当てのLPレコードを探しにレンタル屋へと向かう。
ポリ塩化ビニールの円盤に針を落とす。カセットテープへダビング。録音しながらのラベリング作り。
この一連の作業が、ジョン・サイクスの映像とともに今、鮮明に思い出される。
しかし、ジョン・サイクスの実力と才能はこんなものではなかった。
1987年に発表されたホワイトスネイクの次作、邦題『サーペンス・アルバス 白蛇の紋章』でとんでもない仕事をやってのける。
「ブっ飛ぶ!」とは、まさにこのこと。
飛び込んできたサウンドは、一聴で脳を焼き尽くす。
ロックの歴史を塗り替えるほどの偉業は、シングルヒットを量産。プレイヤーのみならず、作曲家としての地位をも確立してみせた。
しかしジョンは、ホワイトスネイクに多大な貢献をしたにもかかわらず、ビジネスの暗部とエゴの渦の中、成功の美酒を味わう前にバンドから解雇されてしまう。
不屈の男、ジョン・サイクス。
1989年に自身がリーダーとなる最強の3ピースバンド、ブルー・マーダーを結成。バンド名を冠したデビューアルバムを携え、表舞台に見事返り咲く。
ここでは、荘厳なギタープレイに加え、自らもリードヴォーカルを取るという新機軸を披露。ホワイトスネイク時代を凌駕するほどの完成度をみせつけてくれた。
「お前が歌うんかい?」的な中傷とは無縁の、「お前しか歌うな!」状態。
ジョン・サイクス無双。
ブルー・マーダー、ソロ名義のバンド「Sykes」、再結成シン・リジィなど、2000年代初頭までコンスタントにアルバムを発表し、都度来日公演も果たしてくれていたが、2004年のライブアルバム『Bad Boy Live!』の発表、2009年のシン・リジィ脱退後は、音楽シーンから遠ざかってしまう。
2019年、やっとやる気を出してくれたのか、突如としてニューアルバム制作のニュースが流れる。
だが、その後どういった経緯があったのか新作発表には至らず、お蔵入り。ついぞ日の目を見ることはなかった。
そして2025年1月、ガンとの闘病の末、永眠。
ここ15年ほどの間、まったくといっていいほど音沙汰のなかったジョン・サイクス。
時折、過去のアルバムを聴き返したり、配信サービスで耳にしたりして彼の音楽に断続的に触れてきた。
「早く活動を再開しろよ」と無責任に祈っていた。
振幅の大きいビブラート、どこまでもつづく切ないロングトーン、鬼神のような速弾き、空気を切り裂くピッキングハーモニクス。そして、甘くあたたかい歌声。
生前最後のスタジオアルバム『ニュークリア・カウボーイ』(2000年)の中のパワーバラード『I Wish It Would Rain』で、大いに泣かせてもらおう。
ありがとう、ジョン・サイクス。
追伸。ジョンの盟友カーマイン・アピスが追悼のメッセージとともに紹介してくれていたスタジオライブを貼っておきます。合掌。