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通訳は言葉を伝える仕事じゃない

ダイゼンです。
4年間通訳をメキシコでしていました。が5月をもって辞める宣言します。

もちろん円満退職です。
通訳をしていた4年間は考えることがたくさんで、もちろん学んだ経験値は計り知れないです。
ここではキャリアチェンジするきっかけになった「デザイン」と絡めてわかった通訳としての仕事について書いていきます。(ほぼ独自の方法論の話です)

☝️先に断っておきますが、あくまで自分の通訳の方法論であり、アウェイなやり方だと思います。ですので、一つの意見としてご覧ください。また会社員通訳だったからできたという前提もあります。


デザイン思考で身に付けたプラスアルファ

本業のかたわら、細々とUXデザインの勉強をしていました。デザインと通訳の仕事が線となり結びつたことについては過去のnoteでも書いているので是非。

デザインを勉強した時は、見た目のデザインが感覚的に好きだったから「グラフィックやるぞ!」「サイト作るぞー!」という感じだったのですが、本質的じゃないなと思うようになりました。

グラフィックデザインがみんなに響かなかったら?
何のためにそのデザインは存在するのか?
どんな風にしたら伝わりやすいんだろう?
相手の気持ちは?
他の伝え方があるんじゃないか?

Why・How・Ifを考えるとなぜわたしはグラフィックやマークアップ言語を勉強している意味が全くわからなくなりました。この時点で理解できたことが「デザイン≠表層のデザイン・グラフィック」ではなく、「デザイン=受け手と発信者、それぞれの目的を達成するための構造をつくること」ということ。

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通訳でも全く同じことが起こりました。言葉ってあくまで表面の話で、通訳する本質があるはず、と。

翻訳した言葉が伝わらなかったら?
何のために伝えているの?
どんな風に受け止めているんだろう?
他の伝え方があるんじゃないか?

「なぜこの言葉を伝えないといけないのか?」と、通訳でもWhy・How・Ifを考えることで、ただ言葉を訳すことの意味がわからなくなっていきました。

どうやって自分の業務を改善したら良いのかが全くわかりませんでした。
表層のデザインや言葉の奥にある、根本となるものがあるはず。
「なんで」と過去を掘り下げたり、「他の方法があるんじゃないか」と考えに考え、とにかく本や記事を読んで、自分の中での「通訳のあり方」を固めようと思いました。(以下関連する読んだ本)



ユーザー体験の5つの段階からのひらめき

上記のように、グラフィック・表層だけのデザインに疑問を持っていたわたしは、自然な流れでユーザーエクスペリエンス(UX)に関心を持ちます。
そこで出会ったのがJesse James Garrett 氏が考案した概念である「UXの5つの段階」。

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UX TIMES [UXを構成する5つの段階を振り返る]より拝借

自分が作りたいデザインを作っても誰からも評価はされない、何のために作るのか?と考えていると、この5段階の下層にある「戦略」の部分が必要になってきます。
利用者のニーズや何のためにその製品が存在するのかを定義しない限り、上層の「要件」「構造」「骨格」「表層」に結びつけることは不可能です。

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通訳の話に戻ります。
デザインと通訳を全く別のものと捉えていましたが、この理論に出会ってから、通訳としての考え方も変わっていきました。
そう、通訳も表層の「今言っている言葉」だけでは、コミュニケーションが取れないことに気付きました。
もちろん経験を積む毎に、会社の戦略や目標、メキシコの文化を理解していたので、そこに基づいた通訳をしようとはしていました。
しかし、この理論をベースにちゃんと言語化できる、通訳としての在り方が変わると確信しました。

そこで上記の「UXの5つの段階」を通訳の仕事に置き換えて、再解釈してみました。

画像2

きちんと5つの段階を理解しておかないと、いくら文法や単語をきちんと理解していても、誤解や反発が発生してしまいます。

上図の右側に例を挙げてみました。

🎄今年のクリスマスプレゼントは無しだ!

という上司から経費削減のメッセージがあるとします。

単に文法整理をすれば上記の「骨格」「構造」の部分で十分です。

(骨格のみ)
「今年の(いつ)/クリスマスプレゼントは(何の話)/無し(すること)/だ!(断定)」
(No hay regalo de navidad en este año)

骨格のみだと、「無し」が何の文脈かよくわかりません。だから構造をプラスします。

(構造をプラス)
「だ!(断定)/買わない(すること)/クリスマスプレゼントは(何の話)/今年の(いつ)」
(No vamos a comprar el regalo de navidad en este año)

しかし筆者の住んでいるメキシコではクリスマス🎄は大変重要な行事。
これを削ってしまうと、従業員のモチベーション低下や帰属意識低下にもつながってしまいます。

つまり、この上司の言葉をダイレクトには伝えることができない。
かと言って、命令に背いて、クリスマスプレゼントを極秘に購入することはできません。

これが「コンテクスト」「文化」の部分。
デザインでいうところの「要件」のこと。

上記の構造の部分までをダイレクトにメキシコ人に伝えてしまうとコンフリクトになってしまいます。

だからコンテクストを理解することはマストです。

さて、最後に言い方を考えることです。
なぜ上司はクリスマスプレゼントを買わないという命令をしたいのでしょうか?

私腹を肥やすためではない限り、確固とした理由が存在するはずです。
要はバックボーンや根拠を知ることです。
これが上記の「目的・目標・戦略」のことです。
(さらにここも深堀っていけば、目的→目標→ミッション…となります)

ここではその上司の発言の意図を以下と定義します。

(経費削減30%を目指して、従業員の雇用を守りたい)

この背景を知っていれば、あなたがクリスマスを大事にする従業員でも納得するでしょう。
だって、クリスマスプレゼントを買わなければあなたの雇用は守られるし、買えば雇用されるという保証はなくなってしまいます。

5つの階層全てを考慮した上で、雑多なメッセージを翻訳してみましょう。

経費削減30%を目指さないと、従業員みんなの雇用を守れない。
だから今年はクリスマスプレゼントを買うことができない。
(No podemos asegurar el trabajo de todos nuestros empleados, si no logramos 30% de reduccion de gasto. Entonces no podemos comprar el regalo de navidad en este año)

翻訳としては長くなります。
でも直訳で伝えた内容でコンフリクトが発生し、また説明するということを考えると、この一文で解決するなら、長くてもOKだと思っています。

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他の例をあげると、みんな「システム化」という言葉が大好きなようです。
マネジメント層は「システム化」という言葉を理解して使っています。
この言葉も同様に、使う対象によって言葉を変えていました。

対日本人
システム化→体系化

「システム」という言葉自体にテクノロジーを連想させてしまうので、あえて漢字で連想できる言葉に変換しました。

対メキシコ人 オペレーター
システム化→習慣化

「システム」と聞くと、自分の住んでいる世界とは違った世界の話に思えてしまいます。(親近感が湧きません)
上述の通り、「システム」という言葉がテクノロジーを連想させてしまい、自分は機械じゃない!と思わせてしまうかもしれません。

この言葉を自分ごとにしてもらうためには、「人らしい言葉」に置き換える必要がありました。
結果、「ルーティン」「習慣」という言葉がフィットします。

もちろん、「システム」と言っても通じないことはないです。理解してくれます。
しかし、自分たちが住んでいるコンテクストに合わせて言葉を変えないと本質は伝わりません。

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さてこの発想で「誰に対して」「どんなコンテクストか」を理解して翻訳をすると、言葉がみるみる伝わるようになりました。(私の感覚値)
もちろん、ユーザーエクスペリエンスの概念になぞっていますが、ユーザーはわたしたち通訳にとって「発信者」「受信者」であり、通訳を使ってくれる人のことです。
彼らの体験価値をあげるには?と考えた結果、この5の階層に当てはめることができたのです。

さて、わたしは4年メキシコに住んでいますが、たった4年ではスペイン語レベルは素人も同然。
そんなわたしのスペイン語レベルでも思考さえ変えれば、ちゃんと伝えたいことは伝えられるし、情報伝達が早くなることに気がつきました。


抽象と具体の連続

上記のUXの5の階層が原則となり実践をしてみて感じたことが、戦略や目的や目標が抽象であり、今発言したいことが具体であることに気がつきます。

ぼんやりした抽象的なビジョンやミッションに対して具体的な行動に起こす、これを頭に入れておけば、大体の話は理解できるというカギを見つけました。

通訳でよくあることが、自分の知らないテーマに対する会議や翻訳を求められること。
例えば、別の通訳が担当していた内容を自分が急遽対応しないといけない、すでに進んでいる話を上司に報告しないといけないなど、そんなシーンです。

一般的に通訳を頼む人が重要視していることは、わたしたち通訳に理解してもらうことではなく、受け手である上司や伝えたい相手に理解してもらうことです。
そのため前提の理解や前説明なく、いきなりテーマを切り出されることは多々あります。
(時間があれば、前もって内容を聞いておくことはあります。二度手間になるので、よっぽど余裕のある時しかできません)

さて、こういったシーンではどのように対応すべきか。
抽象と具体を理解することです。順序は以下のようにして実践していました。

1. 全体を俯瞰して、結論を探す
2. グラフなど、基本的なデータの読み方について掴む
3. データや現状から言いたいことを探る
4. 翻訳

具体と抽象の例

現実的にこの作業を秒単位で行わないと、通訳なんてできません。
スライドをみた瞬間に、このページでは何が言いたいのかを瞬時に読み取っていく必要があります。
目でスライドを理解し、耳で話をキャッチする。(言語化するとなんと恐ろしい作業)

大体全くわからない話から入ることが多いので、即席で自分でキャッチした具体的な情報から、抽象へと広げていきます。
一度全体像(抽象)が掴めると、その後の通訳は格段にやりやすくなります。
最初に抽象的な仮説を作った上で具体的な話を聞いて仮説を事実に変えていきます。

具体と抽象の頭の中

この具体化と抽象化の繰り返しで、今話している内容の言いたいこと、目的が見えて、話を簡単に理解することができます。


通訳はあなたの言葉を訳していない

この「通訳」とはわたしです。
発信者の言葉を訳していないと不安がられます。
中には発信者が言った通りにチェックし出す人もいるでしょう。

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ちょっと筆者の話を。
1年目、入社した時に担当になった日本人に「通訳が意思を持ったらだめだよ」と言われました。
言っていることは一理あって、勝手に言葉の意味を変えてはいけない、できるだけ言っている本人のテイストや意味合いを伝えてあげようと徹していました。

でも本質的に、なぜ会社に通訳が必要なのか?と考えたときに、彼らは「日本での成功体験を海外でも展開をして、さらなる事業の拡大をさせる」ということに行きつきました。

日本での成功体験という部分がミソですが、そのやり方をそのまま適用しても、伝えたいメッセージ自体がローカライズしていないので意思疎通や分断につながっていると感じていました。

そこで、ただ彼ら「日本人」が言っていることを言語を変えているだけだと、そもそもの会社の目的を達成できていないんじゃないかと思いました。
要は「ローカライズ」するということが圧倒的に不足していました。

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例えば、「部下」という言葉を訳したりしません。
日本だとヒエラルキー構造であることは中学生の部活からなんとなくしみついてて、先輩・後輩、部下・上司、年上・年下という呼び方はごく一般的に感じられます。

部下という言葉はスペイン語にすると、Subordinado。
最初の頃は言っていることをちゃんと訳すことに徹していたので訳していましたが、その文化に生きてみて、どうも違和感。

そこから「Tu gente」という言い方に変えました。日本語にすると「あなたの(チーム)人たち」。
Facebookが「ユーザー」という言葉から「The people」という言葉に変えたことが有名です。

同じような感覚で、「部下」というヒエラルキーの上下構造を示す言葉から、「仲間」のような言葉に変えることで、受け取り方が変わるのかなと思いました。

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文化やコンテクストを知ることで、日本で共有されてきたコンテクストが全く違うことに気づきます。
だから言語のローカライズをすることは、「言葉を訳す」ことではなく、「理解をした上でその文化にフィットする」ことが重要です。

だから心配しないでください、通訳があなたの言ったことを一字一句間違いなく訳していなくても。
例えば怒っていることは訳さなくても雰囲気でわかります。
人には共通の言葉「感情」があるので、通訳の役目は「なぜ怒っているのか」と理由を説明してあげることです。
一番避けたいことはコミュニケーションができなくなることです。
(怒っている時の言葉まで訳して、相手がその怒っている人のことを苦手と感じてしまったら、いいコミュニケーションは生まれません)


なぜ通訳をするのか

最後に繰り返しになりますが、通訳を使う本質的な目的は「行動させたい何かがある」からです。
意思を伝える、理解してもらうことがゴールではなく、その後の結果を望んでいるから人はコミュニケーションをすると思います。

もちろん単におしゃべりしたい、という人もいますが、何のためにおしゃべりするのか?と考えると「仲良くなりたい」「関係を築きたい」といった理由が存在するでしょう。


上記で「通訳はあなたの言葉を訳していない」と書いたことを若干撤回しますが、通訳を使う目的が「おしゃべりをして、関係を築きたい」などであれば、発信者の色を残すようにしてます。
100%モノマネをして通訳することは無理です。60%は通訳が補って、残り40%は本人の挙動や表情から出ているので、完璧を目指す必要はないと考えます。


このnoteで書いた内容はあくまでわたしダイゼン の考え方であり、会社員通訳を4年間(少ないですが)やったからこそ得られた知見です。
この方法がすべて正しいわけではないのですが、通訳の在り方が少しずつ変わってきているような気もしています。
機械翻訳はわたしが翻訳作業している時も使います。相手の言語が若干わかる人もいます。
機械翻訳であれば、もはや通訳はいらない部分も発生しています。
それでもなんで通訳を必要としているのか?




通訳を「ローカライズのプロ」「コンテクストの翻訳者」という風に考えてもいいのかもしれません。

だからわたしは「通訳」という既存のコンセプトだけでは限界を感じてしまったので、通訳を辞めることにしました。
「コンテクストの翻訳者」という位置付けをもっと極めたい、という想いからUXデザイナーとUXライターを駆け出しで始めました。

以上、長くなりましたが、ここまで読んでいただき大変ありがとうございます。
既存の通訳の概念を破壊するような書き方でしたが、通訳という仕事はとても楽しく、誇りを持てる仕事です。
もし、このnoteに共感し、通訳・翻訳(UXライティングも歓迎!)のお仕事をわたしに頼んでみたいと思われた方は、以下のリンクからお問い合わせください。
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