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佐々木、イン、マイマイン

もうすぐ27歳になる男が、高校時代につるんでいた悪友たちに思いを馳せるとき、少しずつ自分を取り巻く状況が動き出す。
 
昔好きだった「日本ATG(アート・シアター・ギルド)」作品によく似たテイストで、スクリーンからインディペンデントの心意気が伝わってくるよう。出演する俳優陣の中で名前を知っていたのは、村上虹郎ただ一人(それにしても、虹郎って… 横溝正史の『真珠郎』のライバルになり得る、ファンタジー色満載の素敵な名前!)。俳優といえば、ATG作品の常連だった松橋登さん、今はどうしておられるのかなぁ? 昭和50年代、病欠中の午前にテレビで観た「心(こゝろ)」や「金閣寺」。日本を代表する文豪の原作だとはつゆ知らず、喘息もちの小学生は、画面上で展開される摩訶不思議で毒々しい世界に圧倒されっぱなしだった。思えば、ぜぇぜぇと肩で息をしながら感じたこの体験が、のちの映画好きにつながったのかも。当時、松橋登の顔が好きでたまらなかった。草食系男子の元祖だと言っても、決してオーバーではなく、このご時世なら共感してくれる人も相当数いるはず。

で、「佐々木、イン、マイマイン」。編集の巧みさで、現在と高校時代を行ったり来たり。この頃合いが絶妙で、映画の世界にずっと浸っていたいと思わせる。自分も高校生になって、あの4人組に加わりたいと切望しても決しておかしくない。
 
自分の高校時代には、この佐々木みたいなやつには終ぞ出会わなかったけれど、よくよく考えると、成人してから自分にもいたんだよな、“佐々木”的な友人。ちょうど主人公の現在の年齢のころに自分も出会っていました。

ホノルルマラソンのツアーで知り合ったその男は、学年で言えば1コ下。自分の周りにはそれまでいなかったタイプで、山口から出てきて大阪で一人暮らし。どうやって生計を立てていたのか最後まで謎で、麻雀が強く、左利き。最新のガジェットに目がなく、カネは無いはずなのに、たまにポンと大きな買い物をしてしまう(さすがに、ハーレーダビッドソンを新車で買っていた時には、腰から崩れ落ちました)。   
唯一、佐々木と違っていたのは、甘いマスクと聞き上手で褒め上手。無双のコミュニケーション能力で、女にも相当モテていたこと。当時、巷で流行っていた「ねるとんパーティー」なる合コンイベントで、彼が手にした連絡先は、他の男の参加者が脅威を感じるほどでした。あるいは、嫉妬を飛び越え、殺意を抱かせていたレベルかもしれません。例えが古くて申し訳ないが、全盛期の竹脇無我が目の前に現れたと、個人的には思っていました。本人には伝えてないけど。
 
のらりくらりと、良識のレールをはみ出さないように生きてきた自分と、そんな型破りな男がどうして仲良くなったのか。それは「映画」。ホノルルからの帰り、たまたま隣同士の席になり、関空に着くまでずっと、お互いがこれまでに観てきた映画の感想を述べあうという至福の時間を共有できたこと。このことに尽きるのです。映画だけにとどまらず、彼も乱読派で、いろんな作家のエンタメ小説を読んでいたことも、二人の距離を縮めた要因。京極夏彦を自分以上に読み込んでいる人間が近くに存在したとは、まさに驚きとしか表現しようがなかったなぁ。

彼と佐々木との最大の共通点は、その部屋の汚さ。「誰か入ってきて、自爆テロでも起こしたんか?」と、部屋に招かれるたびに問い詰めたのが昨日のことのようです。
あっ、それともう一つ。この映画の佐々木と彼との決定的なシンクロ場面は、映画のラスト。大団円に至る展開は、「号泣タオル」の登場が必至の状態になりました。この「号泣タオル」、命名したのは彼で、映画館に行くとき必ず持参するタオルを彼はそう呼んでいたのです。そして、今現在、自分も彼に倣って号泣タオルを持ち歩いている次第。

個人的な思い入れのため、まともな評価ができていないですが、本当によくできた映画であることは間違いないです。とくに童貞をこじらせた、サブカル少年の成れの果てみたいなおじさんは、心をキュンキュン揺さぶられることでしょう。今冬、自分自身の“佐々木”を探しに出歩くのも一考かと。

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